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第九章:未来を示す者

王宮の大広間には、重苦しい空気が満ちていた。




 長い円卓を囲む貴族たちの表情は硬く、誰もが静まり返ったまま、俺――レイシア・フォン・アルザードを見つめていた。




 目の前には、分厚い書簡が置かれている。




 ヴィストリア帝国からの正式な縁談の申し出だ。




 「姫様、貴族一同、決断をお待ちしております」




 宰相シグルトの低い声が響く。




 「貴族会議においても、多数の賛同がありました。アルザード王国の安定のためにも、この政略結婚を受け入れるべきです」




 「……」




 俺は拳を握る。




 ずっと考えてきた。




 王国の未来のために、俺はどんな選択をすべきか。




 戦い続けることが正しいのか、それとも政略結婚という形で国を支えるべきなのか。




 だけど――




 「……俺は、この縁談を断る」




 俺がそう宣言した瞬間、会議室にざわめきが走った。




 「姫様!? それはあまりにも……!」




 「貴国の未来を考えれば、結婚は避けられない決断のはずです!」




 貴族たちの声が次々と飛び交う。




 だけど、俺は揺るがない。




 「私は王女レイシアとして、生きる」




 静かに、それでいてはっきりと俺は言った。




 「戦い続ける。この国に必要なのは、"王"ではなく、"未来を示す存在"だ」




 誰もが息を呑んだ。




 「……姫様、本気でお考えなのですか?」




 沈黙を破ったのは、老齢の重鎮貴族だった。




 「貴方のご決断は、確かにお強い。しかし、それでは王国の安定が揺らぐ可能性もございます」




 「王国の安定とは何だ?」




 俺は真っ直ぐに彼を見た。




 「政略結婚によって、一時的に国が安定したとしても、それは根本的な解決ではない。ならば俺は、自分の力で国を導く」




 「……」




 「貴族たちが望む"王"は必要ない。俺はこの手で、この国の未来を作る」




 俺の言葉に、会議室が再び静まり返る。




 そんな中――




 「……姫様」




 ユージンがゆっくりと膝をついた。




 「この場で、正式に誓います」




 彼は真剣な眼差しで俺を見つめる。




 「私は、貴方が何を選ぼうとも、その道を支え続けます。姫様が"未来を示す存在"となるのなら、私はその剣となり、貴方を守る」




 俺は目を細めた。




 「お前がそう言うなら、俺も安心だな」




 「……光栄です」




 ユージンは静かに頭を下げた。




 その光景を見た貴族たちが、再びざわめく。




 やがて、一人の貴族が立ち上がった。




 「……分かりました」




 「!」




 「姫様のご決断、拝受いたしました」




 彼は深く頭を下げる。




 「私どもも、姫様のお考えに従いましょう」




 他の貴族たちも、困惑しながらも次々と頭を下げた。




 ――俺の決断は、受け入れられた。




 会議の後、俺はバルコニーで静かに夜風を浴びていた。




 「……終わったな」




 「いえ、始まりです」




 背後からユージンの声が聞こえた。




 「これからが、本当の戦いです」




 「……そうだな」




 俺は空を見上げる。




 蒼真がいなくなって、初めて迎えた決断の時。




 でも、俺は一人じゃない。




 これから先、どんな困難があろうと――




 俺は、俺の道を歩く。




 未来を示す存在として。

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