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第114話 ジパングを覆う闇との対峙

覚醒した十兵衛の剣技がさえわたる。

それはアーツ。

彼は自身が認識する間もなくそれを使いこなしていた。


圧倒的な武の才能。

隣で多くの妖魔を殲滅しながら、マールはその鮮烈な無駄なく流れるような動きに感嘆の意を評していた。


さらには美緒の錬成した聖剣『クライシス・レイ』から圧倒的な剣戟を放つデイルード。


彼もまたすでに人外のレベルに到達、危なげなく妖魔を滅ぼす。


「ふむ。流石だ。……しかしこの妖魔の数、時間がかかる。……どれ、久しぶりに我が奥義、使ってみるか」


おもむろに印を切るマール。

そして美緒に念話をとばす。


(美緒殿、個別に防護壁、可能か?)

(マール?……『あれ』をやるのね?うん。任せて!)

(ふはは。流石は我が認めし唯一の主。では存分に使わせてもらう。我が魔眼、喜びに打ち震えておるわ)


突如として集約するマールの凄まじい魔力。

光を伴いまるで幻のごとく彼の体が幾重にも重なっていく。


「っ!?」

「これは?!美緒の防護壁?!」


まさに悪鬼羅刹がごとく妖魔を蹂躙していた十兵衛とデイルードが動きを止めた。

そしてまさに大天災がこのあたり一帯を、まるで物理法則を無視するがのごとく激しい水流と全てを滅ぼす質量を伴う礫が蹂躙を開始した。


『スコールストーム』!!!!


圧縮された水の刃。

それはすべてを切り裂く。


その力を伴う礫全てが轟音を伴い激しく膨張、刹那の時を経て弾け、一瞬で視界にある妖魔を悉く滅ぼした。


やがて落ちてくる大量のドロップ品とその力から解放された大量の水。

回収士のジョブを持つデイルードはその様子に目を見開く。


「ふうう…これで道は開かれよう。十兵衛、本丸は近いぞ」

「凄まじいな…うむ。承知!」


マールの奥義スコールストーム。

彼のその力。


マールもまたミリナと結ばれたことによりその力を増していた。


(……やっぱり羨ましい……私も…エルノールと…???!!!)


少しよぎる昨晩の会話。

途端に美緒は真っ赤に染めてしまう。


「っ!?美緒?大丈夫か?」

「う、うあ?!…う、うん」


やばい。

変なこと考えたら、顔上げられないよ?


訝しげに私を見つめるデイルード。

思わず後ろから背中を叩かれ私は我に返った。


「美緒のむっつりスケベ」

「っ!?な、な、何を?!!」

「それより本命のお出ましよ?しゃっきりしなさい」

「う、うん」


スコールストームにより静寂に包まれた社(やしろ)前の広場。

後続を撃ち滅ぼし駆け付けたロッドランドが追い付いたその時、信じられないような気配が膨れ上がった。


「「「「「っ!?」」」」」


「くふ、くふふふふふふ……これはこれは。ようこそいらっしゃいました」

「……あなた、マサカドね?」


上品な十二単に包まれし妖艶な美男子。

目の前に現れたそれは、まさに絶望を纏う。

嫌な予感。


やはり既にマサカドは復活していた。


聖剣琴音之命。

怨敵を前にその刀身が輝く鮮烈な緑を放ち始める。


「ほう?見たことのある刀……くひひ、目覚めたのか?あの雪女……くふふ、今思い出しても……あなたのあの気高い操……あああああああああああっっ、たまらぬ…くひひひ、興奮してしまう」


突然顔を歪め、指先をワキワキと動かすマサカド。

そして彼のすぐ横にいくつかの悍ましいものが出現する。


「はあ。これは失礼。……おもてなし、しないといけませんねええ。私は高みの見物、させていただきましょうか」


いうが早く消えるマサカド。

しかし私の結界からは逃げられない。


社の奥でその悍ましい魔力が反応する。


「十兵衛、ここは私たちが押さえる。マサカドを、そしてあの社の奥、封じられているミコトをっ!!」

「承知。琴音殿、拙者に力を!!」

(うん)


駆け出し一目散に社に飛び込む十兵衛。


「マール、デイルード。彼の援護を。……信じています」

「任されよう」

「おうっ!」


その後を追うマールとデイルード。


私はリンネとロッドランド、そして私を前後に挟み闘気を噴き上げるルルーナとレルダンとともに、今出現した妖魔を睨み付けた。


「くかかかか。面白い。脆弱な人間よ。我が遊んでやろう」

「うるさい。この魚男がっ!あなたは海に帰るといいわっ!」


なんでダゴン?

おばあ様、クトゥルフ神話の事も知っていたの?


目の前の化け物。

私の知識が確かなら、昔見たクトゥルフ神話の神、ダゴンそのものだった。

下半身がまるでタコ?

悍ましい触手がうねうねと蠢く。


正直嫌悪感が半端ない。


前のルートでは出てこなかった化け物。

とんでもない力とそして一番厄介な権能。


もしも例の神話を参照しているのなら……

コイツは時を遡(さかのぼ)る。


(リンネ)

(っ!?な、なに?)

(多分コイツ、死んでも甦る。何度でも)

(嘘っ?!どうすんの?)

(最悪時(とき)渡(わたり)を使う)

(っ!?……ふう。分かった。……いいよ。術式今展開した……でもあんまり強いのはダメよ?最悪パラドックス起こしちゃうからね?)

