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第8話 隣国での始まり

翌朝、隣国の小さな宿場町には爽やかな日差しが降り注ぎ、清々しい空気が漂っていた。シャウラは朝の光を浴びながら、宿の庭に咲く花々を眺めていた。


「まあ、綺麗ですねぇ。この隣国もきっと素敵な場所に違いありません。」

彼女は花の一つに触れ、微笑みながら囁いた。


「頑張って咲いていて偉いですね。きっと、皆さんを幸せにしてくれるお花なんだろうなぁ。」


その言葉に応えるように、花の色がほんの少し鮮やかになったかのようだった。シャウラ自身はその変化に気づくこともなく、ただ穏やかな気持ちで朝を迎えていた。



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新たな生活の始まり


宿の主人が朝食を持ってくると、シャウラは嬉しそうにテーブルについた。焼き立てのパンと新鮮なミルク、そして地元で採れた果物が並ぶ素朴な朝食だったが、彼女にとっては十分満足のいくものだった。


「ありがとうございます!こんな美味しそうな朝ごはんを用意してくださるなんて、感激です~。」


「いえいえ、聖女様がいらっしゃるとは光栄の至りです。これから隣国でどのようにお過ごしになるのでしょうか?」

宿の主人が問いかけると、シャウラは少し考え込みながら答えた。


「そうですねぇ……とりあえず、お花屋さんでも始めようかと思っています。隣国の皆さんとお話しながら、のんびり過ごせたらいいなぁって。」


その言葉に、宿の主人は感心したように頷いた。

「それは素晴らしいお考えです。シャウラ様なら、どこへ行かれても歓迎されることでしょう。」


御者はその会話を静かに聞きながら、未だに頭の中で前日の出来事を整理しきれずにいた。



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隣国の初めての訪問者


その日の午後、シャウラが宿の庭で花に水をやっていると、一人の女性が訪ねてきた。彼女は若い母親で、小さな子供の手を引いていた。


「失礼します……。こちらに聖女シャウラ様が滞在されていると聞いたのですが……」


「はい、そうですよ~。」

シャウラはにこやかに振り返り、女性とその子供を見つめた。


「実は……この子が高熱で苦しんでおりまして。どの医者に見せても治らないので、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか……!」

女性は涙ながらに懇願した。


「まあ、それは大変ですね……。」

シャウラは子供の顔を見つめながら静かに微笑み、そっとその額に手を当てた。


「大丈夫ですよ。きっと良くなります。」

シャウラがそう呟くと、子供の表情がふっと和らぎ、次の瞬間には高熱が嘘のように引いていった。


「お母さん……苦しくない……」

子供の小さな声に、母親は驚きと喜びの涙を流した。


「ありがとうございます、ありがとうございます……!なんとお礼を申し上げればいいか……!」


「そんな、大したことはしてませんよ~。お子さんが元気になってくれて、私も嬉しいです。」

シャウラは相変わらず無邪気な笑顔を浮かべたままだった。



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広がる評判


この出来事が町中に広まるのに時間はかからなかった。人々は口々に「隣国に来た聖女シャウラ様が奇跡を起こした」と語り、その噂は急速に広がっていった。


次の日には、病気の子供を抱えた母親だけでなく、腰を痛めた老人や作物が不作に悩む農夫たちが次々とシャウラを訪れるようになった。


「どうか、私たちにもお力を……」

彼らの懇願に、シャウラは一人ひとり丁寧に接し、祈りを捧げた。そのたびに病気は癒え、作物は再び実り、問題が解決していった。


しかし、シャウラ本人はそれが自分の力によるものだとは考えていなかった。


「皆さんが頑張っているからですよ~。きっとお花や自然が応援してくれたんです。」


その言葉に、訪れた人々はさらに感動し、シャウラの存在を信仰の対象として見始める者も出てきた。



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御者の葛藤


一方で、御者の心はさらに揺れ動いていた。隕石が落下した国では災厄が広がる一方、シャウラが滞在する隣国では豊かさが増し、人々の生活が良くなっていく。その対比があまりにも鮮やかだった。


「シャウラ様の無自覚な力が、ここまで大きな影響を及ぼしているとは……」

御者は心の中で呟いた。


だが同時に、彼は何も知らずに穏やかに笑うシャウラを見て、胸が締め付けられるような感情を覚えた。


「この方は、本当に自分の力に気づいていない。そんな状態で、果たしてこの国が彼女を支えられるのか……?」


その疑問が彼の中で深まっていく。



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