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第二章:王族とは何か

 王都に陽が差し始める。




 魔王軍との戦いから数ヶ月が経ち、王国の復興は確実に進んでいた。


 だが、それと同じように――俺の悩みもまた、深く根付いていった。




 「王女としての俺」と「剣士としての俺」。




 その二つをどう両立させるのか。


 いや、そもそも――両立などできるものなのか?




 「姫様、そろそろ朝の謁見のお時間です」




 侍女のクラリスが、静かに声をかける。




 「……分かった」




 俺は王宮の広い鏡の前に立ち、自分の姿を見つめた。




 戦いの場では動きやすい騎士風の装いをしていたが、今の俺は美しく織られた青と白のドレスを纏っている。




 袖には細やかな刺繍が施され、金の装飾が施されたティアラが額に添えられていた。




 「……違和感しかねぇな」




 思わず呟く。




 「お美しいですわよ、姫様」




 「お世辞はいい」




 クラリスは微笑んだ。




 「いえ、本当にお似合いですわ。ですが――」




 「ですが?」




 「少し、落ち着かないご様子ですね」




 俺は思わず苦笑した。




 「そりゃそうだろ。戦場で剣を握ってたのに、今はこうしてドレスを着て、貴族たちの前に立つんだぜ?」




 「姫様、それが"王族"というものですわ」




 クラリスの言葉に、俺は思わず眉をひそめる。




 「……王族って、何なんだ?」




 「姫様?」




 俺は深く息をつく。




 「貴族たちは、"王族は剣を取るべきではない"と言う。でも、俺は剣士として生きてきたし、それを捨てるつもりはねぇ」




 「……」




 「じゃあ、俺は"王族"として間違ってるのか?」




 クラリスは、静かに俺を見つめた。




 「間違ってはいませんわ」




 「……?」




 「ですが、姫様。"王族"は"剣士"ではなく、"象徴"なのです」




 「象徴……?」




 「王族の務めとは、民の誇りとなり、彼らに安定をもたらすこと」




 クラリスはゆっくりと続ける。




 「姫様が剣を振るうことは、間違いではありません。しかし、それは"王族のあるべき姿"として受け入れられるとは限りませんわ」




 俺は黙った。




 クラリスの言うことは、正しいのかもしれない。




 だが――それでも、俺は自分の生き方を捨てることはできない。




 王宮の庭園に足を踏み入れると、そこにはユージンがいた。




 「姫様」




 彼はいつものように冷静な表情で、剣を手にしている。




 「ユージン」




 「どうなされましたか?」




 俺は少しだけ逡巡したが、やがて正直に口を開いた。




 「俺は、"王族"としての道と、"剣士"としての道、どちらを選べばいいんだ?」




 ユージンは、一瞬だけ目を見開いた。




 「……なるほど」




 「お前は、どう思う?」




 ユージンは静かに剣を鞘に収める。




 「姫様は、王族としてこの世界に生を受けられました。しかし、剣士としての生き方も捨てることはできない」




 俺は頷く。




 「ならば、その両方を貫けばよいのでは?」




 「……できるのか?」




 ユージンは少しだけ微笑んだ。




 「答えは、姫様ご自身が決めることです」




 俺は、考え込むように剣の柄を握る。




 「だが、貴族どもはそれを認めねぇだろうな」




 「貴族たちは伝統を重んじます。しかし――」




 ユージンは俺の目をじっと見つめた。




 「"伝統"とは、時代に応じて形を変えるものでもあります」




 俺は驚いたように彼を見た。




 「……お前、そんなこと言うタイプだったか?」




 「私は、姫様の騎士です」




 ユージンは静かに微笑む。




 「姫様が何を選ぼうとも、それを支え続けることが私の誓いです」




 俺の胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした。




 夕暮れ時、王宮のバルコニーから王都を見下ろした。




 街の復興は着々と進み、人々はそれぞれの人生を歩み始めている。




 「……俺も、俺の道を決めるか」




 ユージンの言葉が胸に響く。




 "伝統は、時代に応じて形を変えるもの"




 ならば――俺もまた、"新しい王族の在り方"を示すべきなのではないか?




 「戦う王女――それが、俺の生き方だ」




 俺はそう呟くと、剣を腰に携えたまま、静かに夜空を見上げた。

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