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第第105話 黒髪黒目の超絶美女は色々整理してさらに高みに昇る

あの後ギルドに帰ってきた私は今執務室で一人頭の中を整理していた。


ザナンテス魔導国で得た情報。

恐らく古代エルフの国ブーダへ行く必要がある。


今現在抱えている案件とその重要度。


一度整理する必要があるよね。

かなり雑然としちゃってる。


まずは時系列で言うと一番初めはティリミーナからもたらされた妖精王ファナンレイリへの訪問と打ち合わせ。

だけどこの件はどうやらレギエルデの件と重複している。


それからナナの取り扱いとマキュベリアの周知。

これにはゾザデット帝国の皇帝に会う必要がある。


そしてあの国を取り巻く不穏な状況。

これはナナの父親であるレリアレード侯爵の協力が必須。

そして同時に例の倉庫群の調査。

ロナンの救出。


もちろんマキュベリアの情報の検討も必要だ。


後は現在進行形で動いているジパングの案件。


マールは優秀なので心配はないと思うけど……あそこにはガナロが封印されている。

そして例の大魔獣オロチ。


究極の破壊の権化。

問題なく倒せはするのだろうけどきっと被害は甚大になってしまう。


そして救出すべきメインキャラクターである九尾ミコト。


それに忘れたわけではないけど改めて天使族の今後の身の振り方も考えなくてはいけない。

そしてハインバッハの周りに見られる怪しい視線。

恐らく悪魔の眷属。

今のところザッカート中心に警護はしてもらっているけど。

一度行って捕まえる必要がある。


それに伴うガザルト王国の怪しい動き。


優先順位は低いけどナナのパーティーメンバー『ブルーデビル』の皆さんの対応。


残るのはまだ出会っていないメインキャラクターたちの動向調査。

まあこれも引き続き行ってはいるけど。


うん。

ちょっと整理しないと対応できないね。


私は執務室の椅子に体を預け大きく伸びをした。


そんな時ノックの音がする。

私は返事をしドアの方へと視線を向けた。


「今良いかな」

「っ!?レギエルデ?もう平気なの?」

「うん。おかげさまでね。…それよりも悩み事かい?僕は戦えないけど、そう言う事なら協力できると思うんだ」


最高だ。


きっとこの世界最高の頭脳をもつレギエルデ。

彼なら最適解を紡ぎだせる。


「美緒さま、今良いですかっ!?…貴様、誰だ?」


あっ。

いけない。

まだ私、レギエルデのこと皆に紹介してないや。


「あ、エルノール?彼は…」


そっと手で遮るレギエルデ。

そしてエルノールに向かいとんでもない事を言い始める。


「初めまして。僕はレギエルデ。美緒の婚約者だよ。よろしくねエルノール君」

「はあっ?」

「なっ?!こ、婚約者?……ば、馬鹿なっ?!み、美緒さま?」


ええっ?!突然何を…

茫然とする私にウインクをするレギエルデ。


……何か考えがあるのかな?


私は取り敢えず静観することにした。


「まあ、そうなればいいなって段階だけどね。……君、面と向かって美緒に告白したのかな?態度を見れば君が美緒の事を好きな事は分かる。でもそれはどうなんだい?僕はこう思う。卑怯者だと。……だってそうだろ?そんな態度をとっていれば優しい美緒のことだ。少し弱っている時ならきっと君になびくだろう」


「っ!?…な、なにを…」


「反論できないでしょ?君は美緒を見くびり過ぎだ。以前の彼女の事は知らない。でも今の美緒はね、ちゃんと受け止めてそして考えることのできる、れっきとした自立した女性だよ?」


「……」


「ルルーナちゃん、いるよね」

「…ルルーナ?」

「彼女が教えてくれたんだよ。彼のお兄さんが美緒に告白したってね。ははっ、よっぽど勇気がある人だね。君がいるのを知っているというのに」

「…ザッカートの気持ちは知っている。奴は私に相談した」


えっ?

