翌朝、王宮は薄い霧に包まれていた。これまで何度も歩いたはずのこの廊下も、今日が最後と思うと何か特別な意味を持っているように感じる。ステラは自室から広間へ向かう途中、何度も深呼吸を繰り返していた。胸の中にわずかな不安が渦巻いているが、それを押し殺すように毅然とした歩みを続けた。
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侍女たちとの別れ
「ステラ様、どうか私たちのことを忘れないでください。」
侍女のフローラが涙を浮かべながら言葉を紡ぐ。部屋の外には他の侍女たちも集まり、ステラを見送るために並んでいた。その光景に、ステラの胸がじんと熱くなったが、決して弱さを見せまいと、笑顔を作った。
「フローラ、みんな、ウチのこと心配せんでええ。これが人生の最後やない。むしろ、ここからが始まりや!」
ステラは侍女たちに向かって力強く微笑んだ。そして、懐から袋を取り出すと、中から色とりどりの飴を取り出して一人ひとりに渡していく。
「これ、あんたらに渡しとく。ウチの代わりに、甘いもんで元気つけや。」
「ステラ様…ありがとうございます。」
「ええって。甘いもん食べたら気持ちも楽になるし、泣くのも止まるからな。」
飴を受け取った侍女たちは感動しつつも、思わず微笑みを浮かべた。その光景にステラも満足げに頷いた。
「よっしゃ、これでみんな笑顔になったな。ほな、行くわ。」
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正門への道
馬車が待つ正門へ向かう途中、騎士のエリオットが駆け寄ってきた。
「ステラ様、最後にお話ししたいことがあります。」
彼は真剣な表情で足を止め、ステラに視線を向けた。
「何や、エリオット?改まって。」
「昨日の転落事件について調べました。どうやらカトリーナ様の侍女が関与している可能性が高いことが分かりました。」
その言葉に、ステラの眉が動く。
「…やっぱり、あの女か。あいつ、ほんまえげつないことするなぁ。」
彼女は顎に手を当て、しばし考え込んだ。そして、ふと顔を上げると、懐からまた飴を取り出した。
「ほれ、これ舐めて元気出しぃ。」
「飴…ですか?」
エリオットは困惑しながらも手を差し出し、ステラから飴を受け取った。
「そうや、糖分補給して頭を回すんが大事やからな。甘いもんは気持ちもリフレッシュさせる力があるんやで。」
エリオットは小さく笑みを浮かべながら飴を受け取り、その場で口に入れた。
「…ありがとうございます。意外と…効きますね。」
「せやろ!ウチが保証したるわ!」
その勢いのある言葉に、エリオットもつられて笑みを浮かべた。そして彼は再び真剣な表情に戻る。
「私もこの件についてさらに調べを進めます。何かお力になれることがあれば、必ずお知らせします。」
「頼りにしてるで、エリオット。ほんまにおおきに。」
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馬車での決意
馬車に乗り込み、王宮を出発するその瞬間、ステラは窓の外を見つめながら大きく息をついた。
「追放、婚約破棄…。こんなん、ただの始まりやろ。」
彼女は自分にそう言い聞かせるように呟いた。そして、再び懐から飴を取り出し、一粒を口に放り込む。
「甘いもんがあれば、何とかなる。いや、何とかしてみせる。」
彼女は笑顔を浮かべながら、これからの計画を頭の中で練り始めた。
「まずはカトリーナの陰謀を暴いて、王宮に戻ったる。それだけやない。ウチはもっと大きいことを成し遂げるで!」
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浪速魂の宣言
彼女の目は、遠くに広がる青空を見据えながら輝いていた。
「人生なんて、転んだら立ち上がるだけや。これから一花も二花も、何回でも咲かせたるで!」