私の誕生日、2月5日まであと数日。
それまで休むと決めていた私なのだけれど。
ついそのことを忘れレイリと二人、獣人族の国エルレイアへと一応『お仕事』をしてしまっていた。
そしてメインキャラクターである龍人族アランの勧誘。
超長距離の複数人転移、実は結構魔力を消費する。
因みに彼が封印されていた南方の孤島。
一番近い大陸から実に数千キロ離れていた。
当然だけど転移魔法、距離も魔力消費には関係するのよね。
※※※※※
「ねえ美緒?過ぎたことだし必要なことではあるのだけれど…あなたしばらくお休みするって言っていたわよね?」
自室のベッドに腰を掛けている私にリンネがじろりと睨み付ける。
「う、うん。…ごめんなさい」
何より私の休日についてはギルド皆の総意だ。
悪魔ザナンクにより、激しい精神的ダメージを受けた私を心配しての皆の願いだった。
「まったく。…ねえ、本当にもう大丈夫なの?」
「えっと。…うん。問題ないよ?」
正直私の体調は問題がない。
まあ少しばかり過剰に魔力は消費したけど。
既に回復し、ほぼ通常の状態には戻っていた。
でも確かにこの休日と言うか今の状況、私はまったり過ごすことが出来ていたのは事実だ。
何となく心にも余裕ができ始めていた。
「まあいいわ。それで、今夜は誰が当番なの?」
「今日はね里奈さんと幸恵さんだね」
ため息をつき私から視線を外すリンネ。
そしてゆっくりと声を上げる。
「とにかくあなたは少しゆっくりしなさい。アランとか幾つかの事は私たちで話し進めるから。あなたは一人じゃないの。仲間が、私たちがいる。…分かった?」
「うん。お願いします」
「…はあ。まったく。…ねえ、美緒?」
「うん?」
おもむろに私に抱き着くリンネ。
そして至近距離で私の瞳を見つめる。
「…怖かったんだからね…あなたが、美緒がいなくなっちゃうって…もう、ダメだからね」
「…うん」
私もそっとリンネを抱きしめる腕に力を入れた。
柔らかくいい匂いのするリンネ。
神様だけど、私の大切な妹。
私は心の底から癒されたんだ。
※※※※※
夕食と入浴を済ませ今は午後の9時。
私の部屋には寝間着姿の里奈さんと幸恵さんが私のベッドに腰を掛け、楽しくおしゃべりをしているところだ。
ジパング決戦からおおよそ1か月。
どうやら彼女たちも心の整理がついたらしく、最近ではますます仕事に精を出してくれていた。
「里奈さん、幸恵さん。もう慣れましたか?」
「ええ。美緒さまのおかげです。本当にありがとうございました」
私の対応のせいなのか彼女たちの性格なのか。
どうも私たちの会話は少し硬い様子だ。
私はごくりとつばを飲み込み、そおっと彼女に問いかける。
「あ、あの…里奈さん…ううん、里奈…そう呼んでもいいかな?も、もちろん、そ、その…幸恵?」
「「っ!?」」
何となく年上の女性。
私は礼を尽くすつもりで、敬語で話しかけていた。
でも。
うちのギルドは基本お互いに呼び捨てだし、話し方も同等だ。
なんだか壁があるようで…
私はもっと彼女たちとも近くなりたかった。
「っ!?えっ?」
突然肩を震わせ、涙を浮かべる里奈と幸恵。
私は思わず挙動不審になってしまう。
「う、うあ、そ、その、ご、ごめんなさい…えっと…」
「違うの!!…嬉しくて…」
「えっ?!」
涙をぬぐい、赤く染まった目を向ける里奈と幸恵。
大きく頷きドキリとするほどの美しい表情で彼女たちは私の瞳を見つめる。
「やっと、そう呼んでくれたのね…美緒」
「っ!?」
そして蕩けるような笑顔を見せてくれた。
「きっとあなたは誠実な人。だから私たちに対して礼を尽くしてくれていた。でもね、美緒はちょっと意地悪だよね?コノハやマイ、サクラには普通におしゃべりするのに。私と幸恵には敬語なんですもの。…嫌われているかと思ったわ」
「うあ、そ、そんな事…」
「ごめん。冗談。…でも嬉しい。…ねえ美緒?」
「は、はい」
「私たちも仲間、それでいいのよね?」
「も、もちろんだよ」
確かに今私は他のギルドメンバーに対し敬語は使っていなかった。
逆に彼女たちにはそれが不安だったんだ。
「えっと…そう言うつもりはなかったのだけれど…ごめんなさい。これからは呼び捨てでいい?」
「うん。その方がうれしい。…私たちももう『美緒さま』とは言わなくてもいいのかしら」
「うん」
確かに忙しかった。
それに彼女たちも必死だった。
でも。
もう私たちは同志だ。
今夜のこの3人のおしゃべり。
さらなる強い絆を紡ぐことが出来ていた。
※※※※※
「お出かけ?」
「うん」
既に部屋の明かりは落とし、私たち3人仲良く川の字でベッドに横になっていた。
もちろんキャッキャうふふは無いよ?