(うん)


よし。

許可はとった。


さあ、異界の神?

お仕置きしちゃうよ!!



※※※※※



社(やしろ)本殿の中。

最初に飛び込んだ十兵衛は激しい違和感に囚われた。


そこは外とは違い清廉なる神氣で満たされている。

まるで神前の様な厳かな空間。


その奥。

幾重にも封じられた場所から漏れ出すすさまじい妖気。

ミコトの妖気だ。


駆け付ける十兵衛。

しかしいきなり上から悍ましい顔つきをしたマサカドが襲い掛かる。


「ぐうっ!?」

「ほう?受け止めますか。……ここは新世界の神の間。無礼であるぞ?……神の前に跪け」


十二単を振り乱し、凄まじい剣戟を繰り出すマサカド。

防戦一方の十兵衛はさらなる違和感に囚われていく。


「ふふん。流石は呪いのカタナの主。よくぞ持ち堪える物です……どうですか?我が軍門に下るというのは」

「……なんだと?」

「ふむ。私はね、常々考えていたのですよ」


突然自身を包む魔力を霧散させるマサカド。

そして怪しげに目を光らせ、ゆっくりと十兵衛に近づいてくる。


「殺さないので?…くくく、できませんよねえ?……悪人とはいえ無抵抗の者を殺すことのできない、優しい貴方には」

「っ!?」


目の前1m。

当然十兵衛の間合いのその中。


しかし武器を持たぬ相手。

何より怨敵が目の前にいるというのに、先ほどから琴音の反応がない。


一瞬の躊躇が生まれてしまう。


「ほら、捕まえた」

「っ!?」


突然全身を縛り付けるとんでもない冷気。

気付けばほぼ全身が凍り付いていた。


「はは、はははは、あははははははははははははははははは」


笑っていない目で大笑いを上げるマサカド。

その手がゆっくりと十兵衛の持つ刀に触れる…



※※※※※



「なにをしているっ!!!」

「っ?!ぐはああああっっっっ?!!」


突然十兵衛を襲う激しい痛みと衝撃。

目を見開く十兵衛の前には戦闘態勢を整えているデイルードとマールの姿があった。


「な?!…い、いったい…」

「ふむ。幻術だな。それも恐ろしく隠蔽されていて効果は最上級。…お主の後で侵入して僥倖であったわ。同時であれば我らも囚われていたであろうな」

「ああ、美緒のバフ。それがなければ十兵衛、おまえ既に死んでいたぞ?」


気付けば深々と切り裂かれた腹から大量の出血の跡、すでに緑色の光に包まれ問題のないレベルまで回復していた。


「くくく。また増えますか。……愚かな。……うん?二人?……先ほどの麗しい少女、置いてきても良いのですか?」


ニヤリと嫌な笑みを浮かべるマサカド。

いつ封印を解かれたのか知らないが、その力は想定を超えているようだ。


包み込む妖気が可視化できるほどの濃さを見せていた。


「…どういうことだ」

「なあに。私は新たな神に仕える身。つまり私は神ではない。…その意味、お分かりになりますか?」


「まさかっ!?…では先程の場に現れた悍ましいもの…あれが神だと?」

「悍ましい?くくくっ、これだから凡人は…あの美しいフォルム、そしてあの存在!!まさに神。…たまたまつながった別次元の神ですよあれは。私たちの常識の先を行く、絶対者です。くくく…愚か…?!」


突然弾け飛ぶマサカドの首。

マールの斬撃がすぐさまその体までをも切り裂いていた。


「話は聞かぬ方が良いな。言霊を使っていた」

「っ!?…そ、そうか。…助かったぜ、マール」

「ふむ。…っ!?どうやらまだ終わらぬようだ」


今まさに切り裂かれ首をとばされたマサカド。

まるで逆再生したかのように無傷の状態で佇んでいた。


「……人の話は最後まで聞くものでしょうに…これだから野蛮人は話が出来ないという物」


「なっ?!」

「……遡行(そこう)か?」


マールの言葉。

それに反応しピクリと眉を上げる。


興味深げにマールを見つめた。


「ほう?ただの愚か者ではないという事か。なるほど。確かにあなたの言う『遡行』ええ、そういう認識ですね。……つまり私は死ぬ事はないのです。何度でもね」


遡行。

つまり巻き戻し。


いくら殺しても、その事実の前に戻る能力。

この世界の理を超える力。


「…ならば何度でもお主を滅ぼそう。その存在が消滅するまで」


十兵衛の言葉に反応し聖剣『琴音之命』から緑色のオーラが迸る。


「くは、くはははははははははははははは。話、聞いてましたか?まったく…ひぎいっ?!」


一閃。


音もなく振り切られた十弁の剣戟。

切られたであろう首から浄化され消えていくマサカド。


「ぐあああああっ…………何かしましたか?」

「くうっ?!」


そしてすぐさま元に戻る。

大きくため息を付くマサカド。

何事か呟いた。


神殿の間を包み込む清廉な空気が吹き飛び、悍ましい妖気が溢れかえる。

顕れる異形の者たち。

一斉に十兵衛たちに襲い掛かってくる。


「やられてばかりは癪ですから。遊んでいてください。直に我が神が戻る、それまでね。ククク、くははは、ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


「ふむ。厄介だな。美緒殿、頼むぞ?」

「くそっ、十兵衛、しっかりしろ!!呆(ほう)けている暇はねえぞ」

「承知!!」


乱戦が幕を開けた。


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