舞踏会の場でレオンとエリザベスの不正を暴いた事件は、瞬く間に帝都の貴族社会を揺るがす大スキャンダルへと発展した。王宮が正式な調査に乗り出し、公爵家に関わる書類や帳簿が次々と押収される中で、レオンやエリザベスの影響力は日増しに弱まっていく。一方で、アイシャの存在は同情や称賛の的となった。これまで「夫を軽んじる冷酷な夫人」などと根拠のない中傷を受け続けてきた彼女が、実は被害者でありながら自力で真実を暴き出したのだ——多くの貴族たちが、今回の件を「華麗なるざまぁ」「白い結婚からの反逆」などと噂し、複雑な興味を示していた。
そんな喧噪をよそに、アイシャの心はむしろ静かだった。もちろん事件後も王宮の審議や周囲の視線には晒され続けているが、あの息苦しい結婚生活から少しずつ解放されていく感覚が、彼女に安堵と決意をもたらしているのである。
そして、まさにこの時期に、アイシャは自ら「レオンとの離婚」を本格的に成立させるための手続きを進め始めた。王宮の調査が入り、彼の公爵位そのものが危ぶまれる状況となっている今、これ以上「夫婦」という形だけの鎖に縛られていたくない——そんな強い意志が芽生えていたからだ。
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離婚協議の始まり
王宮による審問の席では、レオンとエリザベスの不正行為が具体的に取り上げられ、長らく続いた陰謀の全貌が徐々に明るみに出てきた。レオンは「エリザベスに騙されていた」と主張するものの、公爵家当主としての監督不行き届きは免れず、また複数の契約書には彼自身の名前や“ほぼ黙認”と見なせる痕跡が残されている。エリザベスはさらなる罪状を追及され、すでに投獄に近い形で拘束中だ。
一方で、アイシャについては「夫が不正を働くのを正すどころか、あえて暴露に踏み切ったのは保身なのでは?」という一部の批判や、「本当に何も知らなかったのか?」と疑う声も皆無ではなかった。しかしながら、彼女の提示した書類や証言、さらに王宮騎士エドガーや侍女長グレイスといった周囲の協力者の裏付けによって、アイシャの関与は完全に否定された。
こうして、夫と愛人が王宮の審問で追及される中、アイシャは堂々と「離婚を望む」と主張する。もともと政略結婚であり、妻として夫に協力する義務があったとはいえ、彼女の精神的苦痛や「悪評の犠牲者」としての事情が認められないはずがない。そして何より、今回の件で公爵家の名誉そのものを壊したのはレオンとエリザベスの側だ。王宮の大半の官吏も、愛人優先で妻を蔑ろにした挙句、不正を放置した公爵に同情する余地など感じていない。
離婚協議は形式上、レオンの実家筋やアイシャの実家筋(ルメート侯爵家)を交えた話し合いで進められた。しかし、ルメート家の両親も当初こそ「家同士の約束を破棄するなんて」と難色を示していたものの、これだけ公爵家が大問題を起こした以上、アイシャの離婚を受け入れざるを得ない状況となる。もちろん「名門家との縁組が破綻する」ことへの焦りや葛藤はあるにせよ、実際には娘にこれ以上の不名誉が降りかからないよう、早期決着を望むようになっていった。
一方のレオンも、元々「エリザベスと気ままに過ごせれば妻など不要」と思っていた節がある。いまさらここで必死にアイシャを引き留めたところで、関係修復が見込める状況ではないし、離婚に応じないままでいると「不正を暴露された公爵が、自分の罪を被せるために妻を拘束しているのでは?」というさらなる疑惑さえ起こりかねない。結局、レオン自身にとっても「妻を解放」するほうが得策だと判断した。
こうして、大きな障害もないまま、アイシャとレオンの離婚協議は驚くほどあっさりと方向づけられる。もちろん、財産分与や名目上の婚姻契約の解除などは formal な手順が必要だが、王宮の調査団も「公爵家が傷をこれ以上広げないためには、速やかな離婚が望ましい」と助言した。そのため、書類手続きは短期間で完了し、アイシャは正式に“公爵夫人”という肩書を失うこととなる。
