魔王軍との決戦が終わり、王都にはようやく静寂が戻った。
――だが、俺の心は静まるどころか、嵐のように揺れ続けていた。
「……戻る方法が、見つかった」
俺は、目の前に広がる魔法陣を見下ろしながら、呟いた。
「ついに、ですか」
隣に立つユージンの声は、いつもより静かだった。
「……ああ」
長い間探し続けてきた"元の世界に戻る方法"。
それが今、俺の目の前にある。
魔王の遺した禁呪。それは、異世界転移の魔法陣を発動させるものだった。
術式を完成させれば、俺は元の世界へ戻れる――男の身体に戻れる。
「……」
なのに、俺の心は晴れなかった。
戻るのか、このままで生きるのか――選べ、というのか。
「お前、どうするつもりなんだ?」
低い声が響く。
振り向くと、そこには蒼真がいた。
「お前、ずっと探してただろ? 元の世界に戻る方法を」
「……そうだな」
「なら、帰るのか?」
蒼真は、まっすぐ俺を見つめている。その瞳は、俺の答えを求めるように揺れていた。
「……」
俺は唇を噛む。
「なぁ、蓮」
蒼真が、俺の肩を掴んだ。
「俺は、お前が帰りたいなら、止めない。でも……」
蒼真の声が、かすかに震えていた。
「お前がここに残るなら……俺は、お前と一緒に生きたい」
俺の胸が、締め付けられる。
「……」
「俺は、お前がどんな姿でも、お前が"蓮"でも"レイシア"でも関係ない。お前がここにいるなら、俺はお前のそばにいたい」
「……蒼真」
俺の中で、様々な感情がせめぎ合う。
男に戻り、元の世界へ帰る――それが、最初の目的だった。
でも、今の俺は?
王女として生き、この世界のために戦い、ユージンや蒼真と共に歩んできた。
「俺は……」
俺の言葉に、蒼真がじっと耳を傾ける。
そして、ユージンもまた、静かに見守っていた。
戻るか、このままで生きるか――俺は、決めなければならない。
俺は、ゆっくりと目を閉じ、深く息を吸った。
この世界で過ごした時間を思い出す。
王女としての自分。
剣士としての自分。
そして――蒼真と、ユージンと、この世界で築いた絆。
俺は、どちらの"俺"を選ぶべきなのか?
静寂の中、俺はゆっくりと目を開いた。
そして、俺は――