流石は良識ある大人の女性の二人だ。
「今まで忙しかったじゃない?だからね、少し落ち着いたらギルドの女性陣全員で神聖ルギアナード帝国最大の都市、バラナーダへ行こうと思っているの。まあ護衛で数人の男性も同行はするのだけれどね」
以前訪れてから、うちのギルドは女性がとにかく増えた。
普段着るものなどには不足はないが、やっぱり彼女たちにも可愛い服を用意してあげたい。
何より街歩きは単純に楽しい。
私はワクワクする感情を湧き立てさせながら里奈と幸恵に告げる。
「あのね、スッゴク美味しいスイーツのお店とかもあるの。きっと里奈も幸恵も気に入ると思う」
「ふわー。なんかすごそうだね。…えっ、で、でも。私たちも一緒に行ってもいいの?」
なぜか遠慮がちに幸恵が零す。
彼女たちは今の状況、実際には私に雇われている状況だ。
確かに今日お互いの距離は間違いなく縮まってはいたが、よくよく考えれば幸恵の問いかけは必然だった。
「あー、うん。確かに里奈たちは私のお願いで働いてもらっている状況だけどさ。私はあなた達の事、使用人と思ったことは一度も無いよ?むしろ手伝ってもらえてうれしいのは私だもの。それにさっき言ったでしょ?あなた達は仲間なの。私の大切な仲間。だからさ、一緒に行きたい」
考えれば傲慢なことを言っているのかもしれない。
行き場のない彼女たちを引き取った私。
でもあの状況、彼女たちに選択肢がなかったのは事実だ。
それに今ヤマイサークが来てくれたおかげでやっと我がギルドにもお給金の概念が構築され始めていた。
恐ろしい事だが…
実は彼女たち、今まで『無給』の状態だ。
「そ、その。お給金とか設定してなくてごめんなさい。で、でも、お出かけの時には私たちで対応するから…そ、その…」
うあ。
改めて考えると私たちの対応酷すぎない?
思わず私は顔をしかめてしまう。
そんな私の手をそっと握る里奈。
恐る恐る里奈の顔を見る私。
「もう。そんなこと気にするわけないでしょ?それにすっごいお宝くれたじゃない。それでもう十分。それにこのギルド、お金いらないじゃない」
「あうっ、そ、そうだけど…で、でも、そ、その。…しょ、将来のこととか…」
もごもごしゃべる私。
今度は幸恵が私の顔を覗き込む。
「んー?なあに美緒。私たち、ここから出て行かないといけないのかな?そのために貯金しろって?」
悪戯そうな表情を浮かべる幸恵。
そしてにやりと顔を歪める。
「っ!?う、ううん?そ、そう言う事じゃ…ひゃん♡」
いきなり私に抱き着き、色気を噴き出させる幸恵。
何気に鼻息が荒い?
