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第20話「俺は蓮を愛してる」

 戦場は地獄のようだった。




 空を覆う黒雲、舞い散る火の粉、倒れ伏す兵士たちの呻き声――。


 魔王軍の軍勢は圧倒的で、まるで大地そのものが飲み込まれそうな勢いだった。




 俺は剣を振るいながら、必死に前線を押し戻していた。




 「クソ……次から次へと……!」




 魔族の剣士が俺に向かって斬りかかる。




 「はあああっ!」




 俺はすれ違いざまに剣を振り抜き、敵を一閃する。


 血が舞い、魔族が崩れ落ちる。




 「姫様、大丈夫ですか!?」




 ユージンの声が飛んできた。




 「問題ねぇ!」




 俺は叫び返し、すぐに次の敵を迎え撃とうとする。




 そのとき――




 「蓮!!」




 蒼真の声が響いた。




 振り返ると、蒼真が魔王軍の中を駆け抜け、俺のもとへと向かってくる。




 「な、なんでこっちに来てんだよ!?」




 「お前が無茶してるからだろ!」




 蒼真は剣を振るいながら、俺のそばまでたどり着くと、そのまま魔族の攻撃を防ぎ、俺の背中を庇うように立った。




 「おい、何守ろうとしてんだ! 俺は戦える!」




 「分かってる! でも……お前がここで死んだら、俺は……!」




 蒼真が振り向き、俺を真っ直ぐに見つめた。




 「……!」




 その瞬間、世界が静止したような感覚に襲われる。




 蒼真の瞳は、まるで俺のすべてを見透かすかのようだった。




 「蓮……」




 蒼真が、静かに、でも確かに口を開く。




 「俺は……お前を愛してる」




 「――!」




 戦場の喧騒が、遠くなる。




 魔王軍との激戦の中で、剣を交える音が響くこの場所で、蒼真は……俺に、告白した。




 「……は?」




 思わず、俺は剣を握る手が震えた。




 「お、おい、こんな時に……!」




 「こんな時だからこそ、言わなきゃならないんだよ!」




 蒼真は息を荒げながら、必死に言葉を紡ぐ。




 「お前は、俺にとってずっと大切な存在だった。幼馴染として、ライバルとして……でも、それだけじゃなかったんだ」




 「……」




 俺は言葉を失う。




 「お前が"王女"になった時、最初はただ驚いた。でも、それでもお前は"蓮"だった。強くて、真っ直ぐで、バカみたいに諦めが悪くて……」




 蒼真は、微笑む。




 「そんなお前を、俺はずっと見てた。俺の中で、お前は――"好きなやつ"になってた」




 「……っ!」




 心臓が跳ねる。




 剣を持つ手が、震える。




 「お前がどんな姿でも、どんな生き方を選んでも……俺は、お前が好きだ」




 戦場の只中で、蒼真の告白は、静かに、でも確かに俺の心を揺さぶった。




 「俺と一緒に生きてくれ」




 蒼真が手を差し伸べる。




 「俺はお前を守る。ずっと、どんな時でも……!」




 「……っ」




 俺の中で、様々な感情が交錯する。




 蒼真とは、ずっとライバルだった。


 誰よりも競い合い、誰よりも近くにいた。




 でも、それが"愛"だなんて――考えたこともなかった。




 「俺は……」




 混乱しながら、俺は口を開く。




 「俺は、まだ答えを出せねぇ……!」




 「それでいい」




 蒼真は微笑む。




 「でも、今だけは……お前のそばにいさせてくれ」




 俺は――




 「……バカ野郎」




 小さく呟きながらも、蒼真の手を取った。




 「今は、戦うぞ」




 「当然だ」




 俺たちは再び剣を構える。




 戦場の只中で、心臓の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。

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