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第4話 旅立ちの日

 王宮の門前に停まった馬車の前には、少人数の見送り人が集まっていた。侍女や一部の村人たちが涙ぐみながらシャウラを見送っている。


「シャウラ様、本当に行ってしまうのですか?」

一人の侍女が涙を拭いながら尋ねた。シャウラは馬車に乗り込む手を止め、振り返って微笑んだ。


「はい。新しい聖女さんがいらっしゃるので、私は安心して隣国で暮らしますね~。」

その明るい声に、侍女たちはますます涙を流した。


「シャウラ様がいなくなったら、この国は……」

別の侍女が呟くように言ったが、その言葉にシャウラは気づかないまま、空を見上げた。


「今日はいいお天気ですねぇ。これからの旅が楽しみです!」

そんな無邪気なシャウラの声に、見送りの人々はさらに胸を締め付けられる思いだった。



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馬車の出発


御者が手綱を引き、馬車がゆっくりと動き始めた。シャウラは馬車の窓から身を乗り出し、大きく手を振る。


「皆さん、どうかお元気で~!」

村人たちや侍女たちは涙ながらに手を振り返し、その姿が徐々に遠ざかっていった。


「シャウラ様……」

「どうか、お幸せに……」

小さな声が後方から届いていたが、シャウラは気づくことなく旅路を楽しんでいた。



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旅の始まり


馬車が街道に出ると、周囲には広がる緑の風景が続いていた。畑で働く農民たちが手を止めて馬車を見送り、その目にはどこか寂しさが漂っていた。


シャウラは窓から顔を出し、道中の景色に目を輝かせた。


「まあ、素敵ですね!お花畑もたくさんありますし、鳥たちも楽しそうに歌っています。」

御者は黙ったまま手綱を握りしめていたが、シャウラの声に小さく返事をした。


「……ええ、そうですね。」


御者はその場の空気を壊さないよう努めていたが、彼の胸中には複雑な感情が渦巻いていた。国を追放された聖女が、こんなにも無邪気でいられる理由が理解できなかったのだ。



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道中の出来事


しばらく進むと、小さな村に差し掛かった。そこでは、何人かの村人が木陰で休んでいたが、馬車を見ると驚いたように立ち上がった。


「あれは……聖女シャウラ様ではないか?」

「どうして馬車に乗っているんだ?どこへ行かれるのだろう?」


シャウラはその声を聞くと、笑顔で手を振った。

「こんにちは!ちょっと隣国まで旅をすることになりまして~。」


村人たちは困惑した顔を見合わせた。聖女が旅に出るなど聞いたことがなかったし、その理由もわからない。しかし、シャウラの屈託のない笑顔を見て、それ以上何も言えなくなった。


「……どうかお気をつけて!」

村人たちはそう声をかけ、再び仕事に戻っていった。



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夜の宿営


その夜、馬車は街道の途中にある宿場町で一泊することになった。宿の主人はシャウラを見て驚き、急いで部屋を用意した。


「これはこれは、聖女シャウラ様!こんなところまでお越しいただけるとは……何か特別な御用が?」

シャウラはにっこり微笑みながら答えた。


「いえ、隣国で少し暮らすことになっただけなんです。お気遣いありがとうございます~。」

宿の主人はそれ以上深くは聞かず、シャウラを部屋へ案内した。


その夜、シャウラは窓から満天の星空を見上げながら、静かに祈りを捧げた。


「どうか、皆さんが元気で幸せでいられますように……。隣国でも、美味しいものがたくさんありますように!」


彼女の祈りは、無意識のうちに大地へと広がり、その場の空気がどこか暖かく感じられた。



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国境への道


翌朝、馬車は再び街道を進み、ついに隣国との国境に差し掛かった。そこには小さな門が立ち、国境警備隊が見張りをしていた。


「ここが国境です。」

御者が静かに告げると、シャウラは窓から顔を出して門を眺めた。


「まあ、こんなところに門があるんですね!なんだかワクワクします~。」


馬車が門を越えた瞬間、周囲の空気が微かに揺れるような感覚があった。それは、彼女が国を守っていた無自覚な加護が完全に消失した瞬間だった。


御者はその変化を感じたが、何も言わず馬を進めた。彼の胸中には、奇妙な不安と焦燥感が広がっていた。



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新たな地への期待


隣国側の道に入ると、シャウラは再び窓の外に目を向けた。そこには、彼女がまだ知らない新しい風景が広がっていた。


「きっと、これから素敵なことがたくさん待っていますよね!あ、隣国のお花も綺麗に咲いているといいなぁ。」


その言葉に、御者は小さく頷いた。


「そうですね……隣国で、どうかお幸せに。」


馬車は静かに進み、新たな土地への旅路が続いていった。その背後では、シャウラが離れた国で徐々に異変が広がり始めていたことを、彼女も御者もまだ知らなかった。



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