隣国との国境を越えたシャウラの乗った馬車は、のどかな道を進んでいた。柔らかな風が草原を撫で、遠くには小鳥のさえずりが響く。空は晴れ渡り、白い雲がゆっくりと流れている。シャウラは窓の外を眺めながら、満足そうに微笑んだ。
「素敵な景色ですねぇ。こういうところに住むのもいいかもしれません。」
彼女は軽く伸びをしながら、馬車の中でくつろいでいた。
御者は無言で手綱を握りしめていた。見送りの際に感じた違和感が彼の胸を締め付けており、国境を越えてなお、その不安が消えることはなかった。
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異変の兆候
シャウラが隣国の領域に足を踏み入れた瞬間、目に見えない何かが世界から失われたようだった。澄み渡る青空が徐々に薄暗くなり、遠くに浮かんでいた白い雲が黒く染まり始める。
御者は背後の空に異変を感じ、振り返った。その目には、今まで見たことのない光景が映し出されていた。
「これは……?」
遠くの空に、暗雲の間から赤い光が漏れ始めていた。それは次第に強さを増し、大地を染めるような不気味な輝きを放っていた。
「どうしました?」
シャウラがのんびりと御者に声をかける。
「……いや、なんでもありません。」
御者は動揺を隠しながら馬車を進めた。しかし、その背中からは汗が滲み出ていた。
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隕石の出現
しばらく進むと、轟音が遠くから聞こえてきた。それは風の音とは全く違う、重く耳障りな音だった。御者が再び振り返ると、空に黒い点が現れていた。
その点は瞬く間に大きくなり、まるで燃え盛る炎の塊のように赤く輝いていた。それは隕石だった。
「な……なんだ、あれは……!」
御者の手が震え、馬が不安そうに嘶く。
シャウラもその声に気づき、窓から顔を出して空を見上げた。彼女の目には、燃えるような隕石がゆっくりと落ちてくる様子が映った。
「まあ、綺麗ですね!流れ星みたいです。」
シャウラは無邪気に呟いた。
「流れ星どころではありません!」
御者は叫ぶように言った。
「あれは隕石です!国に向かっています!」
シャウラは驚くこともなく、両手を合わせて祈り始めた。
「皆さんがどうか無事でありますように……」
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国への衝撃
隕石はすさまじい速度で国の中心部に向かい、やがて大地に激突した。次の瞬間、大爆発が起こり、光が辺り一面を覆った。轟音と共に大地が震え、立ち上る黒煙が空を覆い尽くす。
「……っ!」
御者はその衝撃に馬車から降り、遠くの空を見つめた。国が炎に包まれ、黒い灰が空高く舞い上がる様子を目の当たりにした彼は、呆然とその場に立ち尽くした。
「国が……あれは……国が……!」
彼の口から震える声が漏れる。
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シャウラの反応
その背後で、シャウラはいつもの穏やかな表情を浮かべていた。遠くの光景を見ながら、彼女はまた手を合わせた。
「まあ、大変ですねぇ。でも、だから言ったんです。聖女がいなくなると大変なことが起きるって。」
彼女の声はどこまでも無邪気だった。
御者はその言葉に振り返り、シャウラを見つめた。彼の目には恐怖と混乱が宿っていた。
「シャウラ様……本当に、聖女がいなくなったせいで、こんなことが……?」
彼の声は震えていた。
「うーん、そうかもしれませんね。でも、新しい聖女さんがいるんですよね?きっと大丈夫ですよ~。」
シャウラは微笑みながら答えた。
「しかし……」
御者は何かを言おうとしたが、その言葉は最後まで出てこなかった。
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旅の続き
御者は深い動揺を抱えながらも、馬車を再び進めた。背後では国が崩壊していく様子が続いているが、シャウラはそれに気づくこともなく、のんびりと窓の外を眺めていた。
「隣国もきっと素敵なところですよね~。美味しいものがたくさんあるといいなぁ。」
その言葉に、御者はかすかに笑った。
「……そうですね。隣国で、どうかお幸せに。」
馬車は静かに進み、国境を越えてさらに遠くへと向かっていった。しかし、その背後にある国では、シャウラのいなくなった影響がこれからさらに深刻になっていくことを、彼らはまだ知らなかった。
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