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「白い結婚」からの解放
決定的な日が訪れたのは、あの舞踏会からおよそ二か月が経った頃。離婚が成立した報告が王宮から正式に出され、同時にルメート侯爵家へも通知が届いた。その瞬間、アイシャの胸には、言い知れぬ解放感が押し寄せる。それは「自由になった」という喜びだけでなく、長らく背負ってきた重荷が一気に下ろされたような、軽やかな感覚だった。
もちろん現実的には、彼女は再び“ルメート侯爵家の娘”という立場に戻ったことになる。結婚相手を探すにしても“離婚歴のある娘”というレッテルは簡単には消えないだろうし、貴族社会において“再婚”がスムーズに受け入れられるとは限らない。ましてやレオンとエリザベスの大スキャンダルがあまりにも派手だったため、当分の間は人々の噂に登ることを避けられない。
だが、アイシャは不思議と恐れを感じなかった。ここまでの経験が、彼女に「他人の目を気にして犠牲になるくらいなら、自分の意志を貫くほうが良い」という確信を与えていたのだ。まさしく“白い結婚”が生み出した歪みを、自らの手で断ち切った今、同じ苦しみを繰り返すのはごめんだと思える。
離婚成立の報告を聞いた夜、アイシャは広い夜空を仰ぎ見ていた。以前は公爵邸の大きな寝室の窓から一人きりで空を見つめ、涙をこぼしていたが、今いるのはルメート侯爵家の離れ。彼女の私物が少しずつ運び込まれ、仮住まいとはいえ落ち着いた空間が用意されている。
もっとも、両親はまだ複雑な感情を抱えているようだ。特に母親は「どうせなら、もっと高い地位のまま上手く振る舞っていれば良かったのに」と愚痴をこぼし、父親は「今さら戻ってきても家の体裁があるから、すぐに remarriage(再婚)を……」などと勝手な提案をしてくる。
だが、アイシャはもう、そんな声に囚われない。自分の人生を、自分で選ぶ——それこそが、彼女があの地獄のような結婚生活の中で悟った真実だからだ。ルメート侯爵家の家の者としての義務も大切かもしれないが、それを最優先にして再び誰かに操られるような結婚をする気は毛頭なかった。
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新しい人生を選ぶ
離婚が成立してしばらくすると、アイシャは実家ルメート侯爵家の“家業”を少しずつ手伝い始めることを決意する。侯爵家の財務状況や領地経営の一端を担うことは、貴族令嬢としてそれなりに教養を身につけてきた彼女にとって、難しくはない。そもそも、少女時代に「家の役に立つ娘」になるよう厳しく躾けられてきたのだから、かえって手慣れた作業とも言えるだろう。
だが、今回アイシャが望んでいるのは、単に“家を盛り立てるため”という旧来の理由ではなく、「自分が主体的に動き、学び、領地や人々の役に立てる場を得ること」だ。愛されないまま飾りの妻でいるより、はるかに生きがいがあるように感じられるのである。
ルメート侯爵家に戻って間もないある日、彼女は父から受け取った大量の領地管理の報告書に目を通していた。領内の農作物の収穫量や商隊の往来など、細かな数字がびっしりと書き込まれているが、アイシャは嫌な顔ひとつせずに確認を続ける。そして、こまめに疑問点や改善策をノートに書き留めていく。
かつて公爵家で味わったような息苦しさは、ここにはない。もちろん父や母の圧力が全く消えたわけではないが、少なくとも“白い結婚”という形で心を縛られることがないだけ、ずっと気が楽だ。何よりアイシャは、自分が積極的に学び、動ける環境に充実感を得ていた。
「……これだけの作物が余っているなら、市場へ出すルートを変えてみるのもいいかもしれない。流通商人との契約が安定すれば、領民の負担も減るはず……」
