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第六章:剣と王冠の意味

王宮の窓から見下ろす王都は、少しずつ活気を取り戻しつつあった。




 魔王軍との戦争が終わり、復興が進んでいる。


 だが、街の隅々まで目を凝らせば、戦争の爪痕はまだ深く残っていた。




 焼け落ちた建物の残骸、道端に座り込む疲れ切った人々、そして……親を失い、行き場をなくした子どもたち。




 王宮の会議室では、俺の結婚についての話し合いが続いている。


 だが、王族としての責務が"婚姻"だけなのか?


 それが、この国の未来のためになるのか?




 答えを見つけるため、俺は王城を抜け出した。




 「おや、姫様、またお忍びですか?」




 城門の影に立っていたユージンが、俺を見つめて微かに笑った。




 「"また"って……何でお前がいるんだよ」




 「姫様が抜け出されるのは、もはや私の日課になりつつありますので」




 「……チッ、さすがにバレてるか」




 俺はため息をつく。




 「別に遊びに行くわけじゃねぇよ。ただ、少し確かめたいことがある」




 「では、お供いたします」




 「……いいのか?」




 ユージンは穏やかに微笑んだ。




 「私は姫様の騎士です。どこへでもお供します」




 街は思ったよりも賑わっていた。




 戦争が終わったばかりとはいえ、商人たちは活気を取り戻し、広場では大道芸人が人々を笑わせている。




 しかし、その陰には、未だ苦しむ者たちもいた。




 「お姉ちゃん、パン買ってくれない?」




 路地裏で、痩せ細った少女が俺の裾を引いた。




 「……」




 彼女の背後には、同じような子どもたちが何人もいる。




 「ああ、いいぜ」




 俺は近くのパン屋で、彼らにパンを買ってやった。




 「ありがとう!」




 子どもたちは嬉しそうにかぶりつく。




 「……なあ、お前たち、家族は?」




 「お父さんも、お母さんも……戦争でいなくなっちゃった」




 少女はぽつりと呟く。




 「そっか……」




 俺の胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。




 俺は戦った。




 王国を守るために剣を振るった。




 だけど――




 「俺が戦ったせいで、こいつらの家族が失われたんじゃないのか?」




 ふと、そんな考えが頭をよぎる。




 剣士としての誇りだけで戦っていたわけじゃない。


 だが、それが誰かの"犠牲"の上に成り立っていたとしたら……?




 「考え込まれているようですね」




 静かに声をかけてきたのは、ユージンだった。




 「……ユージン」




 「姫様は、"自分が戦った意味"について考えておられるのでしょう?」




 「……」




 俺は、黙っていた。




 「貴方が剣を振るったからこそ、救われた者もいる。しかし、貴方が剣を振るったことで、苦しむ者もいる」




 ユージンは穏やかに語る。




 「それが"王族"であり、"戦士"であるということなのです」




 「……そんなもんかね」




 「貴方が何を選んでも、私は変わりません」




 ユージンは、まっすぐに俺を見つめていた。




 「姫様が王として生きるか、剣士として生きるか……それは、貴方自身が決めることです」




 俺は、彼の言葉をじっくりと噛み締める。




 「……ユージン、お前がいてくれてよかったよ」




 ユージンは微笑んだ。




 「光栄です」




 夜、王宮に戻り、俺は一人、剣を手に取った。




 俺は――何のために戦う?




 "王女"として?


 "剣士"として?




 それとも――




 "この国を救うために"?




 王族とは何か。


 戦うことに意味はあるのか。




 俺は、俺の答えを探し続ける。

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