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第12話

 「お前、蓮を守れるのか?」




 大広間に張り詰めた空気の中、蒼真が低い声で言った。




 ユージン・クラウゼは微動だにせず、鋭い青い瞳で蒼真を見据えている。




 「当然です。姫様をお守りするのが、私の務めです」




 「……は? 勘違いしてんじゃねぇよ」




 蒼真がユージンへと歩み寄る。




 「蓮は俺の幼馴染だ。誰よりも長く一緒にいて、誰よりも近くで支えてきたのは俺だ。だから、俺が守る」




 「それは"過去"の話でしょう」




 ユージンは冷静に言い放つ。




 「今の姫様は、このアルザード王国の王女。貴方の知る"神崎蓮"ではありません」




 「ふざけるな!」




 蒼真が鋭く睨む。




 「蓮は蓮だ! 王女になったからって、アイツの本質が変わるわけじゃねぇ!」




 「ですが、姫様の立場は変わりました」




 ユージンの表情は微動だにしない。




 「私はこの命に代えても姫様をお守りします。それが、王女の騎士としての使命です」




 「……その使命とやらのために、アイツを檻の中に閉じ込めるつもりか?」




 蒼真の声が低くなる。




 「アイツは戦う人間だ。護られるだけの存在じゃねぇ」




 ユージンの目が、わずかに揺れた。




 「……分かっています」




 「分かってねぇだろ。だったら、"姫様"じゃなくて"蓮"としてアイツを見ろよ」




 蒼真の言葉に、ユージンの表情がわずかに険しくなる。




 「それは……できません」




 「なぜだ?」




 「姫様は王族です。どんなに剣の才があろうとも、王族が自ら戦うべきではない。それが、この世界の掟です」




 「そんなもん、知ったことかよ!」




 蒼真が一歩前に出る。




 「アイツの意思を無視して"護られるだけの存在"にするつもりか? それが、お前の忠誠ってやつか?」




 「……!」




 ユージンの拳が強く握られる。




 「私は……」




 「やめろ!」




 俺は二人の間に割って入った。




 「くだらねぇことで争うな!」




 二人の視線が一斉に俺に向けられる。




 「くだらない?」




 蒼真が呆れたように言った。




 「お前を守るって話なんだけど?」




 「そうだ。だからこそ、俺が決める」




 俺は両手を腰に当て、二人を交互に睨んだ。




 「蒼真、お前は"俺"を守るって言うけどな、俺はお前の後ろに隠れるつもりはねぇ」




 「それは分かってる。でも、お前は前みたいに戦えねぇだろ?」




 「だからって、お前の後ろに下がる理由にはならねぇ」




 蒼真が歯を食いしばる。




 「ユージン、お前もだ」




 俺は鋭い視線を彼に向けた。




 「俺を"姫様"として扱うのは勝手だが、それで俺の意思を無視するなら、俺の騎士なんかやめちまえ」




 ユージンの目がわずかに見開かれる。




 「俺は王女になったかもしれねぇ。でも、それでも俺は戦いたい。守られるだけなんて、ごめんだ」




 沈黙が落ちる。




 やがて、ユージンが静かに息をついた。




 「……承知しました」




 俺は驚いて彼を見た。




 「え?」




 「姫様のご意思を尊重しましょう」




 ユージンは静かに頷いた。




 「私の使命は、姫様をお守りすることです。しかし、それが"戦う自由を奪う"ことになるのなら、本末転倒でしょう」




 「……マジかよ」




 蒼真が呆れたように言う。




 「お前、あっさり認めるのか?」




 「姫様がそう望まれるなら」




 「なんだよ、それ……」




 蒼真がぽりぽりと頭をかく。




 「お前、プライドとかないのか?」




 「あるが、それよりも大切なものがあります」




 「……なんだよ、それ」




 「姫様の意思です」




 ユージンは淡々と言う。




 蒼真がしばらくユージンを睨みつけていたが、やがて深いため息をついた。




 「はぁ……分かったよ」




 彼は渋々といった表情で腕を組む。




 「でもな、ユージン。俺もお前と同じくらい、いや、それ以上に蓮を守るつもりだからな」




 「ならば、共に姫様をお守りしましょう」




 ユージンが微笑む。




 「……面白くねぇな」




 蒼真がぼやくように言った。




 俺はようやく肩の力を抜き、二人を見た。




 「……お前ら、本当に面倒くせぇな」




 「どっちが?」




 「両方だ」




 俺の言葉に、蒼真とユージンは一瞬顔を見合わせ――そして、同時に苦笑した。




 こうして、"俺を守る戦い"は、ようやく幕を閉じたのだった。

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