「んもう♡…美緒、めっちゃ可愛い♡…うあ、いい匂い…柔らかい♡」
「ひうっ?!ゆ、幸恵?…あんっ♡」
「…美緒に一つ教えとくね♡…私たち此処のギルド、めっちゃ気に入っているの。絶対に出て行かないよ?それにね…」
「ふわ、う、うん」
なぜかするりと密着し、私のつつましいものに手を這わす。
「私百合ではないのだけれど…それでもあなたは魅力的なの♡…大好き♡」
「うひゃん♡」
「…ゴクリ。…ズルい幸恵。…わたしも♡」
「うひゃ♡り、里奈?!あうっ♡」
22歳の美しい女性里奈と19歳のやっぱり奇麗で可愛い幸恵。
既にいろいろと経験値の高い彼女たち。
静かに寝るはずが。
結局『キャッキャうふふ』になってしまった夜。
私たち3人は深夜まで、色々な『勉強会』に溺れたのであった。
うん。
里奈と幸恵。
やばいです。
※※※※※
ギルドの聖域。
今ここにはエルノールとレギエルデ、ファナンレイリ、そしてアランの4名がしかめっ面を向き合わせ、打ち合わせを行っていた。
「ふう。それでアラン。エスピアの行方については情報が全くないってことなのね?」
「ええ。ファナン様。…むしろザルハンの方が知っているのではないのか?」
実は聖域。
メインキャラクターと重要な許可を持つものしか入ることが出来なかった。
どうやら創世神と創造神、その縛りはかなり強力で、ザルハンやスイなどは入室出来なかった。
「いや。彼も分からないそうだ。何しろ彼は300年前アラン達の島が襲われた後、神器を使い世界中をさまよったらしいのだが…反応はなかったらしい」
「龍姫エスピア、か。…ファナンレイリ様は面識あるのですか?」
「ええ。彼女とは以前面会をしているわ。すっごく美人さんよ?…そうね。聖獣の一人、青龍のウヲロンならもしかしたら…彼は4聖獣の一人、この世界にいる最後の人竜族の末裔。一度彼に会ってみましょうか」
当然ながら美緒にはすでに聞き取り済みだ。
どうやら過去の美緒のルートの時、出会ったときにはすでにエスピアはあの龍の墓場、南方の孤島にいたようだった。
だから美緒も今この瞬間、彼女エスピアの行方については情報がなかった。
「ねえアラン。何かそういうもの、あなた所持してはいないの?」
「うーむ。俺が目覚めた時そういうものはなかったのだが…うん?…そう言えば…」
腕を組み唸るアラン。
思い出したように目を見開く。
「…頭の中に聞きなれない声が響いたんだ。確か『エスピア…封印』とか言っていた気がする」
「封印?それは確かなのか?」
「間違いはないと思う。それに生存、と言っていた」
全員が頭をひねる。
どうやら生きているが封印を施されている状況。
さらには美緒の別ルートの情報を鑑みれば、いずれ解けるであろう封印。
「…ねえレギエルデ?あなたこの星、隅々まで探索したのよね」
「ええ。もちろん行けてない場所もあるけどね。…そうか。もしかしたら僕の行けなかった場所…その中のどこかに封印されている可能性が高いね」
レギエルデはすでに4000年以上この星をさまよっていた。
力を奪われた彼の能力はほぼ常人。
今は既にかつての力をほぼ取り戻しているとはいえ、その状況の時には到達できない場所がいくつかあった。
「僕は以前転移が出来なかったんだ。だから行けない場所はそういう場所に限定される。それから大精霊フィードフォートの領域とかね。それこそあそこならファナンレイリ様がいる今なら行けるのでは?」
まだ出てきていないメインキャラクターの一人、大精霊フィードフォート。
今回の都合の良い美緒のルート。
凄まじい幸運に包まれている彼女、きっとかなりご都合主義的な幸運が起こる可能性は高い。
「大体コメイとの出会いだって、まさに『究極のご都合主義』だったよ?だからさ、まずは大精霊のところから行ってみないかい?」
レギエルデの提案。
何故か苦虫をかみつぶしたような表情をするファナンレイリ。
「うう。フィードフォートの場所?…確かに私は把握もしてるし行けるけど…」
「…何か問題があるのですか?」
そんなファナンレイリの様子にアランが問いかけた。
「ちょっとね。…ねえ、美緒のお休みが開けたらにしない?私だけだと少し揉めると思うのよね。とりあえずは聖獣のウヲロンのところに行こうか」
「…揉める?」
「コホン。まあそういう訳だから…エルノール、サロンに行ってザルハンとスイと打ち合わせしましょう」
「は、はあ」
なぜかあせるファナンレイリ。
何となく察した皆は取り敢えず頷いていた。