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魔法の属性

 雷って光属性のイメージないけどなー、ゲームのイメージだけど。実際そう思ってる人達が使えてないんだし、間違いだよね?


 じゃあ何なのかって聞かれると困るし、魔法のことまだ詳しくないから、今のところは先生の話を聞いておこう。私だけが知ってるってのもなんかいいし。


「皆さんも話には聞いたことがあるかもしれませんが、魔法には火・水・風・土の基本四属性と上位属性があります。人類史において四属性以外の魔法が人間によって使用された記録は、勇者フルモ様が魔王を倒した時に使った光属性の魔法のみです」


 ほうほう、勇者フルモは雷以外にもなんか光っぽい魔法使ってたのかな?


「せんせー、勇者フルモは雷の他にどんな光魔法を使ってたんですか?」


 気になったことはどんどん質問していくぞ。恥ずかしがって黙ってると損するのは前世で嫌ってほど経験したからね!


「そうですね、記録によれば雷の他には火を用いずに明かりを生み出して暗闇を照らしたとされます」


 おお、いかにも光っぽい。でもちょっと待てよ?


「……もしかして、何か道具を使っていませんでしたか? 細い金属とか、竹とか」


 竹、と口にした途端、シルヴァニア先生の眉がぴくりと動いた。


「タケをご存知なのですか? この国でも一部の魔法学者しか知らない話なのですが、確かに勇者フルモ様はタケという植物を魔法で光らせていたそうです」


「すごい! 勇者様はそういうのを神様から教わったりするの?」


 アメリアが目を輝かせて聞いてきたので、曖昧な笑みを返しておく。しかし、やっぱり思った通りだ。フルモの暗闇を照らす魔法、あれは白熱電球の仕組みだ。エジソンが竹を使ってフィラメントを作ったってどこかで習ったのを覚えてる。詳しい原理はよくわからないけど。


 これでわかった。『光属性』は、電気だ! そして、これまでこの世界で生きてきた六年間で知っていること。この世界にはまだ電気を使う技術が存在していない。


 もしかして、勇者フルモって私と同じような転生者なんじゃ……?


 どうしよう、これ先生とかに教えた方がいいのかな? あー、もっと真面目に勉強していれば正しい知識を広められたのに!


 結局この日は基本の魔法属性について説明を受けて終わり、次の日にはさっそく実技に移ることを知らされた。


「やっぱり勇者様って色々と特別なんだね、いいなあ」


 授業が終わって寮に戻る帰り道、私はアメリアと二人で歩いていた。他の子は近づいてこないっていうか、アメリアに気を使ってる感じ。特に気にしてなかったけど、アメリアも上級貴族の令嬢なのかしら。


「全然よくないよ、私は荒事なんてしたくないもの」


 特別扱いされるのはいい気分だけど、魔王と戦えって言われるのはかなりキツい。しかも八人いるっていうし、いやフルモが一人倒したから七人か。


「お父様がよく言ってるわ、『力を持つ者は、それだけで大きな責任を負わされる。望もうと望まざるとに関わらず』って。クラリーヌは優しくて大人しい子だから、大変でしょう。私にできることがあればいつでも頼ってね」


 大人びたことを言う子だ。まだ六歳なのに。貴族の子達は物心ついた時から教育を受けているから、町の子供達よりずっとしっかりしている。思わずアメリアの頭を撫でてしまったけど、嫌がる様子はなかった。


◇◆◇


「モンペールベルク家ですか? 伯爵家ですが、家の格としてはロンド公爵家と同等だそうですよ。上級貴族は『上級貴族』という括りで、爵位による上下はあまりないとか」


「へー、下級貴族の中では爵位で上下とかあるの?」


 部屋に帰ってアンナに尋ねると、やはりアメリアの親は偉い人のようだった。


「こちらも建前上は下級貴族の括りで上下は無いことになっていますが、子爵の方が男爵より偉い扱いが一般的ですね」


 あー、中途半端な階級の人間ほど上下にこだわるよね。わかるわかる。


 ちなみに貴族の爵位は公・侯・伯・子・男の順で、伯爵から上が上級貴族、それらの上に王がいるという形だ。準貴族というのもいて、準男爵と騎士がある。庶民はその下というわけだ。