そう独り言のように呟きながら、アイシャは夜遅くまでペンを走らせる。あのころ“公爵夫人”として人形のように扱われた日々とは違う、確かな手応えがそこにはあった。勉強や思考がすぐに形になるわけではないが、それこそが“自分で人生を切り開く”という実感に繋がっているのだ。
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人々の評価と戸惑い
そうしたアイシャの姿は、周囲の目にも少しずつ伝わり始める。侯爵家の使用人たちは、久方ぶりに“娘様”が真剣に仕事に取り組んでいることに驚きながらも、「前よりもずっと生き生きしていらっしゃる」「あの公爵邸にいた頃より活気がある」と噂する。両親は「いつまでこんな地味なことを続けるつもりなのか」とやや半信半疑だが、あれだけ辛い結婚を経験してきた娘に強く口出ししづらい心境もあるのだろう。結果的に、アイシャは“離婚後の療養”という名目も兼ねて、領地経営の補佐に打ち込む日々を送ることができるようになった。
もちろん、中には「アイシャは公爵夫人の地位を手放して落ちぶれた」「結局、離婚した娘など再婚先は見つからないだろう」などと陰口を叩く人もいないわけではない。実際、貴族社会は“離婚歴”を重く見る傾向があり、政略結婚の駒として再び高位貴族と縁組むのは難しいかもしれない。
だが、アイシャはそうした噂に動揺しなくなっていた。もう他人の評価に翻弄されるのはまっぴらだし、自分を欺いて愛のない結婚に入り直すつもりもない。その強い覚悟が、彼女を“家業”という実務へ駆り立てている。噂を気にするよりも、ひとつでも多くの知識を学び、領地に役立つ策を練るほうがよほど有益だと感じていたからだ。
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エドガーの再来
そんなある日の夕暮れ、アイシャが領地の報告書に目を通していたところ、父から「王宮騎士のエドガー・グレンスフィールドが屋敷に来ているぞ」と声をかけられる。少し意外に思いながらも、アイシャはときめく心を抑えつつ応接室へ向かった。
彼は以前と同じ王宮騎士の制服姿で、凛とした雰囲気を漂わせていた。舞踏会以来、多少のやり取りはあったが、こうして侯爵家を訪れてくれるのは初めてかもしれない。アイシャが「久しぶりね、エドガー」と微笑むと、彼は少し恥ずかしそうに目を逸らしてから、深く礼をする。
「アイシャ、少し落ち着いたと聞いて安心したよ。レオンとの離婚も無事に成立したそうだね。……いや、無事と言っていいのか分からないが、少なくとも君があの“白い結婚”から解放されたのは喜ばしいことだと思ってる」
その言葉にアイシャはうなずく。
「ありがとう。わたしも、あなたをはじめ多くの人の助けがなければ、こうして自由を掴むことはできなかったと思う。……王宮では、まだレオンの処遇が話題になっているのでしょう?」
エドガーは少し苦い表情を浮かべながら頷く。
「そうだね。公爵位の継承問題も絡むから、簡単には決まらない。だが、彼とエリザベスが犯した不正の影響は大きい。処罰は免れないだろう……。それより、君のほうこそ大丈夫か? その……再び実家に戻って、やりづらいことはないかい?」
アイシャは一瞬考えてから、正直に答える。
「やりづらいところもあるわ。父や母はまだ落ち込んでるし、わたしを再婚させる算段を密かに練っている節もあるもの。だけど今は、家業の手伝いをしながら自分の道を考えているところよ。いずれは……ルメート家の領地管理や事業をもう少し開拓してみたいとも思っているわ」
エドガーの瞳が、ほんのりと嬉しそうに輝いた。「君が自分の人生を生きていることが伝わってくる」とでも言いたげな、暖かい眼差しだ。アイシャの頬がわずかに熱くなる。この感覚は、かつての冷たい公爵邸では感じられなかった種類のものだ。
