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第103話 十兵衛の覚醒

十兵衛を見下ろす女性。

その存在は悍ましい魔力に包まれていた。


「ミツケタ…サア、ワレヲツカエ……ソシテスベテヲホロボスノダ…」


地の底から響くような無機質の声。

それだけで生気が奪われるようだった。


「くうっ?!馬鹿な?…これがコトネの本体?」


咄嗟に距離をとる半蔵とモミジ。

ちらりと視線を向ける女性。


「ウルサイ…ダマレ…」


すっと手をかざし、何事か呟く。

突然苦しみ悶える半蔵とモミジ。


「む?まずいな。…十兵衛。貴様コンタクトとれるのならやってみろ。どの道このままでは誰も敵わぬぞ」


女性の纏う魔力。

すでに常識の範疇を凌駕していた。


その様子に何故か達観した表情を浮かべる十兵衛。

そして立ち上がり女性のすぐそばへと近づいた。


刹那光がほとばしる。

十兵衛と妖刀コトネの中に封じられし女性。

それを包み込み、結界で遮断された。


「…ふむ。興味深い事だ」


そう言いその結界の外でどっしりと座り込むマール。

よろよろと立ち上がる半蔵が声をかけた。


「マール殿、早く逃げるのだ。いまのうちに…」

「どこへ逃げるというのかね?……逃げ場なぞない。ただ静観するのみ。我が魔眼、そう言っておるわ」

「し、しかし」

「適合者なのだろ?ならば信じることだ。どの道ここで押さえること敵わねば国はおろかこの星ですら危うい。あれはそういう力だ」


マールの見立て。

すでに誰も抗えぬほどの恐ろしいまでの恨みの波動。


(見せてみろ十兵衛。適合者のその力を!)



※※※※※



「……琴音ねーちゃん?」

「っ!?」


意味不明の言葉を発する十兵衛。

しかしその言葉に反応したかのように女性を纏う魔力が急激に弱まった。


「……バカナ……オまえ…トポ、なのか?」

「…グスッ…ヒック…おいらの…せい…で…ごめんよ…琴音ねーちゃん」


十兵衛の大きな体。

その後ろに小さな少年が重なって見える。


とても昔のような格好。

そして透けるその姿。


十兵衛は。

あの竜脈、その近くで生まれた。


あの少年、トポが四散し死んだ場所。

2000年の時をこえ、奇跡が紡がれていた。


「琴音ねーちゃん。ミコトねーちゃんを助けたい。…もう一度、みんなで…」

「……無理だ…無理だよ……私が殺した…ミコトはもう…いないんだ」

「居るよ!!ミコトは強いんだ。絶対に待っている。……琴音ねーちゃんの事を。だからお願い。力を貸して。……またあいつが、マサカドが復活してしまう」


「っ!?マサカド?!!!あ、あ、あ、あの、あの、あのおとこがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」


琴音の魂によぎるあの悍ましい男。

散々琴音を穢し凌辱の限りを尽くしたあの男。

いやらしい表情を浮かべ私を切り裂いた男……

私が最後の意地で滅ぼしたあの男。


怒りが、悲しみが魂からあふれ出す。


『……ごめんね』


「っ!?……ミコト?……ミコト?!」


『……琴音……気を取り戻したんだね……』


妖刀コトネ。

その正体。

苦しみぬき魂を穢された琴音と怒り狂ったミコトの体。


それを秘術で結合されたものだった。

ミコトは九尾。

想像を絶する超常の存在。


今トポの魂がもたらした奇跡。

全てのタイミングが合致して、遂に道が開かれた。


そして。


「……拙者も力を貸そう。幼い子供に美しい女性二人。死を覚悟するのは早すぎるであろう?…武士道とは死ぬことと見つけたり……お主ら3人の礎になれるのなら、この命、いかようにも使うとよい」


