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第11話

 「お前を……俺が守る」




 蒼真の言葉が、大広間に響いた。




 俺は、耳を疑った。




 「……は?」




 蒼真は真剣な顔で俺を見つめている。




 「だから、言っただろ? 俺が、お前を守るって」




 彼はまっすぐな目をしていた。迷いも、冗談めいた雰囲気もない。本気の、本気だった。




 ……だけど、俺にはそれが信じられなかった。




 「……冗談だろ?」




 俺は低く呟いた。




 「俺を守る? お前が?」




 「当然だろ。お前は"王女"なんだから」




 その瞬間、カッと頭に血が上った。




 「ふざけるな!」




 俺は勢いよく立ち上がり、蒼真を睨みつけた。




 「俺が、お前に守られる? ふざけるな! 俺は神崎蓮だ! お前と剣を交え、互いに切磋琢磨してきた"剣士"なんだよ!」




 蒼真の目が驚きに揺れる。




 「だけど……お前はもう……」




 「"もう"じゃねぇよ! 身体が変わったからって、俺の本質まで変わったわけじゃねぇ!」




 俺は怒鳴りつけた。




 「……でも、お前、もう剣を振れねぇだろ?」




 蒼真の言葉に、胸が締め付けられる。




 そうだ。分かっている。




 俺の身体はもう、かつての剛剣を振るえるものではない。力がない。筋肉が足りない。


 そして、実際、戦ったときも以前ほどの精度は出せなかった。




 それでも――それでも、俺は戦いたい。




 「だからって、お前に守られるなんてごめんだ!」




 俺はギリッと奥歯を噛みしめた。




 「俺は、お前の隣で戦うんだ。お前の後ろで縮こまるつもりなんか、これっぽっちもねぇ!」




 蒼真はじっと俺を見つめていた。




 そして、深く息をついた。




 「……お前らしいな」




 「当たり前だろ」




 俺は腕を組み、そっぽを向いた。




 「だけどな、蓮」




 蒼真の声が低くなる。




 「この世界で、お前は"王女"なんだよ」




 「……」




 「どれだけ強くても、どれだけ抗っても、それは変わらねぇんだ」




 そう言われて、俺は何も言えなくなった。




 蒼真はゆっくりと歩み寄る。




 「なぁ、蓮……じゃなかった、レイシア」




 その名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。




 「お前は、この世界でどう生きるつもりだ?」




 俺は言葉に詰まった。




 「……」




 「元の世界に戻る方法を探すのか? それとも、このまま"王女"として生きるのか?」




 「……そんなの、分かるわけねぇだろ」




 俺は小さく吐き出すように言った。




 「だけどな、蒼真」




 俺は真っ直ぐに彼を見た。




 「お前の後ろに隠れるつもりは、絶対にない」




 蒼真は少しだけ苦笑した。




 「……だろうな」




 「分かってんなら、もう二度と言うな。俺を守るなんて」




 「……分かったよ」




 蒼真は肩をすくめた。




 「でも、約束しろ」




 「……?」




 「無茶はするなよ」




 その言葉に、俺は目を見開いた。




 「……」




 「お前が俺の隣に立ちたいなら、それは構わねぇ。でもな――」




 蒼真の瞳は、どこまでも優しかった。




 「お前が無理して、傷つくのだけは見たくねぇんだよ」




 その言葉が、妙に胸に響いた。




 「……余計なお世話だ」




 俺はそっぽを向いた。




 「ま、言っても聞かねぇだろうけどな」




 蒼真が苦笑しながら言う。




 「分かってんなら、最初から言うな」




 「お前にだって、ちゃんと伝えたかったんだよ」




 俺は思わず赤くなった。




 「……クソ、もういい!」




 俺は踵を返し、その場を立ち去ろうとする。




 「お、おい! どこ行くんだよ!」




 「剣を使える方法を探す!」




 俺は叫びながら、大広間を飛び出した。




 その背中に、蒼真の笑い声が響いた。




 ――俺は、戦う。




 どんな形であれ、俺は戦士として、この世界に立つんだ。

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