王宮の大広間には、厳粛な空気が満ちていた。
豪奢なシャンデリアの光が穏やかに降り注ぎ、磨き上げられた大理石の床に反射する。
広間の中央には、一人の男が静かに膝をつき、頭を垂れていた。
ユージン・ヴァルフォード――王国最強の騎士にして、俺の忠実な剣。
彼は今日、この場で正式に俺の第一騎士となる。
「ユージン・ヴァルフォード」
宰相シグルトが、静かに彼の名を呼ぶ。
「貴殿はこれより、王女レイシア・フォン・アルザードの第一騎士として仕えることを誓うか?」
ユージンは、顔を上げた。
彼の瞳には、一点の迷いもない。
「誓います」
静かで、それでいて力強い声だった。
「この剣を持ちて、姫様を守ることを生涯の誓いといたします」
俺は、ゆっくりと近づく。
王族の象徴である、黄金の剣を手に持ち、ユージンの肩にそっと置いた。
「ユージン・ヴァルフォード」
俺は彼を見下ろしながら、静かに言葉を紡ぐ。
「貴様に、第一騎士の称号を授ける。この剣をもって、我が王国を守り抜くことを命ずる」
ユージンは深く頭を垂れた。
「仰せのままに」
式典が終わり、人々が去っていく中、俺とユージンは王宮のバルコニーに立っていた。
風が心地よく吹き抜ける。
「……これで正式に、お前は俺の第一騎士になったな」
俺は、静かに呟く。
ユージンはいつものように穏やかに微笑んだ。
「そうですね。ようやく、この身の在り方が定まりました」
「そうか」
俺は遠くを見つめる。
「お前は、俺がどうなろうと仕えると言っていたな」
「ええ」
ユージンは迷いなく頷く。
「貴方がどこへ行こうと、私は貴方の剣であり続けます」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
「……お前がいてくれて、よかった」
俺は、初めて心からの笑みを浮かべた。
ユージンは黙って、それを見守っていた。
未来はまだ分からない。
でも、この瞬間だけは、確かなものがここにあった。