王宮の窓から見下ろす王都は、少しずつ活気を取り戻しつつあった。
魔王軍との戦争が終わり、復興が進んでいる。
だが、街の隅々まで目を凝らせば、戦争の爪痕はまだ深く残っていた。
焼け落ちた建物の残骸、道端に座り込む疲れ切った人々、そして……親を失い、行き場をなくした子どもたち。
王宮の会議室では、俺の結婚についての話し合いが続いている。
だが、王族としての責務が"婚姻"だけなのか?
それが、この国の未来のためになるのか?
答えを見つけるため、俺は王城を抜け出した。
「おや、姫様、またお忍びですか?」
城門の影に立っていたユージンが、俺を見つめて微かに笑った。
「"また"って……何でお前がいるんだよ」
「姫様が抜け出されるのは、もはや私の日課になりつつありますので」
「……チッ、さすがにバレてるか」
俺はため息をつく。
「別に遊びに行くわけじゃねぇよ。ただ、少し確かめたいことがある」
「では、お供いたします」
「……いいのか?」
ユージンは穏やかに微笑んだ。
「私は姫様の騎士です。どこへでもお供します」
街は思ったよりも賑わっていた。
戦争が終わったばかりとはいえ、商人たちは活気を取り戻し、広場では大道芸人が人々を笑わせている。
しかし、その陰には、未だ苦しむ者たちもいた。
「お姉ちゃん、パン買ってくれない?」
路地裏で、痩せ細った少女が俺の裾を引いた。
「……」
彼女の背後には、同じような子どもたちが何人もいる。
「ああ、いいぜ」
俺は近くのパン屋で、彼らにパンを買ってやった。
「ありがとう!」
子どもたちは嬉しそうにかぶりつく。
「……なあ、お前たち、家族は?」
「お父さんも、お母さんも……戦争でいなくなっちゃった」
少女はぽつりと呟く。
「そっか……」
俺の胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
俺は戦った。
王国を守るために剣を振るった。
だけど――
「俺が戦ったせいで、こいつらの家族が失われたんじゃないのか?」
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
剣士としての誇りだけで戦っていたわけじゃない。
だが、それが誰かの"犠牲"の上に成り立っていたとしたら……?
「考え込まれているようですね」
静かに声をかけてきたのは、ユージンだった。
「……ユージン」
「姫様は、"自分が戦った意味"について考えておられるのでしょう?」
「……」
俺は、黙っていた。
「貴方が剣を振るったからこそ、救われた者もいる。しかし、貴方が剣を振るったことで、苦しむ者もいる」
ユージンは穏やかに語る。
「それが"王族"であり、"戦士"であるということなのです」
「……そんなもんかね」
「貴方が何を選んでも、私は変わりません」
ユージンは、まっすぐに俺を見つめていた。
「姫様が王として生きるか、剣士として生きるか……それは、貴方自身が決めることです」
俺は、彼の言葉をじっくりと噛み締める。
「……ユージン、お前がいてくれてよかったよ」
ユージンは微笑んだ。
「光栄です」
夜、王宮に戻り、俺は一人、剣を手に取った。
俺は――何のために戦う?
"王女"として?
"剣士"として?
それとも――
"この国を救うために"?
王族とは何か。
戦うことに意味はあるのか。
俺は、俺の答えを探し続ける。