それわたし知らない。

確かにザッカート、私のこと好きって言ってくれたけど……


「君はどうなんだい?美緒の事、好きなんだろ?……いらぬ嫉妬は男を下げるよ?君はまだ美緒に対して何もしていないのと同じだ。ぽっと出の僕ですら今さっき告白したというのにね」


「わ、私は…美緒さまの…」


「おっと。だめだよ今は。それは二人きりの時にするものだ。……僕はここで4日ほど治療を受けていた。そして大体の事は君の妹のレリアーナちゃんやルルーナちゃん。そしてファルマナさんから聞いているんだ。…僕はね、戦えない。だけど考える力には特化しているんだ」


淡々と話すレギエルデ。

決して大きくない声だけど、彼の言葉は心に響く。


「……想いは甘くて切ない。そして酔う事が出来る。でもね、それはいつか毒になるんだ。自分の心の中だけだとどうしても淀んでしまう。……結果なんて変わるもんだよ?それよりも行動することを僕はお薦めするね」


「行動する、こと……」


「どうやら君は想いが重く、考えすぎの真面目くんなんだね。とても好ましいよ。でもそれだけではダメだ。君は美緒が欲しくないのかい?……美緒?」

「っ?!は、はい」

「ちょっと外の空気吸ってくるね。またあとで検討しよう」

「う、うん」


そう言ってレギエルデは出ていった。

執務室に残された私とエルノール。


えっ?


ええっ?


こ、この状況?


私がパニックになっているとエルノールが私の瞳をまっすぐ見つめてきた。

とくんと私の心臓が跳ねる。


「……美緒さま」

「う、うん」

「………好きです」

「っ!?……え、えっと…」


知ってる。

だってエルノール言っていたよね?


でも……

確かに直接言われたことない。


今はじめて言ってくれた。


私はそっとエルノールに近づいた。

目と鼻の先……


半歩前に出れば触れ合ってしまうほどの距離。


まじまじと彼の顔を見上げる。

背の高い彼。


キレイなクリアブルーの瞳。

高い鼻。

カッコいい口、そして。

私が生涯で初めて触れた唇。


はあ。


「…エルノールはとってもカッコいいのね」

「うあ…そ、その…嬉しいです」


今ここで飛び込んだとして。

きっと私は幸せになることはできる。


大切で、私を守ってくれる仲間たち。

たぶんそれでもたどり着ける。


でも。


まだ私は全部をやり切ってはいない。


「エルノール?酷い事言ってもいい?」

「……はい」

「私もあなたが好き。大好きです。……でも今はあなたの物にはなれない」


「…美緒さま」

「ゴメンね。私今回のルート、全部をやり切りたいの。だから今は無理。ごめんなさい。……でも、もし、もしも……」


不安そうなエルノールの表情。

心がチクリと痛む。


「…私に都合のいい話で……酷い話だけど……終わった後も、こ、こんな酷い女だけど……私のこと……変わらずに好きなら……その時は貰ってくれますか?」


ああ私、最低な女だ。

好きになってくれている人の『大切な気持ち』を保険にしようとしている。


酷い、汚い女。

私は……


「っ!?」


暖かい彼の唇が私の唇に重なった。


私は生まれて初めて…

男性からキスをしてもらっていた。


「ん……え?…うそ…」

「すみません。……でも予約です。絶対にあなたを誰にも渡さない」


彼の優しい瞳が私を包み込む。

全然いやな気持ちじゃない。


「嬉しいです。……あの男の言っていた事、理解した気がします」

「エルノール……」

「貴女は酷い女なんかじゃない。最高の、私の愛する心美しく気高い女性です。だからそんな顔しないでください。あなたのそれはわがままじゃない。覚悟というのです。…心の底から尊敬します」


