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第59話 進展

俺はケリュム・バルバレーの屋敷に来ていた。彼には領地発展事業の中核を担わせており、その進展を確認する為だ。


「募集は順調ではない様ですね」


用意された書類に目を通し、芳しくない結果に眉根を寄せる。


「何分、長きに渡って呪われて来た領域ですから。聖女様が解呪されたとはいえ、好んで住みたいと思う者は中々……」


ケリュム・バルバレーがそう苦し気に答える。


現在、急ピッチで聖女の住処とインフラ、それに鉱物採掘場の準備を進めているのだが、とにかく人の集まりが悪い。


「ふむ、予想はある程度していましたが……」


それ相応の報酬を用意し、安全のために聖女が領地に留まってさえいればそこそこ集まると思っていたのだが、少し考えが甘かった様だ。


「仕方ない。募集の報酬を引き上げましょう」


人は金に弱い者だ。そして彼らに危険を乗り越えるだけの勇気を与えるのは、その内に抱えるあくなき欲望に他ならない。なのでそこを刺激し、人を集める。


「そうですね……この際、一気に二倍ほどにするとしましょうか」


「宜しいのですか?」


元々が破格の募集だった。そこから更に二倍ともなると、相当な負担になる。だが――


「人が集まらない事には始まりませんからな」


利益が減ろうとも、まずは安全性をアピールする為の実績づくりが重要だ。まあ棚ぼた的に金の鉱脈も手に入っているので、初期投資が多少高くついてもどうってことはないしな。


「よろしく頼みますよ」


「お任せください」


用は済んだので、俺は転移で屋敷へと戻った。やる事は山積みだ。そしてそのうちの一つの進展が思わしくなく、俺は自身の執務室で一人ぼやく。


「しかし……闇蠍やみさそりも中々尻尾を掴ませんな」


闇蠍というのは、コーガス侯爵家の暗殺を請け負った糞みたいな闇組織の名だ。当然そのまま済ませるつもりは更々ないので、現在は分身を使って色々と調査しているのだが……相手が情報の遮断を徹底しているためか、中々本丸の情報を掴ませてくれない。


「一応、今一番期待出来るのは青の勇者んとこだが……」


青の勇者。それは隣国である、ミドルズ公国で名を知られるある傭兵の通り名である。


勇者なんて言われているだけあって、その腕前は中々の物だった。だいたいコサインと同じぐらいなので、一般的な人間の中では極限に近い強さを持っていると言えるだろう。


その青の勇者はどういう訳か、闇蠍に執拗に命を狙われていた。


「理由は分からんが、下っ端とは言え、相手から続々と飛び込んできてくれるからな」


噂を聞きつけ、俺が接触する様になってから既に二桁以上の襲撃が発生している。失敗続きだというにもかかわらずここまで執拗だという事は、ただの依頼とは考えづらい。恐らく何らかの意図があっての事だと思われる。


もし成功するまで暗殺を慣行する様な組織なら、コーガス侯爵家もまだ狙われてないとおかしいからな。まあ支部を壊滅させてるから撤退しただけの可能性もあるが……


まあなんにせよ。有力な手掛かりに繋がりそうなのがそこだけなので、マークは続ける事になる。


「調査とかが出来る転生者がやって来てくれると、楽でいいんだがな……」


どっかに転がってないだろうか?

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