レティアは、自らの手で集めた公爵家の不正の証拠を手に、宮廷へと向かっていた。協力者たちの支えもあり、彼女はこの日を迎える準備を整えていたが、その足取りは決して軽いものではなかった。これから彼女が行うことは、自らの名誉を守るためであると同時に、公爵家の腐敗を暴き出し、社会的な罰を与える行為だった。
---
宮廷に到着したレティアは、重厚な扉を前に深呼吸をした。その向こうには、国の高官たちや判事が控えており、彼女の提出する証拠を検討するための裁判が始まろうとしていた。
「私はここで全てを終わらせる。」
小さく呟き、自分に言い聞かせると、彼女は扉を押し開けた。
---
裁判が始まると、まずは公爵家の名代としてライオネルが召喚された。彼は冷静さを装いながらも、その目には不安が浮かんでいた。レティアが自らの行動を起こした理由と証拠を説明する中で、ライオネルの表情が徐々に険しくなっていくのが分かった。
「こちらが、公爵家が行っていた不正取引の記録です。」
レティアは壇上で、彼女が長い時間をかけて集めた証拠を提示した。帳簿、契約書、密輸の計画書、それらは全て彼女が公爵家の資料室から入手したものだった。さらに、協力者であるマーカス侯爵や執事、そしてライオネルの愛人アリシアから得た証言が、証拠を補強する形となった。
裁判官たちは証拠を慎重に確認し、互いに低い声で相談を交わしていた。その中で、ライオネルは立ち上がり、声を荒げた。
「これは全て作り話だ!彼女が私を陥れるために仕組んだ罠だ!」
しかし、レティアは冷静だった。
「作り話であれば、これほど具体的な証拠が揃うはずがありません。公爵様、ご自身が署名した契約書をご覧ください。」
その一言に、場内がざわめいた。ライオネルは言葉を失い、椅子に深く座り込んだ。
---
数時間にわたる証拠の提示と証言の検討の末、判事たちは最終的な結論を下した。
「公爵家が行っていた不正行為は重大であり、国に対する裏切り行為である。従って、公爵家の全ての特権を剥奪し、財産を没収する。」
その判決が読み上げられると、場内は静まり返った。レティアは内心の達成感を覚えながらも、表情を崩さずに判事たちに一礼した。彼女が望んでいたのは復讐だけではなく、正義を果たすことでもあったのだ。
---
裁判が終わり、ライオネルは護衛に連れられて退出を命じられた。彼の目には敗北の色が濃く浮かんでいたが、去り際に彼はレティアに向かって皮肉を言い放った。
「君がこんなに賢いとは思わなかったよ。」
その言葉には、悔しさと僅かな敬意が入り混じっていた。しかし、レティアはそれに冷たく返答した。
「私はあなたに何も期待していません。ただ、事実を明らかにしたかっただけです。」
その冷淡な言葉に、ライオネルは何も言い返せず、護衛に連れられて消えていった。
---
宮廷を後にしたレティアは、初めて深く息をついた。長い戦いがようやく終わりを迎えたのだ。彼女の心には、勝利の喜びよりも安堵感が広がっていた。
「これで、私の役目は終わった。」
そう自分に言い聞かせながら、彼女は馬車に乗り込んだ。外の景色を眺める中で、彼女の心には新たな未来への希望が生まれつつあった。冷たい結婚生活に終止符を打ち、彼女自身の人生を切り開く第一歩を踏み出したのだ。
---
帰り道、馬車の中でレティアはふと、父エリオット侯爵の顔を思い浮かべた。彼の名誉を守るために戦ったことが、今回の戦いにおいて彼女を支える原動力だった。
「父もきっと誇りに思ってくれる。」
その思いを胸に、レティアは次に進むべき道を静かに考え始めた。復讐の物語は終わったが、彼女の人生はまだ続いていくのだ。