ユアン個人を招待するわけにはいかないので、またしても屋敷のみんなに協力してもらうことにした。
私はペンドルトン氏と再び打ち合わせの日程を組み、ユアンも連れてきてもらうよう頼んだ。探らせていた限り彼の屋敷の雰囲気が変わったという報告はなく、ペンドルトン氏の返答も変わらず友好的だった。
打ち合わせは私の屋敷の書斎で行われた。ユアンにも構造を理解しておいてもらうため、一度案内させたのだ。
「素敵な書斎ですね、ミセス・ベネット」
「ミスター・ペンドルトン。ありがとうございます」
ユアンは彼の後ろにつき、いつも通りの挨拶をしてくれた。世間話に対して微笑んでもくれるし、あからさまに態度に出すようなことはしない。ペンドルトン氏が息子の異変に気付いた様子もない――それでもその目が確かに、以前とは違う。
「リディアは、元気にしていますか? また会う機会があればいいのですが」
「お会いできたこと、光栄だと申しておりました。こちらこそ、是非またいずれ」
ペンドルトン氏は嘘の吐けない人だ。彼はリディアが私と通常の付き合い以上の関係を持ったことを把握していない。それに、リディアも今まで通りの生活を続けられている。問題は起きていない。
幸運にも彼が書棚に興味を示してくれたので、視線が外れたタイミングでユアンに手話を送る。
「〈夜のうち迎えに行くわ。いつならいい?〉」
「〈早い方がいい〉」
彼は表情の読めない目でそれを読み取った。すぐに返ってきた返事は鋭く短い。
(……そうでしょうね)
また少し胸が痛んだ気がするのに気付かない振りをして、私は再び手を動かした。
「〈じゃあ、今夜。ここで〉」
目だけで頷かれて、返答はなかった。
「ではでは、ちゃちゃっと連れてきますねー!」
ルビーは連日の「仕事」にハイテンションで出掛けていこうとしたので、つい呼び止めてしまった。
「ルビー、彼だって彼なりの……正義があって、苦しんでると思うの。あまり傷付けないようにして」
「奥様にだって、あたしにだって正義があります」
自分のしたことが間違っていたとは思わない。でも、ユアンの理解が得られるかどうかはそれとは別の話だ。そんなことを彼女に説明するのもただ混乱させるだけかもしれないと思ったら、何と言えばいいかもわからなくなった。
「……そうね。本当にね」
普通に思ったことを言ったのだろうルビーは、私が困ったと見て急にしおらしくなってしまう。
「あの、ごめんなさい、奥様」
「違うの。謝らなくていい。ほら――あなたがいないと、私、彼と話すことさえできないわ」
冗談めかして言えば素直に笑ってくれる。ルビーがペンドルトン邸に向かったのを見送り、窓からしばらく外を見下ろしてソファに戻る。
時計の針が進むのをただ見送る、何の生産性もない時間を過ごす。
自分でも何をやっているのだろうと思う。
けれでも、この静寂が必要だ。
自分の気持ちを調えるのに……。
あの夜、ユアンはどんな気持ちだったのだろう。
あの夜から、ずっとどんな気持ちでいるのだろう。
彼はリディアを問い詰めていない。私の言う「事情」が自分の納得できる範囲であることを信じて待っている。普通に生活をしてくれている――リディアの望む生活を、壊さずにいてくれている。
そんな優しい子の目が、これから失望で濁るのか。
ノックの音が、いつもより静かだった。
ユアンを連れて入ってきたルビーと目が合ったときにそれを確信した。私の気持ちを汲んでくれたことは小さな動作からでも伝わるものだ。
大丈夫。
彼女が扉の前に控えていてくれるだけで、私は大丈夫。
「〈そんな、敵を見るような目は悲しいわ。ユアン〉」
ユアンの顔は少し疲れているように見えた。それでも身なりは整いすぎるくらいにきっちりと整っている。
彼がどれほどこの時を待っていたのか、そして気を張ろうとしているのか。
厳しい目が訴えかけてくる。
「〈敵じゃないって、聞いてないから〉」