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再び動き出す運命
その日の夕方、エドガーはしばらくの談笑の後「王宮に戻らなくては」と屋敷を後にした。アイシャは大きく息をつきながら、ささやかな胸の高鳴りを感じている。離婚してからというもの、彼とは距離を置かざるを得ない場面も多かったが、こうして顔を合わせると、幼なじみ以上の特別な感情が芽生えているような気がしてならないのだ。
しかし、そういった想いを素直に受け入れるには、まだ不安もある。もしアイシャが再び誰かと結婚することになれば、両親や貴族社会が黙ってはいないだろう。「離婚歴のある娘が、騎士と結婚?」「もっと家格に相応しい縁組をすべきだ」などと、いらぬ批判や圧力もかかるに違いない。ましてやエドガーが王宮騎士という立場上、あまり軽率な行動は取れないはずだ。
とはいえ、それでも「以前のわたしのように、他人の都合だけで婚姻を結ばされたくはない」。そう強く思える自分に気づくたび、アイシャは少しずつ過去の傷が癒えているのを感じる。あれほど“愛されない結婚”に囚われていたのが嘘のように、自分の意志で未来を思い描けるのだ。
こうして、離婚後のアイシャは一種の“復興期”を迎えていた。傷ついた心を癒しながら、実家の領地経営に携わり、人々の役に立つ方策を模索する。周りからの冷ややかな噂や、両親の再婚圧力をやんわりとかわしつつ、少しずつ自分の意思を示していく。誰にも所有されることなく、“自分が求める幸せ”に向かって歩むための大切な時間だ。
そして、その道のりでエドガーがふと訪れてくれたり、手紙を送ってくれたりするのが大きな支えとなっている。彼は「公爵家の捜査で忙しい」と言いつつ、合間を縫ってアイシャに思いやりの言葉を送り、彼女が躓きそうになると助け舟を出してくれる。これが“本当の意味での友人”であり、“思いやり”なのか——過去の結婚生活で失っていた感覚を、アイシャは少しずつ取り戻していくのだ。
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次なるステップへの兆し
離婚が成立してから数週間後、アイシャは侯爵家の領地にある小さな村を訪れた。新たな農作物の導入を検討するため、現地を視察するのが目的だ。領主の娘としてこういった行脚をするのは初めてだったが、村人たちが素朴に歓迎してくれる姿を目の当たりにし、アイシャは心温まる思いで一日を過ごす。
視察を終え、馬車で戻る途中、彼女は車窓から夕焼けに染まる田畑を見つめながら思う。「こんな風に、わたしは地に足をつけて生きていきたい。もう“飾り”ではなく、“人々と関わり、働く自分”でありたい」と。
そして、その思いが自然にエドガーの姿を呼び起こす。彼がずっと示してきた誠実さや優しさが、あの冷え切った日々の中で、どれほどの希望になっただろう。舞踏会で真実を暴く直前に見せてくれた深い気遣い、王宮騎士としてだけでなく、幼なじみとして彼女を守ろうとする姿勢……思い返すだけで胸が暖かくなる。
アイシャは気づけば、馬車の中で小さく微笑んでいた。やがて夕陽が沈みかけるころ、村外れで馬を走らせていた騎士の一団とすれ違う。先頭に立つのは、まさしくエドガーだ。彼も彼女に気づき、目を見張って馬を減速させる。
「アイシャ? こんなところで……何をしているんだ?」
彼女が村を視察しているとは知らなかったようで、エドガーは驚きながらも喜びを隠せない様子だ。アイシャは馬車の扉を開けて降り立ち、彼のもとへ歩み寄る。
「領地の作物のことが気になって、父に頼み込んで視察をさせてもらったの。エドガーこそ、こんな辺鄙な場所で何を?」
するとエドガーは少し照れたように微笑む。
「王宮の命令で巡回に出てたんだ。最近は各地の警備や治安維持に力を入れろと指示が出ていてね……。まさかここで君に会えるなんて思わなかったから、驚いたよ。でも、元気そうで何よりだ」
