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第27話 私にも使える魔法があるんですか!?


 シリウス様の執務室を訪ねた私は、シリウス様の真横に椅子を置いて、そこに座った。


「愛するシリウス様はお仕事姿もカッコイイですね」


「……今日の勉強は終わったのか?」


「今日の範囲どころか、リアに教えられる範囲は全て終わったそうです」


「よくやった。しかし学びに終わりはない。学べば学ぶほどさらなる学問が待っている」


「それじゃあ一生終わらないじゃないですか」


 私と話している間も、シリウス様は机の上に置かれた水晶玉から目を離さない。

 普段は私の目を見て会話をしてくれるから、単に仕事熱心な性格なのだろう。


「シリウス様は今、何をしているんですか?」


「種を蒔いたゆえ待っている」


「種? 何かの栽培をしているんですか?」


「復讐の種だ。こう見えて余は死神だからな」


 言いながらシリウス様は目の前の水晶玉を眺めている。

 横から覗き込んでみると、どこかの屋敷の一室が映っていた。部屋には汚れた服を着た少年が座っているようだ。


「覗き見は趣味が悪いですよ?」


「余の覗き見のおかげで、そなたは助かったのだぞ」


「覗き見最高!」


 そう言って私はシリウス様に抱きついた。

 どんなに小さなことでも「シリウス様抱きつきチャンス」に変えるのが、最近の私の特技だ。


「まあ、そなたの場合は、リアに頼まれたことが大きいが」


 その節はリアに大変感謝をしております。


 むしろシリウス様が私の家を覗き見していたことを、たった今知った。

 私はシリウス様に見られている間、変なことをしていなかっただろうか。


「シリウス様はどこでも好きな家が覗き見できるんですか?」


 そうだとしたら覗きたい放題……いや、シリウス様はそんな低俗なことはしない……しないはず……きっとしない……しない、かな?

 出来心で令嬢の着替えを覗いてたら嫌だなぁ。


 そんな私の心の声を知ってか知らずか、シリウス様は首を横に振った。


「そこまで都合のいい魔法ではない。余の遠方視魔法は受信するためのアンテナがいる。その役目を担っているのが蜘蛛の使用人たちだ」


 よかったぁ!

 いつでも好きな場所を覗けるわけではないらしい。

 蜘蛛の使用人に、令嬢の着替えが見えるようにアンテナを張れと指示をしたら覗けはするが、さすがに蜘蛛の使用人がシリウス様に注意をしてくれるだろう。

 ……ん? 蜘蛛の使用人?


「私のいた倉庫にも、蜘蛛の使用人がいたんですか?」


「ああ。そなたは気付かなかったようだが」


「倉庫には蜘蛛がいっぱいいましたから。区別が付きませんよ」


 私はシリウス様の首元に回していた腕を、勝手にシリウス様の懐に入れ、杖を取り出した。

 シリウス様は黙ってされるがままになっている。


 ここまでされて全く動揺しないとは、私のことを意識していないにもほどがある。

 何だか悲しくなってきた。


「私も練習したら、シリウス様の部屋を覗けたりしますか?」


「魔法は元々の魔力量が関係している。そなたには向いていない」


「やっぱり私には魔力が無いんですか。手取り足取り教えてもらおうと思ったのに」


 知識とは違い、魔力は増えるものではないらしい。

 視力とか聴力に近いものなのかもしれない。


「無いわけではない。そなたにもごく少量は魔力がある。しかし使用には適していない。起こせて静電気がいいところだろう」


「役に立ちませんね」


 せっかく身近に魔法の得意なシリウス様がいるのに、魔法を教えてもらうことが出来ないなんてもったいない。

 私もシリウス様みたいに、謎の発明品を生み出してみたかったのに。

 それなら、せめて。


「静電気を起こす魔法を教えてください」


「腕を振り回してから、静電気を起こすイメージを強く持ち、対象を触る」


「……なんか魔法っぽくないんですけど!?」


 杖を振って不思議な現象を起こすのが魔法だと思っていたのに、あまりにも地味だ。


「魔力量の多い家系なら、五歳で学ぶ魔法だからな」


「それが私の限界なんですか……」


「こればかりは持って生まれたものだ。諦めよ」


 シリウス様は、私の手から杖を取り返すと、また懐にしまった。


「分かりました。魔法は諦めるので、代わりにシリウス様のことを教えてください」


「余のこと?」


 魔法を教わることを諦める代わりにシリウス様のことを教えろというのはおかしな要求だが、言ってみるのは無料だ。


「一緒に城で暮らしているのに、シリウス様自身のことは全然教えてくれないんですもん」


「何が知りたい」


 私のおかしな要求は、即答で断られることはなかった。

 だから、この機会に思い切って聞いてみることにした。

 ずっと気になっていたものの、なかなか聞くことの出来なかったあの人の話を。


「……シャーロット様」


 私が直球でこの名前を告げると、シリウス様は水晶玉から目を離して、驚いた様子で私のことを見た。


 私はシリウス様が姿絵をすべて燃やしたという三代目聖女シャーロット様のことが、ずっと気になっていた。

 これまでにもやんわりと聞いてみたが、そのたびに誤魔化されたり、話を変えられたりしていた。

 これはもう直球で聞くしかないと思って機会をうかがっていたのだ。


「その名前をどこで」


「四年もこの城にいれば耳にもします。三代目聖女様なんて大きな存在を、隠せるわけがありませんから」


「……そうか。いつか知るとは思っていたが、シャーロットが誰なのかも知っているのだな」


「はい。シリウス様がシャーロット様を憎んでいることも知っています」


 シリウス様の目が驚愕で見開かれた。

 自分がシャーロット様を憎んでいることは隠しきれていると考えていたのだろう。


「……そなたもだいぶ成長した。話すときが来たのかもしれない」


「ええ、教えてください」


 聞いたが最後、後戻りできなくなるとしても、私は知りたい。

 私を助けてくれたシリウス様のことを。

 大好きなシリウス様のことを。


 昔は単なる興味だったが、今はシリウス様のことをしっかりと理解したいのだ。

 シリウス様の過去を理解して、すべてを受け止めたい。




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