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第33話 ルームメイドは三姉妹! 筆の家、さらににぎやかに

 王都〈ルミアステラ〉の夕刻、橙に色づいた空の下、筆の家・厨房亭の前にふたたび王宮御用達の黒漆四頭立て馬車が静かに停まった。扉が開くと、金眩しい装飾ではなく、凛と整ったメイド服に身を包む三人の女性が現れた。


「お届け物でーす♪ 人手、三名! 締切なし、即戦力でございます!」

 末っ子のミィが明るく呼びかけると、控えめな一人が「ミィ、声が大きい。貴族街では特に静かにしなさい」とたしなめる。


 長女、セリス。年齢不詳(たぶん二十代前半)。白いエプロンが映える清潔感あふれる立ち居振る舞いと、一音一句まで崩れない敬語が、まさに〈王宮模範メイド〉の風格を漂わせる。

 次女、ラミナ。淡い紫の髪をひとつに束ね、無表情ながらも目鼻立ちは凛とし、どこか毒を帯びた言葉を吐く。その冷静沈着ぶりは、厨房の裏方仕事にこそ向いている。

 三女、ミィ。小柄で元気いっぱい。鮮やかなトマト色のリボンを髪に結び、なぜかトマトの小さなぬいぐるみをいつも胸に抱えている。盛り付けのセンスが抜群で、子どもたちを中心に大人気だ。


「……おかげで、また一段とにぎやかになったな」

 リュウは笑いを噛み殺しつつ、ラグレス内大臣からの手紙を改めて見つめた。


『厨房亭の人手が足りぬと聞き、信頼のおける補佐人員を三名派遣した。

 一人は“皿を絶対に割らぬ天才”、一人は“時間ぴったり女史”、最後の一人は“謎の逸材”見事な布陣だ。』


「“謎”って、つまりミィちゃんでしょ?」

 ルナが肩を竦めると、ミィはぴょこりと手を振った。


「はいはい、謎のミィです! 盛り付けは“魂”でやります!」

 ミィが皿を掲げると、そこにはにんじんを星型にくり抜いた一皿が。まるで小さな夜空を切り取ったように愛らしく並んでいる。


「……うん、これは確かに芸術点、高い」

 ラミナがそっと頷き、セリスは厳かに微笑んだ。


 その日から三姉妹は即戦力として厨房亭を支えた。

• セリス:ホールの統率とオーダーの一本化を担当。客の顔と頼む一品を一瞬で記憶し、エプロン越しでも優雅に動く。

• ラミナ:裏方の達人。大量の洗い物も備品管理も静かに完遂し、調理補佐では食材の下ごしらえを漏れなく進める。

• ミィ:盛り付けの魔術師。お子様プレートから大皿まで、色とりどりの野菜を星や花に似せて飾る。「かわいい!」の歓声が耐えない。


「これで、筆の家の“朝が来ない”問題も少しは解決したな」

 ティアが紅茶をひとすすりすると、モモはミィが生み出した星型にんじんを頬張りながら、大きく頷いた。


「ねえ、またお姉ちゃんが増えて、うれしい!」

フィナはそっと微笑み、「家って、にぎやかだとあったかいんだね」と呟く。


 その夜。リュウは原稿帳を開き、再び筆を走らせた。


「筆の家に、セリス・ラミナ・ミィの三姉妹メイドが加わった。一人は静かに笑い、一人は黙々と働き、最後の一人は星型にんじんを並べる。家はまた一段と、にぎやかで、あたたかくなった。」


 部屋の奥、ミランダはまな板に手を添え、小さく微笑んだ。


「……家族って、こうして増えていくのね」


 リュウもふっと笑う。


「さて、次は……部屋を増やすか」


 夕暮れが深まり、暖かな灯が窓の向こうに灯る。

 新たな風を告げる三姉妹の笑い声とともに、筆の家の物語はまた一歩、前へ進んでいく。

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