その言葉に、アイシャは自然と笑みをこぼす。心の奥底で、再会できた喜びがふつふつと湧き上がってくる。この瞬間、彼女は確信するのだ。もしもう一度、誰かに“心”を預けるとしたら、それはエドガー以外に考えられないかもしれない、と。
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選んだ自由への道
こうして、アイシャは正式にレオンとの離婚が成立し、“白い結婚”という長い苦しみから解放された。新しい人生を歩むべく侯爵家の家業を手伝い始め、自分がかつて失いかけた“生きる喜び”を再発見している。日はまだ浅いが、彼女はもう過去のように他人の都合で身動きが取れなくなることはないだろう。
侯爵領の広大な田畑、素朴な村人たちとの触れ合い、そして再び巡り会う機会が増えたエドガー——すべてがアイシャを“新しい世界”へ誘っているように感じられる。もちろん、これから先も楽な道のりではないかもしれない。貴族社会の噂や両親の思惑、そして自分自身の“愛に対する恐れ”を完全に拭い去るには時間がかかるだろう。
それでも、アイシャはもう逃げない。離婚という一大決断を下したときから、彼女は“他人に囚われる生き方”を捨て、“自分を信じる生き方”を選んだのだから。公爵家の妻として過ごした日々は決して幸せではなかったが、その経験が彼女を強くし、何より“真実の愛”を見抜く目を育んだのだと今は思える。
日が暮れ始める村外れの道を、アイシャの馬車はゆっくりと進む。広大な空に浮かぶ星影を見つめながら、彼女の心は静かに希望で満ちていた。もう、誰に支配されることもない。自分の手で人生を切り開きながら、いつか“本当の愛”に巡り合えるかもしれない——そう思うと、不安と期待が胸の奥でせめぎ合いながらも、不思議と足取りは軽い。
やがて馬車が揺れながらルメート侯爵家へ戻る頃、アイシャは心にそっと誓う。これから先、何が起こっても過去のような“白い結婚”には決して戻らない。自由の大切さと、自分が生きる意味を知った今、彼女はもう同じ失敗を繰り返さないだろう。そう、夜空の星が教えてくれる——人は誰かに縛られるのではなく、互いを輝かせ合うために共に歩むものなのだと。
離婚と自由。それは“やり直し”ではなく、“新たなスタート”だ。公爵夫人であった過去は消えないけれど、その過去があったからこそアイシャは苦しみも成長も知った。そして今、彼女は自分で選んだ道を進もうとしている。ここから先に待つのはさらなる試練かもしれないが、少なくとも“本当の人生”を生きられる手応えがある。それこそがアイシャの求め続けていた“自由”にほかならない。
こうして、アイシャは晴れて“白い結婚”から解き放たれ、わずかずつ、幸せに向かう一歩を踏みしめていく。彼女がまだ気づいていないのは、幼なじみの王宮騎士エドガーが、ずっと彼女を見つめ、支えようとしていた事実——そして、それが“真実の愛”へと繋がっていく物語の始まりでもあるのだ。今はまだ、星影の下で自分を取り戻す喜びをかみしめるだけだが、近い将来、アイシャが本当の愛を知り、新しい未来へ向けて歩み出す日は遠くない。彼女が再び“結婚”という形を選ぶかは、まだ分からない。けれど少なくとも、それは“冷たく白い契約”などではなく、“温かな心の通じ合い”による結びつきであるだろう。
夜空の星々がきらめくたびに、アイシャは自分に言い聞かせる。「私はもう、あの頃の私とは違う」と。かつてはすべてが苦い記憶だった星の光が、今は心を照らし、明日への希望を支えてくれている。離婚と自由を得たことで、彼女はようやく歩き出せるのだ。“選択”という名の道を、一歩ずつ。これまで奪われてきた時間を取り戻すように、侯爵家での生活を整えながら、次なる未来を見据える。領地を支え、学びを深め、そして時折エドガーに会う――そんな日常の中で、アイシャは自分を縛ってきた呪縛を解き放ち、星影の下で輝きを取り戻していくのである。