『おんおん、登場だおん』
『責任者……違った! おんおん様!』
え? 責任者を呼んだら、超レアキャラがふわふわ飛んできたよ!
おんおん様。
クリアしたばかりのあのルートに出てきた、聖女の守護聖獣様だ。
おんおん、音々? 恩々? 考えながらゲームをしてたけど、それはけっきょく分からなかったな。
フワフワもふもふ。猫みたいな耳、兎のような丸しっぽ。
色は、多分、シルバーグレイ。かわいいかわいい毛玉ちゃん。
かわいい姿でこれがまあ、すごいの。
聖女は名誉ある存在だけれど、守護聖獣様に守護された聖女は、さらに上の聖女として認識されるのね。伝説の大聖女様がそうでいらしたという記録があるらしくて。
簡単に言うと、この国では王子どころか王太子よりも立場が上の存在で。
国王陛下と王妃様、聖教会の総司教様以外の人間には
しかも、守護聖獣様は、この方々よりも立場がさらに上。
そんな守護聖獣様のお力で、聖女ちゃんは聖なる
あのルートでの、希。
悪役令嬢様とともに、この国のために力を尽くすこと。
悪役令嬢様も、ご実家公爵家も、王子なんかより聖女ちゃんの方が一億倍よりも上、と大賛成。もともと、ご実家的には頼まれて仕方なく、の婚約関係だったし。
『おんおん様、なんで……』
『さすがはあのルートをクリアした猛者だおん。念話で話してくれるなんて、だおん』
念話。確か、ものすごい魔力持ちがいろいろしたらできる、念じて話すという話し方だ。できてるの? すごいな、私、というか……聖女ちゃん。
と、いうことは?
『夢、じゃないんですね、これ』
『わかりみも深いおんね。音々とかの考察もネタバレせず、でありがとうだおん、のあなたには、聖女様になってもらうおん。向こうのあなたにはコーパルの魂が入ってるおん。悪役令嬢アントラサイトを敬愛するもの同士、魂が惹かれ合ったので、心配ないんだおん』
『魂? 聖女ちゃん、私になっちゃったの? 無事なんですか? あと、魔法がない世界だなんて! とかなんとか、パニック起こして騒ぎになったりとかはしてませんか? 電子レンジ壊した! とか』
無事で、はもちろんだけど、騒ぎも困る。
マンションの賃貸更新料、払ったばかり!
『大丈夫だおん、偉大なる聖霊王様の
あのコメをしてた私、コーパルちゃんだったんだ。
『……信じます、おんおん様。あと、日に三度のログボ、ほんとうにありがとうございます』
おかしな話だけど、今の私の中に、聖女コーパルちゃんの記憶もあったのだ。
そりゃもう、しっかりと。
寝る間も惜しんで、おんおん様とお勉強。
そんな記憶のうちのひとつ、聖女ちゃんが見ていた像を映す水晶の中にいたのは、最寄り駅のホームで朝のログボをもらう私だった。
あれは、ルート到達直前のときだ。
私はまあ、一応同年代よりは稼いでいる社会人。
社畜とかじゃないし、週休二日はきちんと、リモートワークも割と可能な、この間読んだ悪役令嬢が社畜に転生、とかのスマホアプリのコミックよりは、はるかにいい会社勤めだと思う。
一人暮らしのマンションはまあまあ片付いてるし、今は彼氏もいない。家族や友達も、会えないからと文句を言うような人たちじゃないし。
有給も、余ってるからそろそろ使えって言われてるし。
……しばらくなら、大丈夫かな?
『よかったおん。じゃあ、とりあえず、こいつらを滅するおん』
『滅する?』
いや、それは……。
全年齢対象スマホゲーの攻略対象者を葬り去るのは……ねえ。
『たとえだおん。ここから去らせるだけだおん』
よかった……それなら、大賛成。
むしろ、とっととやっちゃってください!