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第6話 新しい仲間たち

 冷たい迎えを受けた翌日、ステラは館の周囲を歩くことにした。古びた公爵領の片隅に建つこの館は、かつては客人用の別邸だったようだが、今ではほとんど使われていない様子だった。


「ほんまにここがウチの新しい居場所なんか…。」


手入れの行き届いていない庭、ところどころひび割れた壁、くすんだ窓枠。それらを見回しながら、ステラは溜息をついた。しかし、次の瞬間、自分を奮い立たせるように頷いた。


「まぁ、ええわ。ここからがスタートや。」



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初めての地元民との出会い


館の外に出ると、使用人のリリィが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「ステラ様、どちらに行かれるのですか?」


「ちょっと散歩や。地元の様子を見てみたくてな。」


「お供いたします!」


リリィが小走りでステラに追いつくと、二人でゆっくりと館の外へと歩き出した。館を出ると、そこには広がるのどかな田園風景があった。豊かな緑と青い空が広がり、澄んだ空気が二人を包み込む。


道を歩いていると、畑仕事をしている農民たちがちらほらと見えた。彼らはステラの姿を見ると、驚いたように立ち止まり、ひそひそと話し始めた。


「おい、あの人が…。」

「追放された公爵令嬢だって噂の人か?」


ステラはその声を聞き流すことなく、彼らに向かってまっすぐ歩み寄った。


「おはようさん。みんな元気か?」


その言葉に、農民たちは一瞬目を丸くした。普通の貴族なら、無視するか冷たい視線を投げかけるだろう。だが、ステラは気さくな笑顔で話しかけてきたのだ。


「え…あ、はい!おかげさまで元気です!」


慌てて答える農民たちを見て、ステラはにっこりと笑った。そして、懐から飴を取り出し、一人ひとりに手渡した。


「ほれ、これ舐めて元気出しな。」


「飴…ですか?」


「そうや!甘いもんは心の栄養になるんや。みんなも頑張っとるんやから、ちょっとは自分にご褒美あげなあかんで。」


農民たちは驚きながらも飴を受け取り、次第に緊張がほぐれて笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます、ステラ様…。こんなに優しくしていただけるなんて。」


「優しいとかちゃう。これからウチもここで頑張る仲間や。みんなで協力して、この場所をええとこにしていこな。」


その言葉に、農民たちは深々と頭を下げた。



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使用人たちの再評価


館に戻ると、使用人たちがステラを遠巻きに見つめていた。その視線にはまだ戸惑いや不安が混ざっているが、農民たちと楽しげに話す姿を見ていた彼らの表情は少しずつ柔らかくなっていた。


「リリィ、ここの使用人たちって、みんな何考えとるんやろな?」


ステラがぼそりと呟くと、リリィは小声で答えた。


「皆さん、正直言って、少し不安がっているようです…。ステラ様が追放されたという噂が広まっているので…。」


「ふーん。それなら、それを払拭するのはウチの仕事やな。」


ステラはニヤリと笑い、館の中央にある食堂に向かうと、使用人たちを集めた。


「みんな、ちょっと集まってくれへんか?」


突然の呼びかけに驚いた使用人たちが集まると、ステラは手に持っていた袋から大量の飴を取り出し、テーブルの上に並べた。


「ほれ、これ好きなだけ持ってってええで。」


「えっ…ステラ様?」


「ええねんええねん、気にせんと。これはウチからの気持ちや。ここで一緒に頑張っていく仲間としてな。」


使用人たちは最初戸惑っていたが、次第にその気さくな態度に安心したのか、一人、また一人と飴を手に取っていった。


「ありがとうございます…。こんな風に話しかけられるなんて思ってもみませんでした。」


「これからもよろしくな。ウチ、甘いもんだけは絶対欠かせへんからな。」


使用人たちの間に笑い声が広がり、ステラの笑顔もさらに明るくなった。



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リリィとの信頼


その日の夜、リリィがステラの部屋にお茶を持ってきた。


「ステラ様、本日もお疲れ様でした。」


「リリィ、ありがとな。あんたがいてくれてほんま助かるわ。」


リリィは少し顔を赤らめながら頷いた。


「ステラ様、こんなことを言うのは失礼かもしれませんが…。私、最初は少し怖かったんです。でも、今は…ステラ様のような方の侍女になれて、本当に嬉しいです。」


その言葉に、ステラは目を細めて微笑んだ。


「ウチのことを信じてくれるあんたみたいな子がおるだけで、もう十分幸せやわ。」


二人は静かにお茶を飲みながら、これからの日々について語り合った。



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浪速魂で築く信頼


ステラは農民たちや使用人たちとの交流を通じて、少しずつ信頼を築いていった。かつての貴族としての誇りは捨て、新しい自分としてここに根を張る覚悟を決めた。


「どんな状況でも、人の心は甘いもん一つで変えられる。それがウチのやり方や。」


飴を片手に笑う彼女の姿は、周囲に新たな希望と安心感を与えていた。そして、その小さな繋がりが、やがて大きな波を生むことになるのだった。



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