東の空が、ゆっくりと白み始める。
夜の闇を切り裂くように、金色の光が王都の屋根の端から覗き、その輪郭を鮮やかに映し出していた。
俺は、城壁の上に立ち、その光景を静かに見つめていた。
長い戦いが終わり、幾多の葛藤を乗り越え、ようやくこの場所までたどり着いた。
政略結婚を拒み、王女として生きる道を選んだ今、この朝日がまるで"新たな時代の幕開け"を告げているように思えた。
「姫様」
背後から、落ち着いた声が聞こえる。
俺は振り返ることなく、微笑んだ。
「ユージンか」
「ええ」
足音を立てずに、ユージンが俺の隣に並ぶ。
「珍しいな。姫様がこんな早朝にここにいるとは」
「俺もそう思うよ」
城壁の上で、二人並んで朝日を眺める。
「長かったな」
俺は、静かに呟く。
「戦争が終わって、復興が始まって……国は変わりつつある。でも、まだまだこれからだ」
「ええ。貴族たちも、まだ完全に姫様の決断を受け入れたわけではありません」
ユージンは、冷静に言う。
「貴族たちにとって、"戦う王女"は異質な存在です。ですが、彼らも次第に姫様の意志を理解し始めています」
「……そうだな」
俺は、ゆっくりと拳を握る。
「だからこそ、俺はこの道を進む。王族として生きるって決めたから」
ユージンは、静かに俺の横顔を見つめる。
「お前は、俺の選択をどう思う?」
ユージンは少し考えた後、微笑んだ。
「姫様は、何よりも強いお方です」
「……そうか?」
「ええ。だからこそ、私はこれからも貴方の剣として共に在ります」
俺は、ふっと小さく笑った。
「お前がいてくれて、よかった」
朝日が完全に空を照らし、王都が目覚める。
街のどこかで、子どもたちの笑い声が響いた。
復興の音、商人の呼び声、兵士たちの訓練の掛け声――
それらすべてが、確かに"生きる"ということを実感させてくれる。
俺は、ゆっくりと目を閉じた。
そして――
「俺は、王女レイシアとして生きる」
その言葉を、風に乗せて静かに紡いだ。
それは誰に向けたものでもなく、何よりも強い"誓い"だった。
新たな時代が始まる。
この国の未来は、俺が切り拓く。
もう迷わない。
俺は、俺の道を歩いていく。