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独白 2

 ソフィア。

 君の持っていた正義の光は、娘へと確かに受け継がれた。あの子はいつも人を守ろうとし、自分がそれにかかる負担を負おうとする。

 君と同じだ。

 組織の拡大に伴う変容を憂い、去っていった者がいる。その者のことをアザリーはわたしに秘匿していた。

 父親であるわたしが、その者のきわめて人間的な憂いを許さないと考えたのだ。

 そして去り行く者の感情に寄り添おうとした。憎からず思っていただろう彼を庇っていたことは、その者が去ってようやくわたしに明かされた。

 彼を庇ったことは、わたしへの背信ではない。あの子はただ内心の情を捨てなかっただけだ。

 むしろ、それがあの子の限界線だと知れて、わたしは安堵している……。

 あの子はひとり、未だ純粋な秩序の中にある。

 君が生きていたら、どう思っただろう。君が愛した秩序は、果たして今の組織に宿っているのだろうか?

 アザリーが組織に留まっているのは、わたしがいるからだ。

 あの子はわたしが率いる限りこの組織に留まるだろう。そして昔と変わらず、正義と秩序を守りたいと言うだろう。

 だが、このままではいずれその信念ごと壊れてしまう――そう、今回の行動を見ていてよく分かった。

 君を救えなかった代わりにわたしは組織を作った。だが、それは君の娘を苦しめるものになってきてしまっている。

 組織にいることと秩序を守ることがイコールではなくなる前に、わたしは手を打たなければならない。

 あの子が心を壊す前に選択しなければならない。

 あの子の瞳の輝きは決して失われない。失われるべきではない。


 ――ソフィア。

 シャーロック・ホームズが、組織に生じた綻びを捉えた。

 それはほんの小さな躓きだ。

 規模が拡大していく中で、予測されたことではあった。我々が手にした力の余波が、結果としてあの探偵の観測する先に跡を残すこととなったのだ。

 これまでにも彼が我々を探ろうとする度に、わたしはそれを妨害してきた。わたしと彼は幾度もの攻防を重ねてきた。わたしは完璧な勝利を収めることが常だったのだが、ついにそれが崩れた。

 彼こそがこの組織を崩壊させるのかもしれない。

 わたしが昔から心血を注ぎ、君のような犠牲者を出さないためにと思って守ってきた組織だ。むろん、失いたくはない。

 たとえ最後にあの探偵が全てを暴いたとしても、わたしの考え方を変えることはできない。わたしの選んだ道が誤りだったとは、決して認めない。

 組織の壊滅を狙ってすっかり張られた彼の罠に対しても、持てる力のすべてを使って対処していく。わたしがあの探偵に何も報いずに捕まることはありえない。

 ただ、少し。

 いずれはこうなる運命だったのかもしれないと、思うこともある。

 ……嘘だ。ソフィア。

 そんなことは考えていないとも。我々は秩序のために戦っている。大丈夫だ。

 それにたとえ何が起きようと、君の娘は。

 わたし達の娘のことだけは守る。何に代えようとも。


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