玉座の間は、冷たい緊張感に包まれていた。国王は玉座に座り、その前にはシャウラが穏やかな笑顔を浮かべて立っている。彼女の後ろには廷臣たちが控えており、それぞれが複雑な表情を浮かべていた。
「シャウラよ、お前をここに呼んだ理由をわかるか?」
国王の重々しい声が玉座の間に響く。
「ええと……新しいお祈りの仕方を教えてくださるとかですか?」
シャウラは首を傾げながら、相変わらずのんびりした調子で答えた。その無邪気さに、国王は一瞬だけ言葉を失ったが、すぐに表情を引き締めた。
「いや、違う。その……シャウラ、お前には長きにわたり、この国を守るために祈りを捧げてきてもらった。その功績は我々全員が感謝している。」
「まあ、そんな……私はただ皆さんが幸せでいられるようにお祈りしていただけですから!」
シャウラの言葉に、廷臣たちの一部が小さく溜息をついた。その天然な振る舞いが、彼女を追放しようと決めた理由の一つだった。
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追放の通告
国王は喉を鳴らし、一度深呼吸をすると続けた。
「だが、この国も新しい時代を迎えねばならぬ。新たに擁立された聖女が、お前の後を継ぐこととなった。」
シャウラは目を丸くしたが、驚きというよりも納得したような表情を浮かべた。
「まあ、そうなんですね!それは安心ですねぇ。新しい聖女さんなら、きっとすごく頼りになるんでしょうね。」
その無邪気な反応に、廷臣たちは内心で焦りを覚えた。シャウラが感情的に抗議する可能性を想定していたため、この反応は意外だったのだ。
「シャウラ、お前には隣国へ移り住んでもらい、そこで穏やかに暮らしてもらうつもりだ。」
国王の言葉に、シャウラは軽く頷いた。
「隣国ですか!新しい場所って、なんだかワクワクしますね~。美味しいものもたくさんあるといいなぁ。」
彼女のあまりに素直な態度に、廷臣たちは思わず互いに顔を見合わせた。反論や抗議どころか、彼女はむしろ楽しそうにしている。
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廷臣たちの困惑
シャウラの態度に、廷臣の一人が思わず口を開いた。
「シャウラ様……ご自身が聖女の座を降りることに、何の疑問も抱かれないのですか?」
「ええ、だって新しい聖女さんがいらっしゃるんですよね?私よりもっとしっかりしている方なら、国もきっと安泰ですね!」
「しかし、シャウラ様の加護がなくなることが国にどのような影響を及ぼすか……」
「え、そうなんですか?でも、新しい聖女さんがいるなら大丈夫ですよね?そうですよね?」
シャウラは心底そう思っているようで、にっこりと微笑んでいた。その無垢な表情に、廷臣たちは再び言葉を失った。
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侍女たちとの別れ
シャウラが自室に戻ると、侍女たちが涙ぐみながら荷物をまとめていた。彼女の追放の知らせを聞き、慌てて準備を整えているのだ。
「シャウラ様……本当に行かれるのですか?」
侍女の一人が声を震わせながら尋ねた。
「ええ、国王様が決められたことですし、新しい聖女さんがいらっしゃるなら安心ですよね。私も隣国でのんびり暮らします~。」
シャウラは気楽な調子で答えたが、侍女たちはその言葉にさらに涙を浮かべた。
「シャウラ様がいなくなったら、この国は……」
別の侍女が呟いたが、シャウラはその言葉に気づかないまま、荷物を見て微笑んだ。
「ありがとう、こんなに綺麗にまとめてくれて。よし、準備万端です!」
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旅立ちの日
翌日、シャウラは馬車に乗り、王宮を後にした。見送りに来たのはごく少数の侍女と村人たちだったが、彼らの目には深い悲しみが宿っていた。
「シャウラ様、どうかお元気で……!」
侍女が涙ながらに叫ぶと、シャウラは窓から顔を出して手を振った。
「もちろん!隣国でも楽しく過ごしますから、皆さんも元気でいてくださいね~。」
馬車がゆっくりと動き始める。遠ざかる王宮を振り返りながら、シャウラは少しだけ感慨深げな表情を見せた。
「そういえば……私がいなくなると大変なことが起きるって言いましたけど、まあ、きっと新しい聖女さんが何とかしてくれますよね。」
その言葉は、御者にも、見送りに来た人々にも、奇妙な不安を残した。