シャウラの花屋が開業して数日が経ち、その評判は宿場町全体に広がりつつあった。シャウラの花はただ美しいだけではなく、見る人の心を癒し、活力を与えるような力を持っていると人々は感じていた。
その日、シャウラは朝早くから庭に出て、咲き誇る花々に水をやりながら、優しく話しかけていた。
「みんな、今日も綺麗に咲いてくれてありがとう。お客様に喜んでもらえるよう、頑張りましょうね。」
彼女の声に応えるように、花びらが太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
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最初のお客様:農夫の一家
その朝、最初に訪れたのは、近くの農村からやってきた一家だった。父親と思われる農夫が、妻と子供を連れて店の前に立っていた。
「おはようございます!お花を見に来てくださったんですね。」
シャウラは明るく声をかけた。
「ええ、実はお願いがありまして……」
農夫は帽子を脱ぎ、少し緊張した様子で話を切り出した。
「私たちの畑が最近、不作続きでして。何をやってもうまくいかないんです。それで、こちらのお花の評判を聞いて……もしかしたら、何かお力を貸していただけるのではないかと思いまして。」
その言葉を聞いたシャウラは、優しく微笑んだ。
「それは大変ですね……。どんなお花がいいかしら?畑に元気を届けるようなお花をお探しですか?」
「いや、実際には……」
農夫は申し訳なさそうに俯いた。
「お花ではなく、シャウラ様が祈ってくださるだけで、何かが変わるのではないかと……そんな噂を聞きまして。」
その言葉にシャウラは一瞬目を丸くしたが、すぐに納得したように頷いた。
「なるほど……では、皆さんが畑で幸せに働けるように、私も一緒にお祈りさせていただきますね。」
彼女は農夫とその家族とともに花屋の庭に立ち、手を合わせて祈り始めた。
「どうか、この方たちの畑が豊かになりますように。たくさんの作物が実り、皆さんが笑顔で過ごせますように……。」
その祈りの声は穏やかで、どこか心を落ち着かせる力を持っていた。農夫たちは深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べて帰っていった。
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翌日の驚き
翌日、農夫が再びシャウラの花屋を訪れた。顔には信じられないほどの驚きと喜びが溢れていた。
「シャウラ様!奇跡です!畑の作物が元気を取り戻して、枯れていた作物が一晩で青々と茂り始めました!」
その報告に、シャウラはにこやかに微笑んだ。
「まあ、それはよかったですね!でも、きっと皆さんが一生懸命お世話しているからですよ。お祈りはちょっとした応援みたいなものですから。」
農夫は感激して深々と頭を下げ、シャウラのもとに花束を置いていった。
「これはほんの気持ちです。これからも私たちのためにお祈りをお願いします!」
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続々と訪れる村人たち
この出来事がきっかけとなり、近隣の村人たちが次々とシャウラの花屋を訪れるようになった。ある日、病気の家族を抱えた女性がやってきた。
「シャウラ様、どうかこの薬草を見ていただけませんか?家族が熱を出しておりまして……」
シャウラは丁寧に薬草を見つめ、小さく手を合わせた。
「この薬草がしっかりと効きますように……。きっと、すぐに良くなりますよ。」
すると、翌日には女性が再び訪れ、涙ながらに感謝の言葉を述べた。
「おかげさまで熱が引きました!本当にありがとうございます!」
シャウラの花屋は、ただ花を売るだけでなく、人々の悩みを解決する場所としても知られるようになった。病気や不作、家族の問題に悩む人々が、次々と彼女を頼るようになったのだ。
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村人たちの信頼
「シャウラ様がいるだけで、この町が明るくなったように感じます。」
「きっとあの方は神様に愛されているんだわ……。」
そんな噂が広がり、シャウラは町の人々からますます愛される存在になっていった。しかし、彼女自身はその評判に気づいておらず、いつもと変わらない穏やかな笑顔で花の世話をしていた。
「皆さんが元気で幸せなら、それが一番ですから~。」
シャウラの言葉には一切の偽りがなく、その無垢な心が人々の信頼をさらに深めていった。
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御者の心の変化
その一方で、御者はシャウラの影響力に改めて驚きを覚えていた。彼女が祈りを捧げるだけで、病気が癒え、不作が解消され、村人たちが笑顔を取り戻していく。その無自覚な力は、かつての国で発揮されていた加護と全く同じだった。
「やはり、シャウラ様がこの国をも守っているのか……」
御者は心の中でそう呟いた。
しかし、彼の胸には一抹の不安もあった。追放された国がどうなっているのか、そしてシャウラの力がそこに与えていた影響を考えると、胸の奥が重くなるのを感じた。
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