戦場は地獄のようだった。
空を覆う黒雲、舞い散る火の粉、倒れ伏す兵士たちの呻き声――。
魔王軍の軍勢は圧倒的で、まるで大地そのものが飲み込まれそうな勢いだった。
俺は剣を振るいながら、必死に前線を押し戻していた。
「クソ……次から次へと……!」
魔族の剣士が俺に向かって斬りかかる。
「はあああっ!」
俺はすれ違いざまに剣を振り抜き、敵を一閃する。
血が舞い、魔族が崩れ落ちる。
「姫様、大丈夫ですか!?」
ユージンの声が飛んできた。
「問題ねぇ!」
俺は叫び返し、すぐに次の敵を迎え撃とうとする。
そのとき――
「蓮!!」
蒼真の声が響いた。
振り返ると、蒼真が魔王軍の中を駆け抜け、俺のもとへと向かってくる。
「な、なんでこっちに来てんだよ!?」
「お前が無茶してるからだろ!」
蒼真は剣を振るいながら、俺のそばまでたどり着くと、そのまま魔族の攻撃を防ぎ、俺の背中を庇うように立った。
「おい、何守ろうとしてんだ! 俺は戦える!」
「分かってる! でも……お前がここで死んだら、俺は……!」
蒼真が振り向き、俺を真っ直ぐに見つめた。
「……!」
その瞬間、世界が静止したような感覚に襲われる。
蒼真の瞳は、まるで俺のすべてを見透かすかのようだった。
「蓮……」
蒼真が、静かに、でも確かに口を開く。
「俺は……お前を愛してる」
「――!」
戦場の喧騒が、遠くなる。
魔王軍との激戦の中で、剣を交える音が響くこの場所で、蒼真は……俺に、告白した。
「……は?」
思わず、俺は剣を握る手が震えた。
「お、おい、こんな時に……!」
「こんな時だからこそ、言わなきゃならないんだよ!」
蒼真は息を荒げながら、必死に言葉を紡ぐ。
「お前は、俺にとってずっと大切な存在だった。幼馴染として、ライバルとして……でも、それだけじゃなかったんだ」
「……」
俺は言葉を失う。
「お前が"王女"になった時、最初はただ驚いた。でも、それでもお前は"蓮"だった。強くて、真っ直ぐで、バカみたいに諦めが悪くて……」
蒼真は、微笑む。
「そんなお前を、俺はずっと見てた。俺の中で、お前は――"好きなやつ"になってた」
「……っ!」
心臓が跳ねる。
剣を持つ手が、震える。
「お前がどんな姿でも、どんな生き方を選んでも……俺は、お前が好きだ」
戦場の只中で、蒼真の告白は、静かに、でも確かに俺の心を揺さぶった。
「俺と一緒に生きてくれ」
蒼真が手を差し伸べる。
「俺はお前を守る。ずっと、どんな時でも……!」
「……っ」
俺の中で、様々な感情が交錯する。
蒼真とは、ずっとライバルだった。
誰よりも競い合い、誰よりも近くにいた。
でも、それが"愛"だなんて――考えたこともなかった。
「俺は……」
混乱しながら、俺は口を開く。
「俺は、まだ答えを出せねぇ……!」
「それでいい」
蒼真は微笑む。
「でも、今だけは……お前のそばにいさせてくれ」
俺は――
「……バカ野郎」
小さく呟きながらも、蒼真の手を取った。
「今は、戦うぞ」
「当然だ」
俺たちは再び剣を構える。
戦場の只中で、心臓の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。