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第2話 転落事件と浪速魂の芽生え

 王宮の広間を後にしたステラは、重い足取りで自室へ向かっていた。廊下の装飾品や飾られた絵画が視界に入るが、心の中は無感覚だった。自分が何をされたのか、どうしてこうなったのか、頭の中で問いかけてはみるものの答えが出ない。


「偽聖女…追放…。本当に、そこまで私を貶める必要があったのかしら。」


静かに呟きながら、ステラは拳を握りしめた。これまで王太子妃としての立場を守るため、努力してきた日々が一瞬にして崩れ去った。その屈辱が胸を締めつける。



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侍女たちとのやり取り


部屋に戻ると、侍女たちが待ち構えていた。ステラの顔を見るなり、彼女たちは目に涙を浮かべながら駆け寄った。


「ステラ様、大丈夫ですか?あのような不当な仕打ちを受けて…!」


フローラが真っ先に口を開く。その言葉には怒りと悲しみが滲んでいた。


「フローラ、気にしなくていいわ。これも運命だもの。」



ステラは努めて平静を装ったが、その声には少し力が入っていなかった。


「ですが、ステラ様…。あんな言いがかりのような理由で追放されるなんて…!」 


「私のことは気にしないで。それよりも、あなたたちがここでどう過ごすかが大切よ。」




彼女は優しく微笑みながら、侍女たちの肩に手を置いた。しかし、その瞬間、頭にズキリと鋭い痛みが走る。


「っ…!」


ステラは額に手を当て、少しの間目を閉じた。



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転落事件


その日の夜、ステラは庭園を歩いていた。広間での屈辱的な出来事を思い返すうちに、どうしても部屋にじっとしていられなかったのだ。


「本当に追放だなんて…。私はただ、与えられた役割を果たしてきただけなのに。」


月明かりが彼女の姿を静かに照らしていた。冷たい風が吹き抜け、花々がささやくように揺れる。


「でも、ここで諦めるわけにはいかないわ。」


彼女は小さく自分に言い聞かせながら、館へ戻るための階段を上っていた。その時だった。不意に背後から何かの気配を感じた。


「――っ!」


振り返る間もなく、強い衝撃が彼女の背中に走った。


「きゃあっ!」


ステラの体は前方に投げ出され、階段を転がり落ちる。石畳に打ち付けられる音が響き、彼女の視界はぼやけていった。


遠ざかる意識の中で、誰かが去っていく足音がかすかに聞こえた。



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目覚めと違和感


次に目を開けた時、ステラは自室のベッドに横たわっていた。頭には包帯が巻かれ、額には冷たいタオルが置かれている。


「ステラ様、大丈夫ですか?」


侍女のフローラが心配そうに顔を覗き込む。その瞳には涙が溢れていた。


「ここは…どこ?」


ステラはぼんやりとした頭で状況を確認しようとした。


「お部屋です。ステラ様、階段から落ちて…。ですが、誰かが意図的に突き落としたという話が…!」


「誰かが…?」


その言葉が耳に入った瞬間、彼女の中で何かが弾けるような感覚があった。同時に頭の奥から奇妙な記憶が次々と湧き上がってくる。


「なんや、これ…。浪速?…あれ、ワテ、前にこんなとこおったか?」


その言葉に、侍女たちは顔を見合わせた。普段の上品なステラの口調とはまるで違う、砕けた言葉遣い。


「ステラ様…?どうされたのですか…?」


「いや、なんか頭ん中ぐちゃぐちゃや。せやけど、一つだけ分かるわ。ウチ、このままでは終わらへん!」


彼女は勢いよく起き上がり、包帯を軽く触りながら鏡の前に立った。



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浪速魂の芽生え


鏡の中に映る自分の顔をじっと見つめる。金髪が揺れ、青い瞳が冷たく輝いている。その美しい姿に、かすかに驚きながらも、彼女は小さく笑みを浮かべた。


「めっちゃべっぴんやないかい!これがウチやなんて、ちょっと信じられへんわ。」


そして、さらに大きく笑った。


「こんな顔してるんやから、人生やり直すのも余裕やろ。よっしゃ、これから一花も二花も咲かせたるで!」


侍女たちはますます困惑していたが、ステラの力強い姿に圧倒されて言葉を失った。


「せや、まずは飴ちゃんでも配って元気出そか。」


ステラは懐から飴を取り出し、侍女たちに手渡し始める。


「えっ…飴ですか?」


「そや!甘いもん食べたら気分も変わるやろ?」


侍女たちは驚きながらも飴を受け取り、次第に笑顔を浮かべた。その光景にステラは満足そうに頷いた。


「よっしゃ、これでええんや。ウチはもう誰にも負けへん!」



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