「お前を……俺が守る」
蒼真の言葉が、大広間に響いた。
俺は、耳を疑った。
「……は?」
蒼真は真剣な顔で俺を見つめている。
「だから、言っただろ? 俺が、お前を守るって」
彼はまっすぐな目をしていた。迷いも、冗談めいた雰囲気もない。本気の、本気だった。
……だけど、俺にはそれが信じられなかった。
「……冗談だろ?」
俺は低く呟いた。
「俺を守る? お前が?」
「当然だろ。お前は"王女"なんだから」
その瞬間、カッと頭に血が上った。
「ふざけるな!」
俺は勢いよく立ち上がり、蒼真を睨みつけた。
「俺が、お前に守られる? ふざけるな! 俺は神崎蓮だ! お前と剣を交え、互いに切磋琢磨してきた"剣士"なんだよ!」
蒼真の目が驚きに揺れる。
「だけど……お前はもう……」
「"もう"じゃねぇよ! 身体が変わったからって、俺の本質まで変わったわけじゃねぇ!」
俺は怒鳴りつけた。
「……でも、お前、もう剣を振れねぇだろ?」
蒼真の言葉に、胸が締め付けられる。
そうだ。分かっている。
俺の身体はもう、かつての剛剣を振るえるものではない。力がない。筋肉が足りない。
そして、実際、戦ったときも以前ほどの精度は出せなかった。
それでも――それでも、俺は戦いたい。
「だからって、お前に守られるなんてごめんだ!」
俺はギリッと奥歯を噛みしめた。
「俺は、お前の隣で戦うんだ。お前の後ろで縮こまるつもりなんか、これっぽっちもねぇ!」
蒼真はじっと俺を見つめていた。
そして、深く息をついた。
「……お前らしいな」
「当たり前だろ」
俺は腕を組み、そっぽを向いた。
「だけどな、蓮」
蒼真の声が低くなる。
「この世界で、お前は"王女"なんだよ」
「……」
「どれだけ強くても、どれだけ抗っても、それは変わらねぇんだ」
そう言われて、俺は何も言えなくなった。
蒼真はゆっくりと歩み寄る。
「なぁ、蓮……じゃなかった、レイシア」
その名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。
「お前は、この世界でどう生きるつもりだ?」
俺は言葉に詰まった。
「……」
「元の世界に戻る方法を探すのか? それとも、このまま"王女"として生きるのか?」
「……そんなの、分かるわけねぇだろ」
俺は小さく吐き出すように言った。
「だけどな、蒼真」
俺は真っ直ぐに彼を見た。
「お前の後ろに隠れるつもりは、絶対にない」
蒼真は少しだけ苦笑した。
「……だろうな」
「分かってんなら、もう二度と言うな。俺を守るなんて」
「……分かったよ」
蒼真は肩をすくめた。
「でも、約束しろ」
「……?」
「無茶はするなよ」
その言葉に、俺は目を見開いた。
「……」
「お前が俺の隣に立ちたいなら、それは構わねぇ。でもな――」
蒼真の瞳は、どこまでも優しかった。
「お前が無理して、傷つくのだけは見たくねぇんだよ」
その言葉が、妙に胸に響いた。
「……余計なお世話だ」
俺はそっぽを向いた。
「ま、言っても聞かねぇだろうけどな」
蒼真が苦笑しながら言う。
「分かってんなら、最初から言うな」
「お前にだって、ちゃんと伝えたかったんだよ」
俺は思わず赤くなった。
「……クソ、もういい!」
俺は踵を返し、その場を立ち去ろうとする。
「お、おい! どこ行くんだよ!」
「剣を使える方法を探す!」
俺は叫びながら、大広間を飛び出した。
その背中に、蒼真の笑い声が響いた。
――俺は、戦う。
どんな形であれ、俺は戦士として、この世界に立つんだ。