隕石が国土の中心部に落下し、国の1/3が壊滅的な被害を受けたその日、王宮はかつてない混乱に包まれていた。巨大な衝撃波が王都にも届き、建物の窓ガラスが割れ、地面が揺れ、人々は恐怖の悲鳴を上げていた。
王宮の広間では、国王を中心に廷臣たちが集まり、激しい議論が飛び交っていた。
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廷臣たちの動揺
「どうしてこんなことが起きたのだ!?」
一人の廷臣が怒りの声を上げる。
「隕石が落ちるなど、神の怒りではないか!?」
「確かに、これはただの自然現象とは思えん。」
別の廷臣が言葉を継ぐ。
「聖女シャウラを追放したことが影響しているのではないか?彼女がいなくなった途端に、このような災厄が起きたのだ。」
その言葉に広間がざわめいた。
「馬鹿な!新しい聖女がいるではないか。彼女がいれば問題ないはずだ!」
若い廷臣が反論したが、その声はどこか不安げだった。
老廷臣ハルゼンが重い声で言った。
「新しい聖女リナリア様がいらっしゃることは承知だ。しかし、彼女の力が発揮される兆しがないのが現状ではないか?」
その言葉に、広間は再び静まり返った。
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新しい聖女の力
王宮の奥深くでは、新たに擁立された聖女リナリアが祈りを捧げていた。豪華な祈祷室の中、彼女は汗を浮かべながら集中していたが、その顔には焦りが見え隠れしていた。
「どうして……どうして何も起きないの……?」
リナリアは自分の無力さを痛感していた。魔法学院を首席で卒業した彼女は、優れた魔力を持っていると評価されてきた。しかし、実際に祈りを捧げても、国を覆う災厄を止めることはできなかった。
侍女たちはリナリアを気遣い、そっと言葉をかけた。
「リナリア様、どうかご無理をなさらず……」
「無理をしなければ、この国がどうなるのか……わかっています!」
彼女の声には涙が滲んでいた。
「私は、シャウラ様の代わりに聖女として選ばれたのです……それなのに、何もできないなんて……!」
彼女の祈りは続けられたが、その努力は国に届くことなく、災厄はさらに広がっていった。
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広がる混乱
隕石の被害は都市部だけでなく農村にも及び、農作物が壊滅状態に陥っていた。さらに、突然の天候不順が重なり、作物の収穫ができなくなった村も多かった。
「畑がダメになった……今年の冬を越せるかどうか……」
「井戸の水が干上がってしまった。どうすればいいんだ……」
村人たちは次々と不安を訴え、王宮へ陳情を送り始めた。
王宮の侍従たちは、これまでにない量の陳情書に頭を抱えていた。
「これでは対処しきれない……」
「聖女リナリア様の力で解決できないのか?」
「それが……まったく反応がないのだ。」
民衆の間でも「新しい聖女では国を守れない」という噂が広がり始め、次第に不満が募っていった。
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聖女追放への後悔
老廷臣ハルゼンは、一人静かに思案していた。
「聖女シャウラ様が国を守っていたというのは、ただの迷信ではなかったのかもしれん……。」
彼はシャウラが祈りを捧げていた頃のことを思い出した。彼女がいる間、国は確かに安定し、平和が保たれていた。それが彼女が追放されると同時に崩れたのだ。
「彼女は……無自覚に国を守る力を持っていたのではないか……?」
ハルゼンの胸中には、追放を進めた自分への後悔が湧き上がっていた。
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国王の決断
王宮の広間に戻ったハルゼンは、国王に進言した。
「陛下、今こそ再びシャウラ様をお呼びするべきかと存じます。」
「シャウラを呼び戻すだと?」
国王は険しい顔をした。
「ですが、陛下。シャウラ様がいなくなった途端にこの災厄が起きたのは事実です。これは偶然ではないでしょう。」
ハルゼンの言葉に廷臣たちも同調し始めた。
「そうです。彼女が無自覚であれ、聖女として国を守っていたのなら、今すぐにでも戻ってもらうべきです。」
しかし、若い廷臣の一人が反論した。
「それでは、新しい聖女リナリア様の存在を否定することになります。それは国の威信にも関わる問題では?」
国王は激しく悩んだ末、重々しい声で言った。
「まずは使者を送れ。シャウラが本当に国を守る力を持っていたのか、直接確認するのだ。」