「あ…」


涙があふれ出す。

悲しくなんてない。

心振るえる喜びでもない。


でも。


私は認められたことが嬉しかったんだ。


「ひとつだけわがまま…いいですか?」

「……わがまま?」


そして彼は私を優しく、そして強く抱きしめた。

息が止まる。

心の底から安心感があふれ出す。


「ずっとこうしたかった…美緒…」


彼の熱が直接私に伝わってくる。

彼の私を想う気持ち……心が溶かされていく。


「……うん。……待っていてください」

「はい」



※※※※※



コンコン。


響くノックの音。

私はそっとエルノールから離れた。


「はい、どうぞ」

「失礼するね。……ふふっ、どうやら危機は去ったようだね。これで安心して作戦を練る事が出来るよ」


エルノールをやさしい瞳で見ながら微笑むレギエルデ。


「危機?」

「うん、とびっきりの。…エルノール、さっきの失礼な物言いを詫びよう。すまなかった」

「いえ。謝る必要はありません。……なるほど、確かに危機でしたね」


「えっ?エルノールまで?…どういうこと?」


「ふふっ、本当に美緒は可愛いね。ねっ、エルノール」

「はい。とても可愛らしい女性です」


二人なんだか納得しているけど……

私には良く判らない。


何故かレギエルデと供に入ってきたリンネ。

私をまじまじと見つめた。


「ねえ。また成長したのね?まったく。どんどんいい女になっちゃう」

「もう。リンネまで。私よく分からないのだけれど…」

「いいのいいの。なるほどね。流石は頭脳特化のメインキャラクターだわ。ギルドの危機、救っちゃうなんて。改めてレギエルデ。よろしくね」


「はい。リンネ様」


また同じこと…

私何か見落としてるのかな?


そんな様子を見てレギエルデが苦笑いを浮かべる。

そしてゆっくりと語りだした。


「本当に美緒は可愛いね。君はアンバランスだ。皆が心配するのが良く判る」

「私を?心配??」

「言うつもりはなかった。けど君が不安に感じるのなら効果はだいぶ落ちるけど認識させた方が良いみたいだ。……君は皆に愛されている自覚が足りなすぎる」


「っ!?」


「そしてエルノールはそんな君に遠慮をしていたし、少し怖がっていた。だからきっとあのままだと最悪の時に崩壊してしまっていただろう」


「……え?だめだよ?本当に分からない」


「この世界を救う。それは簡単な事じゃない。それは分かるね?」


「う、うん」


「これから先はまさにか細い針を繋げていくようなものだ。だから絶対の信頼関係が必要になる。それには負の感情、しかも本人の自覚していないそれが最悪のタイミングで躊躇を引き起こす。結果じゃない。行動なんだ。おこなったことならあきらめもつくし納得できる。そして間違えたのならやり直せるんだ。何度でもね」


レギエルデの話。


まるで哲学の様なとりとめのない話だ。

でも。

何となく言いたいことは伝わってきた。


私の己惚れかもしれないけど……

さっきのタイミングでのエルノールの告白。


もしなかったら。

もしそのまま私がレギエルデと深い話をするようになったら……


きっとエルノールは嫉妬してしまう。

しかもそれを誰にも言えない。


だって彼は私に言ってない。

『好きだよ』って。


「だから…レギエルデ、あなた……エルノールを、彼を誘導したのね」

「うん。そうだね。否定しない。……恨んでも良いよ?でも君は今絶対に違う考えだ。僕にはわかる。だから先に言おうか?『どういたしまして』ってね」


ああ、この人は。

本当に超越者なんだ。


私は心の底から思い知らされていた。


そんな私の肩にやさしく手が置かれた。

エルノールがにっこり私に微笑みかけた。


「美緒さま?これで堂々と私も嫉妬できます。安心して彼と打ち合わせ、行ってください。もちろん可能な限り私は同席します。そしてつまらない嫉妬はもうしないと誓います」


「…えっと、堂々と嫉妬できるけど、つまらない嫉妬はしない?どういう事?」


「はい。だからあなた様は可愛いのです。愛していますよ?美緒さま」

「ひうっ?!」


うあ、なんか自然に愛をささやかれた。

……やばい。

恥ずかし死ねる。


何故かリンネのジト目が突き刺さっていたけど。

私は気づく事が出来なかった。


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