 その後は、明日の実技に向けて、前世で習った科学的な知識を思い出すことにした。


◇◆◇


 次の日、魔法実習用のエリアにやってきた。指導はシルヴァニア先生だけど、学院長も監督しに来ている。


「それでは、今日は一番イメージのしやすい火の魔法をやっていきましょう」


 火は結果がイメージしやすいからね。生徒達は各々自分に合った杖を持ってきている。私もこのためにお父様に買ってもらった樫の杖を持ってきた。これまで杖を使わずに雷を発射してたけど、気分の問題ってやつ。


「基本属性ならお前には負けないからな!」


 エイブリーが私に対抗心を燃やしている。いつの間にか、彼の後ろに付き従うように二人の男の子がいた。腰巾着ってやつね。お決まりのように「そうですよ、エイブリー様が最強です」とか言ってる。わりとどうでもいい。


「イメージするだけで魔法は使えますが、急に強いイメージを頭に浮かべるのは簡単ではありません。そのためイメージしやすいように呪文というものを唱えるのが一般的です。やってみましょう」


 おお、呪文! 呪文の詠唱ってカッコいいよね。シルヴァニア先生が離れたところにあるカカシの的に杖を向ける。


「赤き炎よ、敵を焼き尽くせ!」


 シルヴァニア先生の杖から派手な炎が吹き出してカカシにぶつかり、黒焦げにした。やったー!


「このように、呪文は具体的に魔法で引き起こす現象を思い浮かべやすくするために唱えるので、決まった言葉である必要はありません」


 なるほど、一字一句同じことを言う必要はないのね。まあイメージだけで使えるんだから当たり前か。


「では皆さんもやってみましょう」


 シルヴァニア先生に促され、生徒達が次々に火の魔法を使っていく。みんなシルヴァニア先生のような凄い炎は出せず、ちっちゃい火の玉を出すぐらいが精一杯だ。初心者なんてこんなもんだよね。


「フフン、俺が火の魔法を見せてやる!」


 自信満々なエイブリーが的の前に立つ。いや、さっき先生が見せてくれたけど。とりあえずお手並み拝見といきますか。これだけイキっててショボい火の玉を出したら笑う。


「炎よ、渦を巻け!」


 なぬ!? ここで手本と全然違う呪文とな。エイブリーが唱えた通りに、炎の渦がカカシの足元から発生して黒焦げにしながら上空へ伸び、少しして消えた。


「おー、凄い!」


 口だけじゃない、見事な魔法を見た私は素直に感心して拍手する。と、エイブリーはまた顔を真っ赤にして「フン!」と言ってそっぽを向いてしまった。


「クラリーヌ、エイブリーに負けないで!」


 アメリアが応援しつつ私に魔法を促す。別に勝負する気はないんだけどな……あと、みんなの魔法を見てて気になったことがあった。


 みんな何もないところから火を出してるよね。でもカカシを燃やすのが目的だったら、火であぶるより直接カカシを燃やした方がいいんじゃないかな。


 なんとなく、火というものを誤解してる気がする。


 あの目に見える赤い炎というのは、火の本質ではない。学校の実験で炎色反応とかやったし、バーナーの火は青かったり目に見えなかったりした。あの赤い光は、すすが火に当たって出す色だったような気がする。だから……。


「カカシよ、熱く燃え上がれ!」


 燃えるというのは、有機物が熱によって分解され炭素結合だけになり、結合に使っていたエネルギーを放出するような感じだったと思う。なのでそういうイメージを頭に浮かべる。くっついてる球状の分子達がバラバラになるイメージ。


 次の瞬間、カカシが光ったように見えた。


「いかん!!」


 それまで黙って見ていたシルヴォック学院長の上げた声が耳に届くのと同時に、視界が真っ赤に染まる。


 凄まじい爆風が発生した、と思う。爆発的に燃え上がったカカシから広がる炎が、見えない壁に阻まれて私の目の前で上空へと昇っていった。


「あわわわ……」


 思っていたより遥かに強力な炎が生まれ、危うく自分や他の子達をも巻き込みそうになったことで、私は恐怖したんだと思う。ただ、この時は何も考えられずに、呆然と荒れ狂う炎が空に上って消えていくのを見つめていた。


「クラリーヌ、大丈夫?」


 アメリアが差し伸べてくれた手を取った時、私は自分が尻もちをついていたことに気づいたのだった。


「なんという魔力……」


 シルヴァニア先生の呟きが耳に届いた。

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