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夢の実現に向けて

 魔法理論の授業を受けながら、私は新たな人生薔薇色計画を立てていた。


 まず第一に、エイブリーに雷の魔法を教えて勇者に仕立て上げる。


 第二に、なるべく偉い貴族の大人に媚を売って気に入られる。いっそ王族ならなおいい。


 第三に、私自身が魔法の制御を身につける。これができなきゃ、前世の知識を魔法に応用するのは無理ってことがよく分かった。


 これらを実現したら、エイブリーを持ち上げて魔王と戦わせつつ、大貴族のコネで安全なポジションに収まる。あとは前世の知識を利用した超魔法を使いまくって賢者生活を謳歌するのだ!


「クラリーヌさん、風の魔法は何をイメージしますか?」


 授業そっちのけで遠大な計画を練っていたら、シルヴァニア先生に当てられた。風かー。


 風ってのは、空気が流れてるわけよね。気圧が高いところから低いところに流れてる印象だけど、スケールの大きいことをイメージすると昨日のカカシみたいなことになるし……。


「空気を集めて発射します」


「!?」


 ザワつく教室。あれっ、なんか変なこと言った?


「風の元素を認識できているのか?」


「あの歳で物質としての空気の概念を理解しているとは……」


 見学してる大人達も困惑したように何やら言い合っている。どうやら発言内容が変なのではなく、この歳で理解しているのがおかしいってことらしい。小学生が微分積分を使い始めるようなもんか。


 でも、それならみんなはどんなイメージで風の魔法を使っているんだろう?


「クラリーヌって、誰からそういうの教わってるの? お父様?」


 アメリアが興味津々で聞いてくる。そんなことをする親はエイブリーの家ぐらいじゃないかな。


 さすがに前世の記憶と言うわけにもいかず、気がついたらそういう感覚を持っていたと説明した。嘘は言ってない。


「やはり勇者様は生まれつき特別なのだな」


 どこぞの太ったおっさんが言うのを耳にした。いや、そう思われると困る。エイブリーを身代わり勇者にする計画に支障が……。


「皆さんは手で自分の顔をあおいでみましょう。こんなふうに」


 シルヴァニア先生が自分の顔に向かって手をパタパタとやる。あーなるほど、確かにそれが風を起こす一番簡単な方法だわ。


 生徒達がキャッキャしながら自分や隣の子をあおいでいる。こうやって自分の起こした風を感じることで、風を起こすイメージが固まってくるそうだ。


 でも私が余計なことを言ったせいで、何人かの生徒は空気を集めることについて話している。ごめんね。


 それはそれとして、今回の件で私が魔法を制御できない理由がなんとなく分かってきた。みんなは魔法で引き起こす結果の状態をイメージするのに対して、私は自然現象が発生する理由の方をイメージしているんだ。結果をイメージしてないから、結果をコントロールすることができない。考えてみれば当たり前のことだ。


◇◆◇


 授業の後、私はエイブリーに話しかけた。計画の第一段階だ。


「ねえ、エイブリー。雷のイメージを教えてあげる」


「いらねえよ! お前なんかにものを教わってたまるか!」


 ええーっ! まさか拒否されるとは思わなかった。勇者になりたいんだったら飛びつくと思ったのに。


 顔を真っ赤にして走り去ったエイブリーの背中を見送りながら、私はどうやって雷の知識を伝えようかと考えを巡らせていた。


 その後もあの手この手でエイブリーに教えようとした。エイブリーに聞こえるように雷の仕組みを説明しようとしたり、ヒントを書いた紙をさりげなくエイブリーの机に置いたり。


 だが、それらは全て強硬に拒否されてしまった。意地でも私から教わりたくないらしい。


 なおアメリアや他の子達を身代わりにするつもりはない。ショボい火の玉しか出せないような子達に電気の概念が理解できるとも思えないし、理解できてもショボい静電気しか起こせなそうだし。


「エイブリー様、勇者から雷の魔法を教わりましょうよ」


 万策尽きて半ばあきらめつつ廊下を歩いていたら、エイブリーの腰巾着が彼を説得している現場を目撃した。物陰に隠れて様子をうかがう。


「そうですよ。人に教わったら勇者になれないなんて決まりはないんですし」


 もう一人の腰巾着も同意している。いいぞ、その調子だ!


「うるさいな、俺は自力で使えるようになりたいんだよ。そうじゃないと……」


 そうじゃないと?


「あーもう! そんなことよりお前らは自分の心配をしろ! 風の実習でもそよ風ぐらいしか出せなかっただろ」


 そうじゃないと何なの!? 話題をそらすんじゃないよ!


 風の実習か……火の時よりは上手くいったけど、空気を圧縮したボールを撃ち出すイメージでカカシに使ったら、粉々になって細かい藁が飛び散ったから掃除が大変だったのよね。


 エイブリーは突風でカカシを飛ばしてた。天才かな?


「クラリーヌみたいにとは言わないけど、せめてエイブリーぐらいの魔法を使えるようになりたいなあ」


 アメリアがそんなことを言い出した。たぶんアメリアや他の子達が普通で、エイブリーは異常だと思うよ。私の魔力が強いのは……あれだね、異世界転生したからだね。その手の漫画とか読んだことあるけど、だいたい凄い力を授かって大活躍してるからね。


 転生の女神みたいなのはまったく記憶にないけど、私のは単なるチート。ずる。


 だから、エイブリーだけが本物の天才なんだと思う。どうにかして雷を使わせられないかな……?

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