「いーいーなーあーーー!!」
私は水晶玉に映るイザベラお姉様とアンドリューさんを見て、暴れ回った。
「私もプロポーズされたい! 抱き締められたい! 鬱陶しいくらいに愛されたい!」
要求するような目で、水晶玉に魔力を送っているシリウス様を見た。
私にプロポーズしてくれないかなあ?
「余を見られても困る」
「私はシリウス様に愛されたいんですもん」
シリウス様以外にプロポーズをされても、私の返事はお断り一択だ。
どこの国の王様でもカッコ良くても頭が良くても金持ちでも、ごめんなさいと言う自信がある。
「余は、誰かを愛する予定はない」
「愛は予定をぶち壊すものですよ。予定に無かったのに私を愛しちゃうんですよ、シリウス様は」
「余の未来を勝手に決めないでほしい」
「愛とはそういうものですから」
実際に私がそうだった。
四年前はシリウス様にベタ惚れになる予定なんて一ミリも無かった。
「そういうもの……だよなあ」
「へ? 何か言いました?」
「何も言っていない」
私が記憶を遡っている間にシリウス様が何かを言ったが、聞き返したら否定されてしまった。
まあいいか。
「ねえ、シリウス様。来たるべき未来のために、予行練習しません? プロポーズごっこをしましょう!」
「だから余の未来を勝手に決めないでほしい」
「さあ、私にプロポーズをしてください!」
私は両手を広げてシリウス様を待った。
アンドリューさんのように立膝でプロポーズしてもいいし、抱き締めてのプロポーズもいい。
シリウス様にされるのなら、どんなプロポーズだって大歓迎だ。
「断る。そなたにはまだ早い」
案の定、シリウス様はプロポーズごっこを断ってきたが、そんなことで挫ける私ではない。
「じゃあ逆に、私がシリウス様にプロポーズをしますね!」
「そなたが?」
「プロポーズとは、愛する相手にするものですから。女がしてはいけないという法律はありません」
一般的ではないが。
しかしシリウス様と私の間に一般を持ち込むのもおかしい気がする。
だから、これはこれでアリだ。
「これから私がプロポーズをするので、シリウス様は口に手をやって感動している様子を表現してくださいね」
「余も何かするのか」
「当然です。プロポーズをしたのに反応が返ってこなかったら、いくら私でも落ち込んでしまいますから」
無視は断られるよりも辛い。
……やっぱり嘘。
断られるのも辛い。
「いいですか、ごっこ遊びですからね!? ごっこ遊びなのに断るのはナシですよ!?」
「余はそのごっこ遊びに加わりたくないのだが」
プロポーズごっこを渋るシリウス様の前で人差し指を振る。
「シリウス様。あれも駄目これも駄目では、子どもは育ちませんよ」
「いつもは子ども扱いをすると拗ねるくせに、こういうときだけは子どもになるのだな」
「どちらとも取れる年齢ですからね、私」
「都合の良い年齢だな」
私は両手を腰に当てて、頬を膨らませた。
「んもう。シリウス様は私にプロポーズされてみたくはないんですか!? 自分で言うのもなんですが、私、結構可愛いと思うんですけど!」
「う、うーむ……」
「うーむ、ってなんですか。自信を削ぐ反応をしないでください! ああ、そういえばシリウス様は自分以外の顔はドングリの背比べだと思ってるんでしたね」
「ドングリよりは、だいぶ可愛いと……思うが……」
「ドングリと比べられても嬉しくないですよ!」
ドングリ云々は私から持ち出した話だが、ドングリより可愛いと言われても微妙だ。
どうせなら、世界で一番可愛いと言ってほしい。
「嬉しくなかったか……そうか……」
「? とにかく、プロポーズごっこをしますよ!」
私はなかなかプロポーズごっこをしようとしてくれないシリウス様の腕を引っ張って、強制的に立たせた。
「はい、シリウス様はそこに立っていてくださいね」
そして私はシリウス様の目の前で立膝をつく。
「シリウス様。あなたを愛しています。どうか私と結婚してください」
「それはどうも」
それはどうも!?
「ちょっとシリウス様! もっと感動してくださいよ。それじゃあまるで、プロポーズされ慣れている魔性の女みたいですよ!?」
「魔性の女」
どうやら魔性の女扱いは嫌なようだ。
シリウス様は口に手をやってショックを受けている。
口に手を当てるのは、プロポーズを受けた返事でやってくれとお願いしたのに。