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第71話 見つけた


「シリウス様、イザベラお姉様の髪飾りって……」


 部屋の扉を開けると、すでにシリウス様は髪飾りを作ってはいなかった。

 今はひたすら宝石の原石を研磨しているようだ。

 床には輝く宝石と、これから輝く予定の原石が散らばっている。


「髪飾りは完成している。持って行くといい」


「さすがはシリウス様です!」


 シリウス様の指差した先には、小さな箱が置かれていた。

 そっと箱を開けると、中に入っていたのは。


「うわぁ、綺麗……」


 箱に入っていた髪飾りは、金色の葉が重なったデザインで、実を思わせる緑色の宝石がいくつも散りばめられている。

 派手すぎず地味すぎず、プレゼントとしても重すぎず軽すぎず。


「シリウス様がこんなに丁度いいものを作ってくださるとは思いませんでした!」


「そなたは余のことを何だと思っている」


 世間ズレした人だと思ってました、ハイ。


 正直、貰う側が躊躇するような豪華絢爛な髪飾りが出来上がると思っていた。

 この店に並んでいるアクセサリーを見る限り、趣味は悪くないが、シリウス様はたまに豪快だから……。

 林檎を買う感覚で店を買うから……。


 とにかく。

 シリウス様は、私の欲しかったものをそのまま具現化したかのような髪飾りを作ってくれた。


「シリウス様、ありがとうございます!」


 私は髪飾りの入った箱を手に、部屋を出た。

 これならきっと、イザベラお姉様も喜んでくれるはず!




「ちょっとクレア。急に消えたからどうしたのかと思ったじゃない」


「すみません。声をかけそびれてしまって」


 私が店内に戻ると、二人のイチャイチャは終わっていた。

 しかし店員である私がいなくなっていたため、店を無人にすることも出来ず店内にとどまってくれていたようだ。


「妹さんが来たから、もう店を出ても平気かな?」


「アンディー、この後はどこへ行こうかしら」


「流行りのケーキを食べるのはどうだろう」


「いいわね!」


 店を出てデートを楽しもうとしている二人に時間を消費させるのは悪いと思いつつ、私は二人を引き留めた。


「あの、ちょっとだけ待ってください。イザベラお姉様に渡したいものがあって」


「渡したいもの?」


「えっと、これを……」


 私が箱を手渡そうとすると、イザベラお姉様は自身のバッグを漁り始めた。


「それを買えって? 別にいいけれど。いくら?」


 勘違いをしてお金を払おうとするイザベラお姉様を慌てて止めた。


「いいえ。これは、イザベラお姉様へのプレゼントです」


「プレゼント?」


「私を助けようとしてくれたお礼です」


 私の言葉に、イザベラお姉様は若干顔を曇らせた。


「別にお礼が欲しくてやったことじゃないわ。第一、上手く出来なかったし……」


「それでもいいんです。嬉しかったので」


 私が満面の笑みでそう言っても、イザベラお姉様の表情が晴れることはなかった。


「あんたは良いように解釈しているみたいだけれど、あたしはあんたよりも自分を優先したのよ」


「自分を大事にするのは、良いことだと思います」


「あんたねえ……あの状況で自分を優先するのは、決して良いことじゃないわよ」


 確かにイザベラお姉様の行動は、最善ではなかったのかもしれない。

 でもあのときのイザベラお姉様は、何の力もない十六歳の令嬢だった。

 そんな彼女に、最善を求める方がおかしい。


「あたしは、良い姉じゃなかった」


「それでもいいんです。それでも、私は感謝しているんです」


 私がイザベラお姉様の手を取って、手のひらの上に箱を置こうとすると、イザベラお姉様は急いで手を引っ込めた。


「感謝される覚えはないわ。プレゼントなんかいらないわよ」


「私が渡したいんです」


「いらないったら!」


 断固としてプレゼントの受け取りを拒否するイザベラお姉様の肩を、アンドリューさんがそっと叩いた。


「妹さんが渡したいと言っているのだから、貰ったらいいんじゃないか?」


「アンドリューさん、話が分かりますね!」


 援軍の登場に私が喜ぶと、イザベラお姉様はアンドリューさんのお腹を強めに殴った。


「助け船はあたしに出してよ!?」


「人の厚意はありがたく受け取った方が、世の中上手く回ると思うぞ」


 アンドリューさんはイザベラお姉様の拳など気にもしていない様子で、イザベラお姉様をなだめている。

 アンドリューさんがたくましいことが理由で付き合ったわけではないとイザベラお姉様は言っていたが、たくましくないとイザベラお姉様とは付き合い続けられない気がする。


「……ああもう、分かったわよ。貰えばいいんでしょ、貰えば!」


「はい!」


 二対一で旗色が悪いと思ったのか、ついにイザベラお姉様は折れてくれた。

 私から箱を受け取り、ふたを開ける。


「……あら。綺麗な髪飾りね。センスがいいわ」


「本当だ。イザベラに似合いそうだな」


「絶対、イザベラお姉様に似合いますよ」


 アンドリューさんと私に、プレゼントの髪飾りが似合いそうと言われたイザベラお姉様は、少し照れくさそうにしながら髪飾りに手を伸ばした。

 この場で髪に付けるつもりなのだろう。


 しかし。


 イザベラお姉様が髪飾りに触れた瞬間、眩いばかりの光が放たれた。


「ええーーーーーっ!?!?」




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