不正取引の全貌を掴んだレティアは、その膨大な証拠を基に公爵家を追い詰める計画を立て始めた。だが、一人でこの計画を進めるには限界があることを理解していた。彼女には協力者が必要だった。信頼できる人物を慎重に選び、彼らの力を借りて行動する必要があった。
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まず、彼女が頼ったのは老執事だった。彼は公爵家に長年仕えてきた人物でありながら、レティアに対して親身に接してくれる数少ない使用人の一人だった。
夜、レティアは執事を自室に呼び出し、慎重に話を切り出した。
「あなたには、公爵家の現状をどうお考えか伺いたいのです。」
執事は一瞬表情を曇らせたが、深く息を吐き、静かに答えた。
「奥様、公爵家が抱える問題について私は何も知らない、とは言えません。しかし、長年ここに仕えてきた身として、公の場でその事実を話すことはできません。」
その慎重な返答に、レティアは頷いた。
「もちろん、すべてをお話しいただく必要はありません。ただ、私はこの家の中で唯一、何かを変えられる立場にいます。そして、あなたの助けが必要なのです。」
執事は彼女の目をじっと見つめた後、小さく頷いた。
「奥様のご意志が揺るぎないものならば、私も微力ながらお力添えさせていただきます。」
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次に、レティアは父の旧友であるマーカス侯爵に手紙を送り、密かに会合を持つことを提案した。マーカス侯爵は父エリオット侯爵と長い間親交があり、若い頃からレティアにも優しく接してくれていた信頼できる人物だった。
数日後、マーカス侯爵の邸宅で、レティアは彼と対面した。彼女が持参した証拠書類を見せながら、彼女の計画と公爵家の不正について説明すると、マーカス侯爵は眉をひそめ、しばらく黙り込んだ。
「レティア君、この事実を暴露することがどれほど危険なことか分かっているのか?」
彼の問いに、レティアは毅然とした態度で答えた。
「ええ、分かっています。しかし、このままでは父の名誉も、私自身の人生も踏みにじられたままです。それを黙って見過ごすわけにはいきません。」
その強い意志に心を打たれたマーカス侯爵は、深く頷き、協力を約束した。
「君の勇気を無駄にはしない。私もできる限りの支援をしよう。」
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その後、レティアは屋敷の中で密かに協力者を探し始めた。使用人の中にも、公爵家の不正に対して不満を抱いている者がいる可能性があると考えたからだ。
ある日、彼女は台所で働く若いメイド、クラリスに声をかけた。彼女は控えめで目立たない存在だったが、レティアが以前から感じていた通り、どこか真面目で正義感の強そうな印象を持っていた。
「クラリス、少しだけお話ししたいことがあります。」
突然の呼びかけに驚いた様子を見せたクラリスだったが、レティアの優しい口調に安心したのか、静かに頷いた。
「奥様、何でしょうか?」
レティアは周囲を警戒しながら低い声で話を続けた。
「この家で働いていて、何かおかしいと思うことはありませんか?」
クラリスは目を泳がせながら、答えるべきかどうか迷っている様子だったが、やがて意を決したように口を開いた。
「実は…何度か変な荷物を見たことがあります。他の使用人たちも話題にしていましたが、誰も深く追及しませんでした。」
その言葉を聞いて、レティアは確信を得た。クラリスもまた、公爵家の秘密に気づいている一人だったのだ。
「クラリス、私はこの家の不正を暴くつもりです。あなたの助けが必要です。」
その真剣な言葉に、クラリスは驚いた表情を浮かべたが、次第にその瞳には決意の色が宿り始めた。
「もし私でお役に立てるなら…全力でお手伝いします。」
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こうしてレティアは、少しずつ信頼できる協力者たちを集めていった。執事、マーカス侯爵、クラリス。それぞれが彼女の計画を支える重要な存在となった。
夜、自室で書類を整理しながら、レティアは自分が一人ではないことを感じていた。
「私には、信じてくれる人たちがいる。だからこそ、負けるわけにはいかない。」
その思いが、彼女にさらなる力を与えていた。冷たい結婚生活の中で燃え上がった怒りと決意は、協力者たちという形で形になりつつあった。
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レティアは、集めた証拠と協力者の力を元に、公爵家の不正を暴く準備を本格的に始めた。その計画の全貌はまだ明確ではなかったが、彼女の心には確かな目標があった。
「私を道具として利用した代償を、必ず払わせる。」
その言葉を胸に秘め、レティアは復讐の道を歩み始めたのだった。