「会議が終了いたしました!」
係りの者がやって来て、待合で待機している従者達に大声でそう告げる。
「まずは侯爵家が退出されますのでご準備ください!」
参加する貴族の数が多いため、貴族会議の入退出の順番は爵位で決まっていた。そうしないと混雑してしまうからだ。
順番は高位貴族である程会議場に入るのが遅く、出る時は早い。要は下っ端程待たされるシステムである。当然、我らがコーガス侯爵家は先頭集団だ。
「「お疲れ様です。レイミー様」」
「お二人共、お待たせしました」
会議所から出て来たレイミーは笑顔だ。その様子から、例の件を会議で伝えられた事が分かる。
「実は凄くいいお知らせがあるんです」
「そうなのですか?」
「ええ、実はですね――」
「コーガス侯爵家は随分とツイている様だな」
会議所から出て来た人物。白髪交じりの髪をオールバックにした紳士然とした感じの男性が、レイミーの言葉を遮る様に声をかけて来た。タイミングからも分かる通り、相手は侯爵家の人間だ。
……ピグムー・マーモッス侯爵。
「あ……そ、そうですね。有難い事です」
「まあこれまでが酷かった訳だから、これで少しは侯爵家らしくなって貰えると有難いのだがね」
ピグムーの発言は、此方を見下した不快極まりない物である。だがここで怒ったり気後れする様では、コーガス侯爵家としては話にならない。
……こういう場合の対応法はちゃんと教えてあるし、レイミーが実地出来るか確認させて貰うとしようか。
「ご安心ください。これまでは確かに不甲斐ない姿をお見せしていましたが、これからは違います」
「ほう……当主代理の君が侯爵家を立て直すしてみせると?」
「私も弟もまだまだ未熟者で、そこまでの力はありません。ですが……」
レイミーが一瞬此方を見る。
「今の我が家には、優秀な補佐役が仕えてくれています。ですので、肩透かしに終わる様な事はないと断言致します」
「随分とその執事の事を信頼しているのだな」
「はい」
ピグムーの問いに、レイミーが笑顔で答える。
……まあ100点満点とはいかないが、まずまずか。
因みに、減点ポイントは俺の方を見た事だ。未熟だから優秀な人間に頼るってのは現実味を出すために必要な話だが、途中で俺を見たら相手に依存し過ぎていると勘違いされかねない。コーガス侯爵家の立場からすれば、あくまでも上手く使ってるって体で行かんと。
「そうか……では、先ほどの失礼な発言は撤回しよう。すまなかった」
謝罪と共にピグムーが頭を下げた。急な掌返し。と言いたい所だが……
彼の言動は失礼でこそあったものの、そこに強い悪意の様な物は感じられなかった。なので、初めからレイミーを試すのが目的だったのだろうと思われる。
試すとか何様だよって思うかもしれないが、侯爵家のトップともなると知っておくべき事が多くなるからな。そして復興の兆しを見せ始めた侯爵家のトップがどの程度の人間かを知るのは、その中でも間違いなく重要事項となる。
だから失礼と分かりながらも、レイミーを試したのだろう。そして非礼を詫びて頭を下げた。
試すだけ試して謝らない様なのが貴族に多い事を考えると、彼はまともな方に分類されると言えるな。まあそもそも、俺ならこんな直球を放り込むような真似はせず裏でこそこそ調べるけど。
「へ?え?あの……」
『レイミー様。タケルです。どうか彼の謝罪を受け入れて上げてください』
侯爵に長々と頭を下げさせていると、悪い評判の元になりかねない。なので、頭を下げたピグムーを見て慌てふためくレイミーに、俺はその脳内へと言葉を送る。魔王から模倣したアレで。
……こういう場合、アクションを返してもらわないと相手は頭を上げられないからな。
「――っ!?あ……私は気にしていませんので、どうか頭を上げてください」
「感謝する」
レイミーに言われてピグムーが頭を上げる。
「お詫びと言う程でもないが、今後何か困った際は、マーモッス侯爵家を頼ってくれていい。可能な限り助力する事を約束しよう」
俺が魔王の方を方を見ると――
『嘘は言っていない』
――という返事が返ってくる。
「あ、は、はい!ありがとうございます!」
ただ謝るだけではなく、律義に借り一回とカウントしてくれるのなら有難い。他の侯爵家の当主にしておくには勿体ない人物だ。
「では失礼する」
用が済んだピグムー・マーモッス侯爵が去って行く。
「次の方々の邪魔になってしまいますので、我々も参りましょう」
「そうですね」
俺達もその場を後にする。
「あ、そう言えばさっきのアレはなんだったんでしょうか?急にタケルさんの声が私の頭の中に聞こえたんですけど」
「先程の物は、エーツーから最近教えて貰った秘術でして――」