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第五話

 コルトは、冒険者ギルドを足早に去り、ギルドの横にあるテレポート用の魔法陣へと移動した。


 利用料がかかるこの魔法陣だが、最上位冒険者は利用料を支払うことなく利用することができる。

 今回のクエストの対象が巣食う森は、ここから歩いて三日はかかる。

 クエストの期限は一か月後だが、悠長に歩いて向かう暇はない。 


 魔法陣を起動させた後、コルトは冒険者ギルドに目をやる。


 無表情のアイドル嬢の姿を脳裏に描きながら、瞳を閉じると、コルトの姿は光に包まれ消えた。



 今回、コルトが受注したクエストは二つ。


 銀龍ルルガの討伐。

 そして、銀龍ルルガの角と鱗の採取。


 銀龍は人嫌いな龍と呼ばれ、滅多に人間が住む場所に降りてこない。

 そんな銀龍が人里近くに現れる時、凶暴性が増した時だと言われている。

 素早い動きに翻弄された冒険者は、鋭い爪で命を刈り取られているという。



 コルトが目を開けると、そこは見たことのない土地だった。

 魔法陣は、宿屋の看板が掲げられた建物の横に設置されており、右手には森が広がっていた。

 森の入口付近に、この宿屋と魔法陣があるからだろう。

 人気は全く無い。


 コルトを待ちわびていたかのように、森の方から獣の鳴き声が聞こえた。



 森の中へ入っても、人どころか、動物や他のモンスターの気配も感じられない。


 二十分ほど森を歩いたところで、コルトは辺りを見渡す。

 再度周りに誰もいないことを確認すると、小さく獣のような鳴き声を発した。


 鳴き声を合図に、口元が黒く変色し、顔、首、胸へと変色が広がる。

 全身が黒く染まった後は、人の形から四つん這いの獣の形へと変わっていく。

 黒い塊に、マントやガントレットも包まれてしまう。


 コルトがいた場所には、黒い一匹の狼が座っていた。

 欠けた両耳を立て、辺りの音を集める。

 赤い瞳は、まだ見ぬ銀龍を目がけ駆けだした。



 コルトは、人間ではない。

 ダークウルフと呼ばれるモンスターだ。

 ダークウルフは知能も高く、爪や体を変化させて行う攻撃に長けている。

 冒険者ギルドでは、上位クエストで討伐や毛皮などの採取のクエストが出ている程、厄介なモンスターと恐れられていた。


 ダークウルフは、今までの生活を思い返しながら、森の中を駆け抜ける。


 コルトは、群れの中で最も、体を変化させることに長けていた。

 他のダークウルフは、背中から鋭利なかぎ爪を生成したり、獲物を固定する腕を生成するのが精いっぱいだが、コルトは体全体を変化させることができた。

 巨大ウサギやケガを負ったゴブリンに身体を変え、自分より格下に牙を向けたモンスターの命を止める。

 それがコルト特有の狩りだった。


 ある日、冒険者パーティが、コルトの住む森へやってきた。

 最近暴れまわっているオークの巣や縄張りを散策していたそのパーティは、オークの縄張り付近で、ケガを負った幼いダークウルフを見つける。


 成体のダークウルフは、耳が欠けているのが特徴だが、幼いダークウルフは欠けていない。

 ダークウルフを、血に汚れた狼だと思ったのだろう。

 冒険者のうちの一人が、狼を抱きかかえ、祈りの言葉を唱える。

 みるみるうちに傷は癒え、冒険者はダークウルフの頭を撫でていた。


 そんな冒険者は、木の陰から飛び出してきたオークの突進で跳ね飛ばされた。

 冒険者パーティからだいぶ離れた場所の木に身体を打ち付けられる。

 ダークウルフは、冒険者に抱きかかえられ無事な様子だが、冒険者は意識を失ってしまった。


 オークは、その手に杖を持っていた。

 その杖を振ると、にやにやと冒険者パーティに向けて魔法弾を放つ。


「あのオークだ!」

「よりによって、なんで呪いのロッドなんか持ってんだよ! くそ!」

「なんで使いこなしてんだよ!」

 武器を構え、悪態をつきながらオークに挑みかかる冒険者達。


 一体のオークに、四人の冒険者。

 オークが倒れた時には、冒険者達も絶命寸前だった。


 大剣を持った冒険者が、オークに近づく。

 大剣でオークの心臓を貫いた瞬間、オークの持つ杖が鈍く光る。

 杖は悪あがきをするように、弱々しく浮かぶ光の玉を放つと砕け散った。


「嘘だろ」

 大剣を振り回し、光の玉を消そうとする冒険者だが、消えることはない。

 光の玉は、大剣を持つ冒険者から逃げるように飛んでいく。


「オーゼン! マリアットを守れ!」

 息を切らし、動くのもままならない様子の格闘家が声を上げた。

 光の玉は、倒れた冒険者目がけ飛んでいく。

 オーゼンと呼ばれた冒険者は、ダークウルフを助けた冒険者の元へ駆け寄る。


 徐々に加速していく光の玉。

 力を振り絞り駆け寄るオーゼン。

「マリアット!」

 先に冒険者に到達したのは、光の玉だった。


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