狩猟大会当日。
狩猟大会はつつがなく開催され、山のように動物が狩られた。
そして多くの獲物を入手した数人が、表彰式で賞を授かっていた。
しかし俺たちはその様子を遠くからちらりと見るのみだった。
何故なら、表彰式の隙を狙って、俺とマリアンヌは狩られた動物たちの近くに移動していたからだ。
動物たちの周りには警備兵のような人間が数人いたが、貴族の集まりのため守るべき人間が多いのか、警備兵たちは狩られた動物ではなく授賞式の方を監視しているようだった。
人間ではなく動物の方を狙っている俺たちにとっては好都合だ。
「なあ、マリアンヌ。死んだばかりじゃなくても、“生を司る能力”は有効なのか?」
「どうかしら。やってみないと分からないわ」
「有効だといいな。そうじゃなかったら、誰かが死ぬ瞬間にその場にいないといけないことになる」
そうなれば、“生を司る能力”を使うハードルは爆上がりだ。
同じ考えに至ったのだろうマリアンヌは、難しい顔をしながら動物たちに向けて両手をかざした。
「お願い、生き返って!」
警備兵に聞こえないよう小声で、しかし叫ぶような声色で、マリアンヌが祈った。
マリアンヌの手からは、特に光や風のようなものは出ていない。
そのおかげもあって、警備兵たちは俺たちの存在にまだ気付いていないようだった。
俺が周囲を警戒しているそのとき、マリアンヌが歓喜の声を上げた。
「わあ、生き返ったわ!」
「そんな簡単に!?」
拍子抜けするほど容易く、マリアンヌは狩りで死んでしまった動物たちを生き返らせたのだ。
その後の狩猟大会は、大パニックだった。
ある者は「この森は呪われている」と叫びながら森を飛び出し、ある者は天に向かって祈りを捧げ始め、ある者は生き返った動物に襲撃を受け、ある者は生き返った動物をもう一度捕獲しようと奮闘していた。
そして混乱した人間や動物たちが、射って、斬って、噛み付いて。
地獄絵図とはこのことだと思った。
「どうしよう」
「俺たちのせい、だよな」
「狩猟大会で狩られた以上に、死傷者が出てしまった気がするわ」
そして今もなお死傷者が出続けている。
俺たちが何もしなかった場合の倍は、魂が冥界に行くことになるだろう。
「……とりあえず、もう一回、生き返らせればいいかしら」
「混乱で暴れないように、足を縛ってから生き返らせよう」
「そうね。あと可哀想だけど、獰猛な動物は生き返らせるのをやめましょう」
俺たちは狩猟大会のテントにそっと近づき、中からロープを取り出すと、倒れている人の足首に巻き付けて縛った。
中には俺たちに気付いた人もいたが、襲い来る猛獣への対処で手一杯なのか、俺たちに構う余裕は無さそうだった。
「まずは温厚そうな小動物を生き返らせるわね」
「ああ。動物たちが逃げたら、次は人間を頼む」
きっとこの先、この日のことを忘れることはないだろう。
俺たちの軽率な行動のせいで、大量の死者が出てしまった……正確には生き返らせたから、死者にはならなかったが。
この事件について、人間たちは「この森は呪われている」という納得の仕方をしたらしい。
それ以外に納得できる理由が見つからなかったのだろう。
「こんな地獄絵図にするつもりはなかったのになあ」
「私だってそうよ。この力は危険だわ」
「力を使う際には、時と場合を考えないといけないみたいだな」
俺たちは当たり前のことに、失敗してからやっと気付いた。