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第17話王国滅亡の真実

 夜の城の書庫は、静寂に包まれていた。




 高くそびえる本棚の間に並ぶ無数の書物。


 歴史書、戦記、魔法理論書――どれも古びた紙の匂いを漂わせている。




 「……こんなにあるのかよ」




 俺はため息をつきながら、目の前の本の山を見つめた。




 「姫様、どこからお調べになりますか?」




 隣で静かに問いかけるのは、ユージンだった。




 「どこからって言われてもな……」




 俺は目の前の分厚い歴史書を一冊取り上げ、表紙をめくる。




 アルザード王国の滅亡――その真実を知るために。




 王族として目覚めて以来、ずっと違和感があった。




 なぜ俺はこの身体に転生したのか?


 なぜ、俺が"最後の王女"などと呼ばれるのか?




 そして――なぜ、アルザード王国は滅びたのか?




 「今までの話だと、アルザード王国は戦争で滅んだってことになってる。でも、本当にそれだけなのか?」




 「確かに……」




 ユージンは静かに頷いた。




 「戦争による滅亡にしては、あまりにも不自然です」




 「だろ?」




 俺は歴史書をめくる。




 そこには、王国の滅亡についての記述があった。




 "アルザード王国は隣国ヴィストリア帝国との戦争に敗れ、滅亡した"




 「……それだけか?」




 俺は眉をひそめる。




 「戦争に敗れた国なんていくらでもあるだろ。でも、この国は王族の血が絶えたって言われてるんだよな?」




 ユージンは頷く。




 「その通りです。通常、敗戦国であっても、王族が全滅することは稀。降伏し、新たな体制のもとで生き残る例がほとんどですが……」




 「なのに、アルザード王家は完全に消えた……?」




 俺は本を閉じ、ユージンの方を見た。




 「なぁ、これって"意図的"に王家を潰されたってことじゃねぇか?」




 ユージンの表情が僅かに険しくなる。




 「……そう考えざるを得ませんね」




 「ってことは、アルザード王国の滅亡は、単なる戦争の結果じゃねぇってことだ」




 ユージンは少しの間考え込み、やがてゆっくりと口を開いた。




 「姫様……もし、王家の血を断つことが目的だったとすれば、それは"王族が持つ何か"が脅威と見なされた可能性が高い」




 「王族が持つ何か……?」




 「アルザード王国には、代々伝わる"秘術"があると聞きます」




 「秘術?」




 俺はユージンを見つめた。




 「それが何なのか、詳しい記録は残されていません。しかし、王家の血統にのみ継承される"特別な力"があったという言い伝えがあります」




 「……待てよ」




 俺は思わず拳を握った。




 「じゃあ、その"力"を恐れた誰かが、王家を潰したってことか?」




 ユージンは頷いた。




 「可能性はあります。しかし、それを証明する記録がない……」




 「くそ……」




 俺は歯を食いしばる。




 「俺が王女として生まれ変わったことも、その"力"と関係してるのか?」




 「それは……分かりません」




 ユージンは慎重に言葉を選ぶ。




 「ですが、姫様が"最後の王族"として目覚めた以上、何かしらの因果があるのは間違いないでしょう」




 「……」




 俺は拳を握りしめたまま、考え込む。




 「なぁ、ユージン」




 「はい」




 「俺は……このまま"王女"でいるべきなのか?」




 ユージンの表情が僅かに柔らぐ。




 「その答えを決めるのは、姫様ご自身です」




 「……そうかよ」




 俺はため息をつき、夜空を見上げた。




 王国の滅亡の真実。


 それは、俺が王女として生まれ変わった理由に繋がるものかもしれない。




 「……だったら、調べるしかねぇな」




 俺は静かに呟いた。




 「この国が滅びた理由を」




 そして――




 「俺がここにいる意味を」




 ユージンが微かに微笑み、俺の肩を支えるようにそっと手を置いた。




 「姫様がその道を歩まれるのなら、私はどこまでもお供いたします」




 その言葉が、妙に心強く感じた。




 俺は、逃げるつもりはない。




 この世界で、自分の"役割"を見つけるために。




 俺は、王国の過去と向き合うことを決めた。

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