シャウラを追放した後、国王と廷臣たちはすぐに次の聖女としてリナリアという若い女性を擁立した。彼女は王都にある神殿で聖女として育てられた候補の一人であり、魔法の才能や高い知性を持っていると評価されていた。
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リナリアの登場
リナリアが聖女として正式に就任した際、王宮ではその就任を祝う豪華な儀式が行われた。多くの貴族や廷臣が出席し、王は高らかに宣言した。
「我々には新たな聖女リナリアがいる!彼女の力で国の繁栄を取り戻すのだ!」
リナリアは緊張しながらも毅然とした態度で応えた。
「この国の人々が幸せでありますよう、全力を尽くします。」
その美しい姿と言葉に、貴族や廷臣たちは拍手を送り、民衆も新しい聖女への期待を寄せた。しかし、その期待が裏切られるのに、そう長い時間はかからなかった。
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力の不発
リナリアは聖女として最初の祈りを王宮の大広間で捧げた。彼女は神殿で学んだ知識と魔法を駆使し、国中の災厄を鎮めるよう神に祈りを捧げた。
「どうか、この国に平和をお与えください……!」
リナリアの祈りは確かに優美で、周囲にいた廷臣たちもその様子に期待を抱いた。しかし、祈りが終わっても何の変化も起きなかった。
隕石の被害で荒廃した土地はそのままで、冷害も収まる兆しはなく、疫病が広がる勢いはむしろ増していた。
「どうして……どうして何も変わらないの……?」
リナリアは焦りと不安を隠せなかった。彼女自身、聖女として選ばれた以上、自分には国を救う力があると信じていた。しかし、現実は彼女の力が全く役に立たないことを突きつけてきた。
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王宮の動揺
リナリアの力が発揮されないまま、隕石の被害は日に日に拡大し、国全体の状況はさらに悪化していった。その結果、王宮内では新しい聖女に対する信頼が揺らぎ始めた。
「リナリア様は本当に聖女としての力を持っているのか?」
「彼女が神殿で学んだ知識は一体何の役に立つのだ……?」
廷臣たちは次々と不満を漏らし始めた。
「シャウラ様の時には、祈り一つで国全体が守られていたではないか。それに比べて、今はどうだ?」
「しかし、シャウラ様は追放されたのだ。我々にはリナリア様を信じるしかない。」
「だが、信じたところで結果が伴わなければ意味がないではないか!」
こうした議論は、次第にリナリア本人の耳にも届くようになった。
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リナリアの苦悩
リナリアは神殿の祈祷室で膝をつき、涙ながらに祈りを捧げ続けた。
「どうして……どうして私には力がないの……?」
彼女は自分の無力さに打ちひしがれ、自信を失っていった。かつては聖女としての期待を胸に抱いていた彼女も、今ではその責任に押し潰されそうになっていた。
「私では……この国を救えないのではないか……。」
その声は次第に小さくなり、彼女は祈りの手を震わせた。
そんなリナリアの姿を見ていた侍女は、そっと声をかけた。
「リナリア様、ご自分を責めないでください。国がこれほどの危機にあるのは、隕石の災厄があまりにも大きすぎるからです。」
しかし、リナリアは涙を浮かべたまま首を振った。
「違うの……私は聖女なのに、何もできない。私が無力だから、国の人々が苦しんでいるの……。」
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国王の苦悩
国王もまた、リナリアに対する失望と、この国の未来に対する不安を抱えていた。
「リナリアの力が発揮されない以上、国を救う道は他にあるのか……?」
王座に座り、王は苦悩の表情で呟いた。
その時、老廷臣ハルゼンが進み出て言った。
「陛下、シャウラ様の追放がこの国を滅ぼすきっかけになったと考える者が増えております。いっそ、シャウラ様を呼び戻すことをお考えになってはいかがでしょうか?」
「しかし……彼女はすでに追放された身だ。それに、彼女が戻ってくるとは限らない。」
王は頭を抱えた。シャウラを呼び戻すことで国が救われる可能性があることは分かっていたが、それが国としての威信を損なうこともまた事実だった。
「だが、このままでは……我々の国は滅びる。」
王の声は、痛切なまでの絶望に満ちていた。
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