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第19話決戦前夜、二人の想い

 夜の帳が静かに降りる。




 魔王軍との決戦を控えた王都は、不気味なほどの静寂に包まれていた。まるで、嵐の前の静けさのように。




 城のバルコニーで、俺は静かに夜空を見上げていた。




 この世界に来てから、どれだけの時間が経っただろう。


 王女として目覚め、剣士としての自分を模索し、戦う決意を固め――そして、今。




 「……明日で、決まるんだな」




 この世界の未来も、俺の運命も。




 「やっぱり、こんなところにいたな」




 背後から聞こえた声に、俺はゆっくりと振り返った。




 「……蒼真」




 蒼真が腕を組んで立っていた。




 「お前、こういう時は絶対に一人で考え込んでるだろうと思った」




 「……そうかもな」




 俺は小さく笑い、視線を夜空へ戻した。




 「明日、決戦だな」




 「……ああ」




 蒼真が俺の隣に並び、同じように空を見上げる。




 「不安か?」




 「……分からねぇ」




 俺は正直に答えた。




 「戦うこと自体は怖くねぇ。でも……何かが変わる気がする」




 「何か?」




 「この世界も、俺も……全部」




 蒼真は少しだけ黙った後、小さく笑った。




 「お前らしいな」




 「そうか?」




 「そうだよ」




 蒼真はふっと息を吐く。




 「お前はさ、昔からそうだった。勝てるかどうかなんて考える前に、"戦うしかない"って思って突っ込んでいく」




 「……バカにしてるのか?」




 「いや、褒めてるんだよ」




 蒼真はまっすぐに俺を見つめる。




 「お前は、すげぇよ」




 「……急にどうした?」




 俺は怪訝そうに蒼真を見た。




 すると、蒼真は少しだけ視線をそらし、夜空を仰ぐ。




 「なぁ、蓮……いや、レイシア」




 「……ん?」




 「もし……この戦いが終わったらさ」




 蒼真の声が、妙に真剣だった。




 「お前は、どうするんだ?」




 「……どうする、って?」




 「元の世界に戻りたいって、最初は言ってただろ?」




 「……」




 俺は言葉に詰まる。




 確かに、ずっと戻る方法を探していた。でも、今は――




 「……分からねぇ」




 俺は正直に答えた。




 「最初は、絶対に戻りたいって思ってた。でも、今は……この世界にいる"俺"も、俺なんだって思えてきた」




 「……そうか」




 蒼真は静かに呟く。




 そして、少しの沈黙の後、ゆっくりと俺の方を向いた。




 「だったら……」




 蒼真の声が低くなる。




 「もし、お前がこの世界に残るって言うなら……俺は――」




 俺の心臓が、不意に跳ねた。




 「……え?」




 蒼真はまっすぐ俺を見つめている。




 「俺は、お前のそばにいたい」




 ――何を、言ってるんだ?




 「お前は、ずっと俺の"ライバル"だった。幼馴染で、最高の剣士で……負けたくない相手だった」




 蒼真の言葉が、真剣すぎて、俺は戸惑う。




 「でも……今のお前を見てると、なんていうか……その……」




 蒼真が、珍しく言葉を詰まらせた。




 「……俺は、お前に――」




 「……待て」




 俺は咄嗟に手を挙げた。




 「お前、何を言おうとしてる?」




 「……っ!」




 蒼真が、ほんの一瞬だけ顔を赤くする。




 「いや、その……!」




 「……」




 俺は、心臓の音がやけにうるさい気がした。




 「俺、お前のこと……」




 蒼真が、何かを言いかけた――その瞬間。




 ゴォォォォン――!




 城の鐘が鳴り響いた。




 「っ!?」




 俺たちは同時に振り向く。




 「魔王軍の動きがあったのか……!?」




 「くそ……!」




 蒼真は歯を食いしばり、俺を一瞬だけ見つめた。




 「……行くぞ、蓮」




 「……ああ」




 俺たちは、互いに頷き合い、城を駆け出した。




 ――俺は、今、何を聞きかけたんだ?




 ――いや、それよりも……




 決戦が、ついに始まる。

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