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第二話

 マリアットは、カウンターの奥にある魔法陣の上に羊皮紙を置く。

 置いた瞬間、魔法陣は柔らかな光を放ち、その光は瞬く間に消えた。

 光が消えた瞬間、マリアットは羊皮紙を取り、カウンターに戻る。

 羊皮紙をカウンターに置くと、無駄のない動きでカウンターの上に五つの瓶が載った盆を乗せた。


「クエストは全て受理されました。採取クエストが三件、討伐クエストが五件ですので、採取物と討伐モンスターの血液を瓶に採取後、羊皮紙と一緒にこちらのカウンターへお持ちください。今回のクエストの担当は私、マリアット・アンゼルになります」

 頬の朱を悟られぬよう、マリアットは普段よりも手際よく業務を進めた。

 普段より礼が深いのがその証拠だ。


「その無駄のない動き、いいよね。さすが俺の推しアイドル嬢」

 先ほどの全てを見通すような目線は影を潜め、普段と変わらない冗談を浮かべるコルトに向かってマリアットはため息をついた。


「貴方の期待には応えられませんので、ご了承ください」

「応えさせてみせる」

 口角を上げながら、コルトは羊皮紙と盆の上の瓶を懐に入れる。

 新しさを感じられる、傷の少ないマントを揺らしながら、カウンターを後にした。


 コルトの後ろ姿が人込みに混ざったのを確認すると、マリアットは姿勢を崩した。


 彼が今日初めてマリアットのカウンターを訪れた冒険者で、今日最後に立ち寄った冒険者になることはもうわかっていた。

 ギルドの営業時間内にマリアットができることといえば、夕方頃コルトが持ち帰るであろう採取物と血液の入った瓶をスムーズに受け取れるよう準備することだけであった。


「あの人、何者なんだろ」

 カウンターを片付けながら独り言をこぼす。


 コルト・ルエット。

 マリアットがアイドル嬢になったのと同時期に新規登録をした冒険者。


 通常、新規登録冒険者から、中級ランクのクエストを受領することができる中級冒険者を経て、上級のクエストを受領できるようになる上級冒険者になるまで、一年以上掛かるという。


 半年で上級冒険者になる人物はほとんどいないと、一時ギルドの控室はコルトの噂でもちきりだった。

 そんな実力者を味方に付けようと、他のアイドル嬢はコルトにアプローチをするが、コルトは毎回、揺らぐことなくマリアットのカウンターへやって来るのだった。


 アイドル嬢が諦めるまで、コルトが通り過ぎた後のカウンターからは、恨みに満ちた目線がマリアットに向かって刺さり続けた。


 マリアットからすると疫病神のような存在だが、マリアットが雇い主から首を切られない程度のポイントを与えてくれるのは彼のみ。


「どうせ出会うなら、もっと早く出会えればよかったのに」

 無邪気な笑顔を向ける、やや紫がかった黒髪を思い出すと、誰も訪れないカウンターの中で再び頬を染めた。

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