一方美緒のギルド。
美緒の転移で今ファナンレイリと二人、獣人族の国エルレイアから国王夫妻、ザルハンとメシュナードを連れ戻ってきたところだ。
『すぐに』との約束だったが、美緒がひどいダメージを負ったことで遅れてしまっていたのだが。
悪魔を倒しさらに力を増した美緒。
どうにか約束を果たすことが出来ていた。
スイの姿を見たメシュナードの瞳に涙が浮かぶ。
「スイっ!!」
「メ、メシュナード?…大きくなって…」
抱きしめあうスイとメシュナード。
かつての親友の再会。
ギルドのサロンは優しい雰囲気に包まれていた。
もちろん私も泣いちゃったよ?
それからちゃんと国王であるザルハンさんとは挨拶交わしました。
彼は珍しい龍人族。
しかも国王になる前にはレイリの親衛隊長を務めていた強者。
心強い同盟者の誕生は素直に嬉しい事です。
※※※※※
久しぶりの再会を終え、ようやく落ち着いたスイとメシュナード。
何しろ二人ともにとんでもない美形だ。
初めは優しげな瞳で見れていた皆だが。
だんだんと顔を赤らめ絡み合う二人。
思わず男性陣が目を背けたのは仕方がない事だろう。
コホン。
何はともあれ。
ギルドのメンバーが集まり、改めて同期を使い共有したところだ。
今回の目的。
メインキャラクターである竜帝アラン。
遂にその始動が認められ、後は迎えに行くだけとなっていた。
「ええ。確かに南方の孤島『龍の墓場』は存在します。しかし…距離が遠く…」
「えっとザルハンさん?アランは、間違いなく復活はしているのですね?」
「はい。美緒さま。我が種族に伝わる神器『魔力鏡』が反応しております。…日に日にその輝きは増しております」
やっぱりこの世界、間違いなく進み具合が早い。
今はまだ帝国歴26年。
実際の物語だとアランがこの世界に現れるのは帝国歴30年だ。
でも。
「分かりました。…ザルハンさんはアランと面識あるのですか?」
「ええ。…美緒さま、どうかザルハン、と。コホン。…まあ300年以上前ではありますが…それが何か?」
かしこまるザルハンさん。
私は少し困ったように口にする。
「あの、ザルハンさん、いえ、ザルハン?私確かにゲームマスターですけど…まだ小娘です。どうか普通にお話しくださいませんか?」
「っ!?…ふふっ。…まさにファナンレイリ様の仰っていた通りですな…ふう。分かったよ美緒。これでいいかな」
「うん。ありがとう。…ねえザルハン、時間は大丈夫?」
「時間?…ええ。数日は公務の余裕を作っておりますゆえ…」
私はにっこり微笑み、魔力を練り上げる。
そして薄く広く伸ばし、南方の孤島、龍の墓場を捉えた。
「もちろん、アランを迎えに行きます。きっと彼、退屈しているはずですもの」
「む、迎え?そ、それは…うおっ?!」
「取り敢えず私とザルハン。…レイリも一緒でいい?」
「もちろん」
私は広げた魔力を集約し、3人でアランめざし転移した。
魔力の残滓が煌めく。
余りの急展開に、興味深げに目を輝かせていたマルレットは目を丸くする。
ギルドの面々も茫然としてしまう。
「…全く。美緒さまはせっかちですね。…私も連れて行ってほしかったのですけど…」
思わず独り言ちるエルノール。
ザッカートとレルダンも残念そうな表情だ。
「さあ、いずれ『竜帝』となる重要な人物です。みな歓迎の準備を」
手を叩き皆に告げるレギエルデ。
その瞳には希望の光が灯っていた。
(これで18人…あと2人…町娘エレリアーナと大精霊フィードフォート…間に合う。そしてきっと…)
ついにあと2人となる集めるべきメインキャラクター。
そして始まるであろう最終決戦へのルート。
その様子にリンネとガナロは2人、うなずき合っていた。
※※※※※
南方の孤島、龍の墓場。
大陸から遠く離れ、自力でたどり着くのは不可能な距離にある島。
しかしいい加減飽きてきていたアランはあらゆる方法を試しつくしていた。
そしてたどり着いた結論。
船、と言うか筏を作ることだった。
今この島では大きな木を組み、すでに何度目になるか分からない筏が作成されていた。
「今度こそ…必ず探し出す。…エスピア…君もいるのだろう?…早く会いたい。…そして…」
脳裏に鮮明に伝わってくるイメージ。
美しく圧倒的な力に包まれたゲームマスター。
(ああ、俺の使命、彼女とともに戦う新たな世界…もうすぐだ)
太い丸太を並べ、植物の蔦でしっかりと縛っていくアラン。
すでに目覚めて数か月。
自身の力はかつてを上回り、魔力は漲っている。
(フン。いい加減飽きた。…待っていろよ?…)
何しろここには自分以外には魔物しかいない。
リハビリをする時間はとうに終りを告げていた。
作業をしていたアランに、突然危機感知が仕事をする。
とんでもない魔力、明らかに自身より格上。
それを感知したアランは思わず声を上げてしまう。
「っ!?なあっ?!」
突然噴き出すとんでもない魔力。
そして混じる懐かしい波動。
アランは目を見開き固まった。
そこには。
同族である懐かしい以前の友、そして精霊王であるファナンレイリ。
そして。
脳裏に浮かんでいた、美しくも神々しい絶対者、ゲームマスターの姿があった。
ニコリとほほ笑み自分を真直ぐ見つめるその少女。
おもむろに口を開いた。
「…お待たせ、アラン。…初めまして、かな?」
美しい…
ああ、なんて…
可憐だ…
ついに18人目になるメインキャラクター、竜帝アラン。
ゲームマスターとの邂逅、世界の時間が動き出す。
「…初めまして、だな。…でも」
「うん?」
「俺は運命に感謝する。…ゲームマスター。…君の名は?」
「美緒。守山美緒。…この世界、ひっくり返すよ。…ねえアラン?」
「…ああ」
「私を助けてくれる?」
「…命に、我が誇りにかけて」
※※※※※
強い。
彼を見た最初の私の感想。
今の彼はきっとすべてのルートで最強に到達していた。
まだ彼は『竜帝』にはなれない。
竜姫エスピアの祝福が必要だからだ。
残念ながらエスピアの情報は失われている。
でも私は確信していた。
(絶対に存在している。エスピア…アランと番(つが)う運命の巫女。だって…)
私はちらとザルハンに視線を向ける。
「…アラン、久しいな…我の事、分かるか?」
「もちろんだザルハン…生きていたのか?…もしや、エスピアも?」
「すまんがエスピアについては分からないんだ。だが確実に生きている。そうだろ?」
「ああ。何しろ俺を封印したのは彼女だ。理由を聞かにゃならん。…それに」
「うん?」
「エスピアは俺の女だ。絶対に惚れさせる!」
なぜか顔を赤らめ宣言するアラン。
その様子にファナンレイリがため息をつく。
「まったく。久しぶりに会ったっていうのに挨拶もないのかしら?…思ったより元気そうね」
「やはりファナンレイリ様?…凄まじい魔力圧…ど、どうしてここに…」
「同じなのよね」
「同じ?」
「美緒に助けられた。そして私は解放されたの。…アラン」
「はっ」
「エスピア、見つけるわよ」
「っ!?…はいっ!」
※※※※※
ついに集まった18人目となるメインキャラクターアラン。
ゲームスタート時最初に選べる5人のうちの一人。
難易度はハード。
でも。
(絶対にうまく行く)
私は確信していたんだ。