レティアは、公爵家の闇を暴くための行動を起こす準備を整えつつあった。手に入れた帳簿や記録から、公爵家の裏で行われている不正取引の実態を掴んだ彼女は、この結婚の真の目的を理解した。そして、それが自分を利用するためだけのものだったことに激しい怒りを感じていた。
「私を駒のように扱った代償を払わせてやる。」
冷たい結婚生活の中で押し殺していた感情が、復讐という形で表に出始めていた。彼女は孤独の中で、戦う力を育てていた。
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レティアはまず、屋敷内で信頼できる協力者を見つけることから始めた。彼女が頼ることができる人物は限られていたが、長年公爵家に仕えている老執事だけは、彼女に対して一定の敬意を示してくれていた。
ある日、彼女は執事を自室に呼び出し、静かに口を開いた。
「私は、この家の真実を暴こうとしています。」
その言葉に、執事は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「奥様、どのようなお考えで動かれるにせよ、非常に危険な道です。それをご承知の上で?」
レティアは頷いた。その瞳には、これまで執事が見たことのない強い意志が宿っていた。
「私は、この家の陰謀に加担するつもりはありません。そして、私をこんな形で利用したことへの報いを受けさせるつもりです。」
執事はしばらく沈黙していたが、ついに静かに言葉を返した。
「もし私が力になれることがあれば、どうかお申し付けください。」
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レティアは執事の協力を得て、公爵家の不正を暴露するための計画を練り始めた。彼女はまず、公爵家の取引相手や裏金の流れを記録にまとめ、それを証拠として保存することにした。また、信頼できる外部の協力者を見つけるため、幼少期からの知人や父の影響力を利用することも考慮に入れた。
しかし、この計画を進める中で、ライオネルや彼の一族に気づかれる可能性も十分にあった。彼女は慎重に行動しなければならなかった。
ある晩、執事が静かにレティアに報告を持ってきた。
「奥様、公爵様の最近の動向について、気になる点がございます。」
その内容は、ライオネルがさらなる不正取引を計画しているというものだった。彼は国の重要な資源を他国に密輸するための交渉を進めており、それが発覚すれば公爵家全体が危機に陥る可能性があるという。
「それが事実なら、私が動くべき時が来たようね。」
レティアの声には、冷たい決意がこもっていた。
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翌日、レティアは屋敷を出る準備をした。彼女は自分が行動を起こしていることをライオネルやその一族に悟られないよう、あくまで日常の外出を装った。そして向かった先は、父の旧友であり、現在も侯爵家に近しい立場にある人物の邸宅だった。
その人物、マーカス侯爵は、かつてレティアが幼少期に世話になった人物であり、彼女の父とも信頼関係を築いていた。レティアは彼に会うと、持参した帳簿や記録を見せ、公爵家の不正について詳しく説明した。
「これが公爵家の真の姿です。そして、私はこの状況を正すために戦いたい。」
マーカス侯爵は驚きつつも、彼女の話を黙って聞いていた。そして最後に、彼女に深く頷いた。
「君の勇気に感服するよ、レティア。しかし、これは非常に危険な戦いになる。君はその覚悟ができているのか?」
レティアは毅然と答えた。
「もちろんです。私がこの家に嫁がされた理由を知り、それを受け入れるわけにはいきません。このまま沈黙している方が、私にとっては屈辱です。」
その強い意志に心を打たれたマーカス侯爵は、自らも協力することを申し出た。彼の権力と影響力を使い、公爵家の不正を公の場に引き出すための支援を約束してくれた。
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帰りの馬車の中、レティアは静かに窓の外を見つめていた。街の灯りが次々と流れる中、彼女の心には奇妙な冷静さが広がっていた。
「これで終わりにする。私の人生を、彼らの都合で支配させるわけにはいかない。」
その夜、彼女は自室に戻ると、改めて計画の詳細を整理した。今後の行動を練り直しながら、彼女の胸には新たな覚悟が芽生えていた。
「冷たい真実を突きつけられた今、私は自分自身で未来を切り開く。」
その言葉を胸に刻み、レティアは冷たい結婚生活の中で初めて、自分の意志で行動を起こす日々を迎えることとなる。彼女の戦いは、まだ始まったばかりだった。