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第9話 財政記録に隠された真実

 レティアは、公爵家の財政記録をさらに徹底的に調査するため、資料室にこもる日々を送っていた。彼女が手にした帳簿には、金額や取引先の名前が綴られていたが、その一部があまりにも不自然だった。何度も見返しているうちに、彼女は重大な事実に気づく。


 「これ…父の家が取引先として利用されている?」


 表向きの記録には、彼女の父親が侯爵家として協力を申し出た形跡が記されていた。だが、それは事実ではなかった。



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 レティアの父であるエリオット侯爵は、名誉を重んじる人柄で、こうした不正に加担する人物ではなかった。記録を見る限り、彼の名義が勝手に使われており、実際には何の関与もしていないことが明らかだった。


 「父を巻き込んでまで、自分たちの利益を守ろうとしたのね。」


 その瞬間、レティアの中で燃え上がる怒りが頂点に達した。公爵家の人間は、彼女だけでなく、彼女の家族の名誉まで利用しようとしている。その事実に耐えられなかった。



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 彼女は記録をさらに詳しく調べることにした。他の帳簿や書類を読み解くうちに、公爵家が行っている不正取引の全容が見えてきた。それは単なる金銭的な汚職にとどまらず、周辺国との密輸や、他国への重要な資源の流出にも関与していることが判明した。


 「これが明るみに出れば、公爵家の地位は間違いなく失墜する…。」


 その確信が、彼女にさらなる行動の勇気を与えた。



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 ある日、資料室で古い書類を読み漁っていると、ライオネルの署名が記された契約書を発見した。そこには、彼が密輸計画を主導していた証拠がはっきりと記されていた。


 「これを証拠として使える…。」


 ライオネルが外出中の隙を見計らい、レティアはその契約書を慎重に自室へ持ち帰った。彼女はそれを安全な場所に隠しながら、次の行動を計画し始めた。



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 しかし、記録を調べる中で、さらに驚くべき事実に直面した。公爵家が利用していたいくつかの取引先は、実際には存在しない架空のものだった。そして、それらの架空の取引先は、彼女の父親の家の名前を隠れ蓑にして利用されていたのだ。


 「私の父の名誉を汚すだけでは足りず、こんな姑息な手を使って…。」


 彼女の拳は震えていた。自分の家族が利用され、彼女自身が結婚という形で操られていたことが、彼女の怒りをさらに煽った。



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 その夜、レティアは冷静さを取り戻すために深呼吸を繰り返した。怒りだけで行動するのは危険だと理解していたからだ。彼女は書類を整理し、自分の計画を再確認した。


 「私は、ただの犠牲者で終わるつもりはない。」


 彼女の中で、これまでにない力強い決意が芽生えていた。それは、冷たい結婚生活の中で育まれた強さだった。



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 翌朝、レティアは朝食の席に座り、ライオネルが現れるのを待った。しかし彼は、またしても彼女を無視するかのように席に現れなかった。使用人が彼の外出を告げると、彼女は静かに微笑みながら答えた。


 「分かりました。それでは私は自分の予定をこなします。」


 彼女は使用人に冷静な態度を見せつつも、心の中ではさらなる怒りと覚悟を燃やしていた。彼が家を留守にすることが多い今が、自分の計画を進める絶好の機会だった。



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 その日の午後、レティアは公爵家の書類を一つ一つ整理し、すべての証拠をまとめ始めた。密輸計画、資金の流れ、架空取引先のリスト、そしてライオネルの署名入りの契約書。それらを一つのファイルに収め、信頼できる協力者に渡す準備を整えた。


 「これだけの証拠があれば、公爵家を追い詰めることができる。」


 彼女の表情には、これまでにない自信が漂っていた。



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 夜になり、彼女は寝室で再び書類を確認していた。その時、廊下から微かな足音が聞こえた。誰かが扉の前に立ち止まり、動く気配がしたが、結局扉が開かれることはなかった。


 「私を監視しているのね…。」


 彼女はその気配を感じ取りながらも、冷静さを保った。この監視が意味するのは、自分の行動が一部察知されている可能性があるということだった。しかし、それでも彼女は動じなかった。


 「監視されているなら、なおさら急がなければならない。」


 その夜、レティアは計画を次の段階に進める決意を固めた。冷たい結婚生活の中で、自分の力で真実を暴くという覚悟が、彼女を突き動かしていたのだった。



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