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魔王の話

 なにはともあれ、全員空気の盾を作り出して風の精霊の攻撃を防ぐことに成功した。


「皆さん服がボロボロですよ。私が直しますのでじっとしていてください」


 アンナが魔法で私達の服を直してくれた。治癒魔法では身体しか治せないから助かるー。


「よくやったね。分かってると思うけど、魔法での攻撃は多種多様だ。当然防御手段もそれに応じて変わってくる。なんでもかんでも空気の盾を出しておけばいいってもんじゃないよ。とはいえ、どんなときでも即座に空気を固体化させるのが一番効率がいい。今は意識してやってるけど、反射的に使えるぐらいに慣れておくようにね」


 うん、そうだよね。例えば私が火の魔法でカカシを爆発させたアレなんかはこの魔法じゃ防げない。いや、あれをどうやって防ぐのか自分でもさっぱりわからないけど。


「精霊様、私達が戦う魔王はどんな魔法を使ってくるのでしょうか」


 アメリアが重要な情報を聞き出そうとする。それが分かったら対策も練れていいと思うけど、そう簡単に分からないんじゃないの?


「ああ、魔王はそれぞれ一つの属性魔法を極めたスペシャリストだ。火の魔王ファイロは全てを焼き尽くす炎の使い手だし、水の魔法アクボは一つの国を水没させる大洪水を引き起こす。自分達が誰と戦うのかを決めて、しっかりと準備していけば勝算はあるだろうさ」


 おや、意外と倒しやすいのかな? よくゲームであるよね、対策せずに挑むと鬼のように強いけど対策すればあっさり倒せるボス。使う属性一つだけなら対策もしやすいね。


「では魔法の属性は八つあるということでしょうか?」


 エイブリー、そこに気付くとは天才か?


「どうだろうね。魔法はイメージの世界だ。仕組みを知り、正しくイメージできさえすればどんなことだって実現できるはず」


 ふーむ? 期待と違う答えだったけど、もしかしたら聞き方によって色々教えてもらえるのかも。


「八人の魔王、全員の名前と能力が分かったりしますか?」


 ムシのいい話だけど、精霊なら全て知っていてもおかしくないんじゃないかと予想した。全部分かっていればなんとかなるでしょ。


「分かるよ。倒せるイメージの湧く魔王に挑むといいさ」


 おお、有力情報ゲットだぜ! ところで魔王は一人倒せばいいんだよね? 全部倒せなんて言わないよね?


「火のファイロ、水のアクボ、土のテロン、風のヴェントス、雷のフルモ」


「えっ!?」


 聞いていた全員の口から驚愕の声が上がった。フルモって、魔王を倒した勇者の名前でしょ? しかも雷って……。


「フルモ!? 勇者フルモが雷の魔王なんですか」


「ああ、そうさ。確かに二百年前、勇者フルモは虚無の魔王マルプレーノを倒した」


「虚無の魔王?」


 なにその属性。無属性ってやつ?


「あらゆるものを消し去る魔法の使い手だった。人間からは闇って呼ばれてたね」


 ああ、闇。確かに『闇』という元素は存在しないよね。光がないことを闇って言うんだし。


「それなのに、なんで勇者が魔王になってしまったんですか?」


 エイブリーが必死な顔で聞く。勇者に憧れてた子にはかなりショックな話だろう。私もさすがに驚いた。この流れだと魔王は今も八人いるよね。困る。


「魔王を倒した勇者は、人間達からどういう扱いを受けると思う?」


「どういうって……英雄として崇められるのでは」


 あ、なんか察した。人間ってのはそんなに善良なもんじゃないからね。勇者フルモは人間に絶望して闇落ちしたんだ。


「違うね。他の七人も倒せとせっつかれたり、恐れられたりした」


 ですよねー。


「他の魔王も倒せって言われるのはわかるけど、なんで恐れられるんですか?」


 世の中の厳しさを知らない六歳児のエイブリーとアメリアは納得できない様子。それに対してアルスとアンナは冷めた目をしている。『知ってた』ってやつ。


「魔王を倒せるってことは魔王より強いってことだろ。そもそも魔王は積極的に人間を襲ったりしていないのに、強くて友好的でないというだけで倒すべき敵として恐れられているんだ。人間の立場からすれば、言うことを聞かない勇者は魔王と同じかそれ以上の敵でしかないってわけさ」


 あ、やっぱり魔王はそんなに攻めてきたりしないんだ。シルヴァニア先生もそんなこと言ってたし、これまでも平和だったもんね。


「そんなわけで、フルモは人間社会と距離を取り雷の魔王になった。満足したかい?」


「それで、あと三人の魔王は?」


 なんかうやむやに終わりそうな気配を感じたので、残りの魔王の情報も忘れずに聞いておく。風の精霊は「ちゃんと忘れてなかったね」と悪戯っぽく笑った。当たり前よ、私にとっては昔の話とかどうでもいいもん。


「重力のペゾフォルト、時のホロ、治癒のテラピオで全員さ」


 重力に時……強キャラの匂いしかしない。パス確定。


「治癒の魔王って、倒す必要あるの?」


「さあね。そもそもどの魔王も害がないなら倒さなくていいんじゃないかい?」


 そりゃそうだ。


「私が教えられることは教えたよ。次の目的地に向かうといい」


 そう言うと、風の精霊はまた竜巻を起こして姿を消してしまった。


「ありがとうございました!」


 とりあえずみんなで谷に向かってお礼を言うと、今後のことを話し合うことにする。


「次の目的地の前に、どの魔王を倒すか決めとく?」


 どうせ行き先はアルス辺りが知ってるだろうから、風の精霊から得られた情報をもとに今後の方針を決めておきたい。するとアメリアが手を上げた。珍しいね、エイブリーより先に発言するなんて。


「気になったんだけど、勇者フルモって人間だったはずよね? なんで二百年経っても生きてるのかな」


 ほんとだ! 魔王って魔物じゃなく魔術の王らしいけど、いったいどういう生き物なんだろ?


「魔法で歳を取らないとか?」


「幽霊みたいなものかもしれない」


「魂を人形のようなものに移し替えるという手もありますよ」


 ワイワイと予想を述べていく。まったく建設的ではないけどなんだか盛り上がってしまった。

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