(でも……)
夜、ベッドの中で考える。なかなか寝付けないのだ。
私がお義父様からアイラ様の真実を聞いたのは忘れもしない、十三歳の誕生日の前だった。
私が社交界に出るまで内緒にしておくことはできないから。そうお義父様は言っていた。
その時は何も疑問に思わなかった。
聞かされた話は衝撃的だったし、幼い私には話せなかったというのも当然だと感じた。
それまでお義父様はアイラ様を……亡くした妻を、今でも愛していると思っていた。でも彼女の悪事を知って、その愛が消えたのだと知った。自分の想像をはるかに超えた現実にショックを受けた。
それで、私は正しく生きていかなければいけないと思った。
気付けば自分を包む毛布の端を強く握っていた。手触りは柔らかく、心地よいはずなのに――その温かさが、逆に私の胸のざわつきを際立たせている気がした。
包み込まれているのに心が安まらない。視界に入る自分の腕もなんだか頼りなくて、冷えた空気が背中にじんわりと忍び寄るようだった。
私はもう、十八歳になった。
当時の自分が感じたことももちろんよく覚えている。でも今になって改めて考えてみると、違和感を覚えるのだ。幼い頃の自分では感じなかったことだ。
お義父様は結婚する前からご令嬢との結婚に後ろ向きだった。それがアイラ様を好きになり、「別人のように変わって」、結婚したのだとしよう。
それほど、人生観を変えてしまうほど、当時のアイラ様がお義父様にとって特別な存在だったとしたら。
幸福の絶頂にいたはずのお義父様がまさに新しい家庭を築こうという時に、弟の子を引き取るようなことをするだろうか?
(やめなきゃ。こんな考え)
思考を無理矢理止めようとした。でも小さな違和感から生じた疑問はもはや大きな渦となっていた。
たとえ大切な弟が愛する人を失い、その子を伯爵令嬢として育てたいと言ったとしても……それが結婚したばかりの妻を苦しめるとわからないはずがない。
それに……アイラ様は私を引き取ることを快く了承したと聞いていた。でも、本当にそうだったのだろうか?
大人になった今、私がアイラ様の立場になって考えたら――そんな決断、到底受け入れられない。
それとも。
それとも……。
普通は了承するはずがないことを、アイラ様は受け入れた。そうせざるを得ない理由があった?
お義父様のあまりに重い要求を、呑まなければならないほどの理由が……。
思考を続けた私の脳裏に、ある恐ろしい単語が浮かんできた。あの夜に聞かされた真実。アイラ様の罪。犯罪者。
彼女が加担していた悪魔の所業。
「人身売買」。
(お義父様は、知ってたの)
全身が総毛立つ。
(これは最初から、「私のための」結婚だった?)
私は記憶のある限り、ずっとあの屋敷で育った。
「ラインハルト様」が自分の父親だと思っていたけれど、あまりに「アダム様」がよく家を訪ねてくれたので、二人のことが同じくらい好きだった。
母が亡くなったから二人で育てているような気持ちでいると伝えられ、そういうものなんだと納得した。
二人の愛情はとても深かった。母がいないことに一定の淋しさ以上の感覚を抱かないほど、私はずっと満たされていた。心の底から信頼していた――だから本当の父と母について聞かされた時も、私を思ってのことだと腑に落ちた。
特殊な環境だったのだろうか。
異常な状況だったのだろうか?
二人の愛情は……とても、とても、深かった。
まるでラインハルト様の妻のことなど、初めから想定に入っていなかったかのように。