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だが、それは全てが物語。この塔は
一万年以上前に神々が支配していた時代、
そう、現在では神々や魔術師の存在を信じている者は殆どいない。
だから、魔獣も出没する大森林の中にひっそり建つ白亜の塔に興味を抱く者は数少ない。しかし、数は少ないがゼロではなく、神や魔術師もいたと信じて訪れる者達も僅かながらいる。
ガガガガガッ……ズズゥーン
今、そんな者達の一部が塔を覆う城郭のような外壁の門を開き敷地内に侵入してきた。
それは人にしてはかなり異質な存在で、身の丈10
否、それは生物ではない。
魔導工学によって生み出された人型兵器、
その後ろから魔鎧兵の半分くらいのサイズの
そこには塔を模したような白亜の柱が直立していた。魔鎧兵はそこで片膝を地に着けた。同じように魔甲兵が隣で片膝を突く。
魔甲兵の開放された操縦席からナヴィが飛び降りた。
「ふぃ〜オイラ死ぬかと思ったよ」
羽をパタパタさせてナヴィが地表スレスレのところでフワフワと浮遊する。
「ヒィロの操縦のせいで何度落ちそうになった事か」
「仕方ないだろ。じぃちゃんに追いつくのに必死だったんだから」
魔甲兵の腕や膝などを経由してヒィロが慣れた様子でぴょんぴょんと器用に降りてきた。
「だけど、ナヴィは翼があるんだから落ちても死にはしないだろ?」
「いくらオイラでもいきなり振り落とされたら咄嗟に飛べないって」
ナヴィは隣の大きな鋼鉄の巨人――
「ジッちゃんもちょっとは気を使ってよ」
「ワハハハ、すまんすまん」
ガコンッ!と魔鎧兵の背中が開き
縄梯子を使ってシュルシュルと地表に降り立った老人はとても大柄でヒィロより頭一つは高い。おそらく4
肩はがっちりして腕や足も太い筋肉で覆われて、白髪を短く刈り上げた頭だけではなく身体中至る所に古傷があった。
いかにも歴戦の勇士といった感じのこの老人はヒィロの祖父ザンドである。
「なんせこの
ポンポンと
「100年以上前の骨董品なんか買うから」
「ははは、確かに動いているのが奇跡みたいだよね」
ナヴィの愚痴にヒィロも笑って頷いた。
「やっぱり僕も新しい機体を買うべきだと思うよ」
若さは常に新しい物への憧れに満ち満ちているものらしい。やはりヒィロも新しい機体に興味があるようだ。
「だよねだよね、こんなオンボロじゃ安物買いの銭失いさ」
「何を言うとる。コイツの骨太な感じの良さが分からんとは嘆かわしい」
しかし、ザンドはフンッと鼻を鳴らした。
「だいたい最近の
「それはジッちゃんの操縦が荒っぽいからだろ!」
「わしの腕についてこれん機体がヤワ過ぎるんじゃ」
グッと両腕を曲げ力を入れるザンドの上腕二頭筋が見事に隆起する。全身ガチムキのとんでもないじーさんにナヴィが呆れた。
「ジッちゃんホントに昔強い
「おうよ、若い時には
「当時の奴らは歴代最強などと吹聴しておっての。癪に触ったんでちぃともんでやったんじゃ」
「それって
「そうだったかもしれんのぉ」
ガハガハ笑うザンドに釣られてヒィロもくすくす笑った。
「いいじゃないかナヴィ」
「だけどよぉ」
「実際じぃちゃんは強いんだしさ」
ヒィロにとってザンドは祖父であると同時に剣と
——
小型のマグナドライブを搭載し魔力を弾丸として射出する魔導兵器の一つである。
「それに僕らの目的は戦う事じゃないだろ」
「そうなんだよねぇ」
ヒィロの指摘で再度ナヴィは半眼を熊の如き大きな老人へ向けた。
「だから、このナリで学者って言うのはオイラ詐欺だと思うんだよね」
全身傷だらけの厳ついザンドは傭兵か盗賊としか思えないが、実はこう見えて彼は高名な歴史学者なのである。
「歴史学者ってのは魔物と戦いながら遺跡や秘境を調査するんじゃから、これくらい鍛えるのは当然じゃて」
「ホントかよ」
「まあ、実際この
五千年の時を経て枯れてしまった噴水の名残りもある大広場から二人と一匹は目の前に
「今日こそ始まりの塔が
「そうだねじぃちゃん、神々や魔術師は存在したって僕らで証明しよう」
ザンドは歴史学者となってより長年テーマにしてきたのが、学会では異端視されている神々の存在である。
その影響を受けたヒィロにとって神々のいた
「さあ、行くぞ」
「うん!」
二人は並び立ち
「うわっ!?」
「な、なんじゃ!?」
「目がぁッ目がぁぁぁ!」
突然のまばゆい光に二人が驚嘆し、目を焼かれたナヴィが目を前足で押さえて地面を転げ回った。
——ウィィィン、ウィィィン、ウィィィン……
光の柱は始まりの塔に吸い込まれるようにして消えた。だが、代わりに塔が穏やかに明滅し始める。
「凄いや、塔が光り輝いてるよ」
「むぅ、こんな事は初めてじゃ」
こんな怪奇現象を前にすれば尻込みしそうなものなのだが、ヒィロの胸はワクワクが止まらない。
「行こうじぃちゃん、何か新発見があるかもしれない」
「うむ、これは幸先が良さそうじゃわい!」
期待を胸に未だ発光している
「あっ、待ってよヒィロ!」
ナヴィもまた翼をパタパタと羽ばたかせ二人の後を追って塔に中へと消えたのだった。