「…お主……いつから…」


「どうやら拙者は生まれ変わりのようだな。トポというのか。ははは。何とも心強いではないか。琴音殿。どうかその力、拙者に貸してはくださらぬか。そしてともに救おう。心優しき妖魔の頭領、九尾であるミコト殿を。そして今度こそ倒す。マサカドを」


十兵衛の心から温かい光があふれ出す。

あの優しい竜脈の地。


吹き抜ける緑の匂い。


気を取り戻した琴音、顕現したトポ、朧気に一部が目覚めたミコト、そしてそれらを包み込む、まるで大海原の様などっしりとした十兵衛。


4人を懐かしい情景が包み込む―――


「ああ、あああ!!……思い出す…あの優しい時を…‥トポ…君はあの時、何があったんだい?」


「うん。ごめんよ琴音ねーちゃん。…おいらあの時、とーちゃんとかーちゃんを殺されたんだ。だから怖くて逃げたんだ。必死に。……まさかおいらの体にあんなことが仕掛けられていたなんて…本当にごめんよ」


「……馬鹿。謝るな。……子供は子供らしく笑っていればいいんだ。…そうだよねミコト」


『……当たり前だ。だからボクが頑張っていたんだろ?…次は勝つよ。琴音!』

「うん」



※※※※※



幾つもの魂を吸っていた妖刀コトネ。

奇跡的に当時の3人の魂が共鳴した。


この巡りあわせ。

創造神の願いと美緒の幸運値。

そして苦しみぬいた違うルートの美緒の祈り。


今までどのルートでも『妖刀コトネ』はすべての妖魔を撃ち滅ぼした。

使用者十兵衛の心を削りながら。

最期狂った皇帝と対峙したとき―――


バッドエンドでは倒した瞬間十兵衛も死んでしまっていた。

グッドエンド。

それにはそもそも十兵衛はいない。


悪魔の眷属が妖刀を持ち去り、いわゆる自爆。

誰も使いこなせずに壊滅するという、ゲームとしてはあり得ないエンディングだった。


でも今回のルート。

美緒にとって都合の良いルートは新たな展開を迎える。


それは……



※※※※※



刀の本体とみられる女性と十兵衛を包み込んでいた光がゆっくりと霧散する。


そしてあふれ出す。

先ほどとは程遠い、まるでいたわるかのような慈愛に満ちた光。


神々しい緑色の光を放つ美しい刀身。

それを携えた十兵衛が希望を目に前を向いていた。


「ほう。流石は適合者……素晴らしい。我は今奇跡を目にしている」

「おおおっ……あれが妖刀コトネ?…それにこの力…近くにいるだけで力が湧いてくるようだ」


「キレイ……あれが、妖刀?……まるで聖剣……」


茫然と十兵衛を見つめる3人。

その頭に直接声が響く。


『ありがとう…十兵衛を連れてきてくれて……ミコトを助けたい…そして今度こそ……マサカドを倒す…協力してほしい』


「「「っ!?」」」


そして十兵衛がゆっくりと膝をつき3人に請う。


「半蔵殿、マール殿、モミジ殿。……九尾の所在、教えてはくれぬか」

「十兵衛、お主…」


半蔵がごくりとつばを飲み込んだ。

十兵衛の赤が混じった茶色の頭髪……


まるで雪を連想させる純白に変貌を遂げていた。


「ふはは。素晴らしいぞ十兵衛。半蔵殿、情報をくれ。救うぞ。この国、そして伝説の大妖の頭領ミコトを。総力戦だ。我がマスターも連れてこよう」

「マール殿?総力戦?」

「うむ。今日はもう遅い。十兵衛も疲弊しておる。領主への上奏、必要であろう?明日中に整えるとよい。決戦は明後日。ふむ。ちょうど12月31日。全てを覆し、新たな年、皆で祝おうぞ」


激動の帝国歴25年。

最後を締めくくるジパングにおける最終決戦の幕が開かれようとしていた。


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