レティアは計画の基盤を整えた。手に入れた財政記録や協力者たちの情報を整理し、公爵家の不正を暴露する準備は整いつつあった。しかし、その計画を実行に移す前に、彼女には一つやらなければならないことがあった。夫ライオネルに直接対峙し、自分の意思を明確に示すことだった。
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その夜、ライオネルが屋敷に戻ったタイミングを見計らい、レティアは彼に話があると声をかけた。ライオネルは、彼女の言葉に面倒そうな表情を浮かべながらも、冷淡に応じた。
「何だ、こんな時間に。」
彼女は微笑みながら、しかし鋭い目で彼を見つめた。
「あなたとお話しする機会がなかなかないので、この機会を逃したくないのです。」
その一言に、ライオネルは軽く肩をすくめ、廊下の先にある小さな応接室に彼女を促した。部屋に入ると彼は椅子に深く腰掛け、面倒事に巻き込まれる覚悟を決めたように見えた。
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レティアは正面に座り、静かに話を切り出した。
「あなたがこの家を支えるために、何をしているのかについてお聞きしたいのです。」
ライオネルは彼女の言葉に、わずかに驚きを見せた。だが、すぐに表情を引き締め、皮肉混じりの声で返した。
「君が知る必要のないことだ。」
その冷たい言葉に、レティアは心の奥底で湧き上がる怒りを抑えながらも、冷静さを保った。
「いいえ、私はこの家の公爵夫人です。この家の未来に関わる問題について知る権利があります。」
彼女の毅然とした態度に、ライオネルの目がわずかに鋭くなった。
「未来?この家の未来は、君がどうこうできるものではない。君はただ、ここにいるだけでいいんだ。」
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その言葉に、レティアは微笑みを浮かべた。その微笑みは、これまでの彼女の姿とは違い、自信と覚悟に満ちたものだった。
「そうですか。では、私がこの家の秘密を暴露した場合、その未来がどうなるか、お考えになったことはありますか?」
その一言に、ライオネルの表情が一瞬硬直した。だが、すぐに冷笑を浮かべ、彼女を見下すように言い放った。
「ただの駒に過ぎない君が、一体何をするつもりだ?」
その挑発的な言葉に、レティアは眉一つ動かさず答えた。
「駒かどうかを判断するのは、私自身です。そして、私にはこの家を守る意思も、あなたに従う義務もありません。」
彼女の言葉には、これまで見せたことのない強さが込められていた。ライオネルは短く息をつき、彼女を観察するような目で見つめた。
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「それで、君はどうするつもりだ?」
彼は問いかけたが、その声にはわずかな苛立ちが混じっていた。それは、彼女の行動が自分の想定外であることを示していた。
「あなたが何をしていようと、私は公爵夫人としての責務を果たします。それ、がこの家の腐敗を正すことであれば、そうするまでです。」
その言葉に、ライオネルは椅子から立ち上がり、彼女に一歩近づいた。その姿は威圧的だったが、レティアは一歩も引かなかった。
「君は、自分が何を言っているのか理解しているのか?」
彼の問いに、レティアは微笑みを浮かべながら答えた。
「もちろんです。そして、それを実行する覚悟もできています。」
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その場にしばらくの沈黙が流れた。ライオネルは彼女を睨みつけるように見つめていたが、結局何も言わずに部屋を出て行った。その背中を見送りながら、レティアは深く息を吐いた。
「私を軽く見た代償を、必ず払わせる。」
その言葉は、ただ自分に向けられたものだった。彼女の胸には、冷たい怒りと共に、揺るぎない覚悟が宿っていた。
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ライオネルとの対峙を終えたことで、レティアの計画は次の段階に進むこととなった。彼の反応から、公爵家の不正に対する確信をさらに深めた彼女は、自分の行動が正しいことを証明するために、全力を尽くす決意を新たにした。
「これからが本当の戦い。私は一人ではない。」
協力者たちの顔を思い浮かべながら、彼女は自室に戻り、次なる行動を練り始めた。復讐の始まりは、確実にその歩みを進めていた。