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いつもと同じ夢

「エミル! いつまで寝てるの!? 早く起きなさい!」


 朝からがなり声を立て、俺の身体をゆするのは、聞きなじみのある懐かしい声。


 うるさいな……。休みの日ぐらいゆっくり寝させてくれ……。


「アンタが海に行きたいなんて言うから、せっかく有休取ったのに……」


 もうガキじゃないんだ……。海ぐらい自分で行けらぁ……。


 俺が起きるのを渋っていると、声の主が口調を変えた。


「ダメですよ? ドクターはもうのものなんですから。は消えてください?」


 誰だ……は……?


 だけど声。でありでもある声が入り混じり、俺の情緒をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。


「そう……。だからとは来てくれないってことなのね」


 いや……ちが……。


「ドクターが好きなのはなんです」


 おい、勝手なことを言うな……。俺が本当に好きなのは……


「さよなら。エミル」


 ああ……待ってくれ……。


 ***


「エイミー!!! ……また夢か……」


 朝6時。目が覚めた。目覚めは最悪。いつもと同じ、あの夢のせいだ。我ながら毎日毎日飽きもせず、見たくもないのに同じ夢ばかり見せられるものだ。


「おはようございます、ドクター。ひどくうなされていたようでしたが、大丈夫ですか?」


 寝起きでぼやける視界に最初に入ってきたのは、夢にまでみたあの顔……と同じ顔。


 反射的に彼女のことを睨みつけそうになるところを、目覚めたての理性が押しとどめる。彼女に罪は無い。そんなことは分かっているつもりだ。


「……いつもと同じ夢だ。心配いらない」


「そうですか……」


「そんなことよりも、今日はオペの日だろう。早く行くぞ」


「ですが、ドクター。朝食は……?」


「いらん」


 我ながら酷い八つ当たりだとは自覚している。これでは、思い通りにいかなくて癇癪を起こすガキと何ら変わらない。いや、むしろガキに失礼かもな・・・・・・。


 彼女はというと、せっかく用意してくれていた、皿の上のクロックムッシュを片づけようとしているところだった。の下手くそなクロックマダムもどきと違って、ホワイトソースのいい香りが鼻腔をくすぐる。きっと朝早くから用意してくれていたのだろう。


「……帰ってから食べる。そのままにしておけ」


「はい、わかりました」


「・・・・・・先に行ってるからな。さっさと来いよ」


 嘘だ。できるだけ遅ければ遅いほどいい。その方があの顔を拝まずに済んで、精神衛生上いいからだ。


 その実、特段急ぐ必要すらもないのだ。患者が行動を開始するであろう昼過ぎまでは、まだいくらでも時間は余っている。こんな時間から向かったって、あの辺には冒険者ギルド以外には何も無い。むしろ、何もすることが無くて暇になってしょうがないくらいだろう。


 だがそれでも、俺はわざと彼女を置き去りにして、患者が現れるであろう冒険者ギルド前の大通りへと、無駄な急ぎ足で歩いて向かった。


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